表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
103/131

それぞれの思惑

 東京湾外縁、仮説電波灯台跡には3つの人工島がある。それぞれには地対獣ミサイル、『スティンガー』をはじめとした防衛設備が設置され、海棲型怪獣の侵入を防いでいた。その内の一つであるC島に、赤本はいた。

『オブジェクト接近中、所定の場所で待機せよ』

 赤本の無線にそう声が響く。隊長である出雲のものだ。赤本は部下にハンドサインを送ると、拳銃の安全装置を外す。赤本たちがいたのは、島の船着場にある倉庫の扉の前であった。後ろには狛江主任をはじめとした政府関係者や怪獣の専門家などが集まり、"それ"の到着を待っている。

 しばらくしてヘリコプターのバタバタという音が聞こえ始め、そして倉庫の鋼鉄の扉がゆっくりと開いた。そこには、今まさにヘリポートに着陸しようとしているオスプレイがいた。さらにその奥の海上には、滅多に出撃しない自衛隊の護衛艦と戦闘機の編隊がこのオスプレイだけを監視している。

(世界初のコアの輸送だ。さすがに物々しいな……)

 赤本はそう思いながらも周囲の安全を確認する。赤本たち怪人特務処理班の役目は怪人からの護衛であった。

(異常は今の所なし。後ろの関係者たちも全員、怪人検査をクリアしてる)

 問題は無い。そのはずだった。着陸したオスプレイのハッチが開くその時までは。

「……は?」

 思わず赤本はそう呟いた。赤本の視線の先には、中韓連合の兵士を連れて、近未来的なコンテナと一緒に降りる1人の少女がいた。その少女を、赤本は知っていた。

(レストア?)

 赤本はその場から駆け出したいのを必死に我慢していた。心臓の鼓動が早まる。その右手は安全装置を外したグロックを握っている。そして、吹き付ける強風に髪を抑える少女と目が合った。

(東雲さんの仇…!)

 赤本がグロックを抜こうとしたその時、後ろにいた狛江主任がその少女に向かって言った。

「初めまして、シュウ・ミンジュ博士!」

 赤本はグロックから手を離す。

(シュウ・ミンジュだと?)

 シュウ博士は狛江の挨拶にぺこりと頭を下げると、赤本の横を通り狛江と握手をした。

「こちらこそ、初めまして。狛江主任」

「これは驚いた。日本語がお上手ですね」

「一時期日本に住んでいましたから」

 シュウはそう言って微笑む。そこにはレストアの面影は全く感じられなかった。

(どういうことだ?)

 赤本の疑念をよそに、コンテナが倉庫へと運ばれてくる。

「それが輸送用の外殻ですか」

「はい。特定の手段を経ないと開かないようになっています」

「それは結構。早速地下に運ばせましょう」

 狛江はシュウ博士を政府関係者に任せ、赤本の元に歩いてくる。そして赤本の横に立つと言った。

「赤本隊員、少し手を貸してくれないかな」

「自分は任務中であります。隊長以外の命令は……」

 赤本の返答に、狛江は小声で囁いた。

「あれはレストアではないよ。正真正銘人間だ」

「……!」

「いや、焦ったよ。君、彼女を殺そうとしていただろ?そんな事をされれば外交問題だからね」

「………」

「とにかく、彼女はレストアじゃない。おそらく素体としての適性の高かった彼女を廃棄せずに再利用したんだろうね。そう考えると、やっぱり殺した方が良かったかもしれない」

 赤本は横目で狛江を見る。

「なんだよ。僕はただ、中途半端にならずに君の誤解を解きたかっただけだ。君は戦力になるからね」

 そして狛江は赤本の肩を叩いてコンテナの方はへと向かう。狛江は言った。

「あと、彼女の年齢は30歳だ。見た目で判断しない方がいい」


 それから12時間後、中韓連合から譲渡されたコア一基の配備が完了した。赤本は怪人特務処理班のオフィスのある地球防衛省のフロアの喫煙室で煙草をふかしていた。隣には出雲がいる。出雲は電子タバコ片手に言う。

「それで、何の話だ」

「……今回の譲渡の件で、少し」

「だろうな。あれは胡散臭すぎる。なのに議員連中、あんなに簡単に通しやがって」

 出雲はそう言って電子タバコをふかす。赤本は尋ねた。

「あの博士、シュウ博士の素性は分かりますか?」

「もう公安が全部洗ったよ。ただの見た目が若くて日本好きな天才博士だったらしい」

「怪しい点は無しですか」

 出雲は頷く。

「神獣協会との関係も認められなかった。ほぼほぼシロだ。ただ……」

「ただ?」

 出雲は煙草をしまうと、もたれていた壁から体を起こす。

「親が少し怪しい。特に父親は一度、消息不明になってる」


 中国の上海に向かうオスプレイの機内で、シュウ博士は電話をかけていた。

『はい、もしもし』

「聞こえる?"お父さん"」

『……ああ、よく聞こえるよ。今日も仕事は上手くやれたかい?』

「もちろん。お父さんの言うとおりにしたら、上手くいったわ。狛江主任が面倒だったけど、『ユニットシェル』は動作したし」

『それは良かった。さすがは自慢の娘だよ』

「ありがと。帰ったらゆっくりお話聞かせてあげるね?」

『ああ、楽しみにしてる』

 シュウ博士の様子に、同乗していた兵士たちは小声で話し合う。

「おい、あれ。博士は誰と話してんだ」

「お前知らないのか?実はシュウ博士はファザコンなんだよ。だから相手は父親だ」

「へえ、そりゃまたなんで」

「博士が子供の頃に行方不明になったらしいんだよ」

 同僚の答えに、兵士は違和感を覚えた。

「……でもよ、それなら残った母親の方に懐かねえか?」


 その頃、上海にある高層ビルのある一室で、男が電話を切っていた。男はソファに座ると、そばに控えていた部下がグラスにワインを注ぐ。

「ふう、疲れるね。適当でも父の振りをするというのは」

 男はそう言いつつテーブルに置かれたグラスを取ると、それを傾ける。

「これは……ロマネ・コンティの1960かな?」

「マルゴーの2000です」

 男はため息を吐く。

「どうも兄のようにはいかないね……」

 そしてワインを下げさせると部下に言った。

「コアの配備状況は?」

「予定通り、東京に2基配備が完了。ユニットシェルも問題なく動作しています」

「それは良かった。立川の制御装置のおかげかな」

(ユニットシェルに組み込まれた素体の脳波は、検査機械に通しても反応しない)

 そして男は呟く。

「それにしても、我々に対する考えが古すぎるといわざるをえないな。長良という男は、出羽とは違い怪獣のなんたるかを知らないらしい」

 怪獣とは、人を殺すという本能にのみ従う、理性なき獣ではない。それは、コアが不完全な者がなるエラーのようなもの。

「怪獣とは、本来我々のあるべき姿だ。その支配者たるに相応しい体躯と明確な意思でもって、蟻のように地面を這い、我らが星を覆う害虫の悉くを踏み潰す。そして僕は今度こそ、この星の支配者に、皇帝になる」

 準備はもうあと少しで完了する。アシュキルは、部下に言った。

「北極の怪獣を南下させる準備をしろ」

「は、」

 アシュキルはソファから立ち上がると、スーツの襟を正して部屋を後にした。目的地は春麗グループ本社であった。


「ぴったり時間通りだ。器用な男だな、君は」

「少し用事がこんでおりまして、ワンCEO」

 春麗グループ本社、春麗タワーの最上階である115階の応接室で、アシュキルはワンCEOにジロリと睨まれていた。

「……もし遅れでもしていたら、どうなっていたか分かるよな?レコアトル皇太子」

「申し訳ありません。ですが、我々の計画は大きく進みました」

 アシュキルは部下のノシカトカルにタブレットを取り出させると、その画面をワンに見せた。

「……これは?」

「日本のコア格納室の監視カメラ映像です」

「ほう。ハッキングか」

(驚かないか)

「コア本体ではなく、それを保護する殻に細工を施しました。そちらから提供して頂いた圧縮素体を内蔵し、さらにナノマシンによる電子工作も可能です」

 それにワンは少し考えて言った。

「……他には何に使える?」

「例えば、爆撃機から重要目標へ投下するなど出来ます」

「核と概ね同じ運用方法か。政府の高官どもは湧いて喜ぶだろうな。我々中国が33年間保管してきたコアに、使い道ができたのだから」

 世界の覇権、その言葉がその場にいる全員の頭をよぎる。

(そうはさせない。人類はみな等しく滅ぼすのだから)

(この古代人をうまく利用すれば、俺が世界の頂点に立つことも可能、か。さて、どうしてやろうか)

 アシュキルは言う。

「……では、コアの配備が終わり次第、"始め"させていただきます。よろしいですね」

「構わんよ。政府には俺から話す」

 そして2人は笑った。それぞれの思惑を胸に秘めて。


 それから2週間後、ついにコアの日本全土への配備が完了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ