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怪獣特殊処理班ミナモト  作者: kamino
第4章 汚染大陸
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1年後

 ニューヨークで起きた怪人と怪獣による大規模な破壊活動。あれから1年が経とうとしていた。アメリカの株価はリーマンショック以来の大暴落。国力は半分に低下し、世界の勢力図は大きく変わろうとしていた。

「おはようございます……って、また赤本さんはいないんですか?」

 源は特殊処理班のデスクで、隣の席を見ながらそう言った。それに諏訪部が答える。

「まーね。最近増えてるらしいよ、"通報"」

「怪人の目撃情報、ですか。そんなしょっちゅう発見されるわけないのに……」

 源はため息をつく。ニューヨークでの一件から、世界的に無害とされてきた怪人の脅威が知れ渡るようになっていたのだ。それによる社会的な混乱を受け、日本では専用の電話窓口を設置。その対応にあたるのは、警察と赤本の所属する怪人特務処理班であった。

「まあ。ただでさえ景気が落ち込んでんのに、そこに怪人だ。不安になる気持ちも分かるけどな」

 神田が言う。

「その代わり、怪獣の出現頻度は激減したけどね」

「今年に入ってから2体しか浄化してませんしね。不自然なくらい少ない……」

 源は答える。デスクルームには、なんとも微妙な空気が漂っていた。その時、ガチャリと扉の開く音がする。なにやら騒々しい。

「また私のマグカップ割ったんですか!?」

「だから勝手に割れたんだっつーの」

 そう言い合いながら白石とカナの2人が入ってくる。

「あ、源君。ちょっと聞いてよ!」

 白石は源に声をかける。

「おい。こいつは関係ないだろ」

「誰に意見を聞いたって良いじゃないですか。それとも、源君じゃ駄目な"特別な理由"でも?」

 白石はそう言ってカナに挑発的な視線を送る。

「白石、てめえ……」

「2人とも、一回落ち着こうか。源君が窮屈そうにしてるから……」

 見かねた諏訪部が声をかける。と、そこに緑屋と周も部屋に入ってくる。

「お、またケンカか。仲良いなー」

「仲良いですかね…?」

(また面倒なのが増えた……)

 諏訪部は心の中でそう思いながらもそれぞれに対処する。

「ほら、白石ちゃんたちは一回席に座る。緑屋はパソコンの上でアイスを食べない」

 諏訪部の指示に、白石とカナは睨み合いながらそれぞれの席に座る。そして緑屋と周も席に座った。

「はい、一旦私語は禁止ね。全く、これじゃあ僕が班長みたいじゃないか」

「じゃあ諏訪部班長、今日の予定を聞こうか」

 緑屋が諏訪部をからかう。

「だから班長じゃないって……。えーとそれで、知っての通り、今日は浄化任務用の新型機材のテストだ。浄化担当は地球防衛省、それ以外はここで機材の確認を行う。時間は14時から。オーケー?」

「はい」

「了解です」

「おっけー」

 諏訪部の問いかけに各々が返事をする。かれこれ1年、神田とカナも班に馴染みつつあった。主に神田が、だが。

「ねえ、源君。今日は早めにお昼食べない?」

 隣の席の白石が源に話しかける。

「あー、そうだな。カナも一緒にどうだ?」

 源は向かいの席のカナに尋ねる。

「俺はいい。アマネと食べる。お前とばっか飯食べてても飽きるしな」

 カナはそう言いながらチラッと白石の方を見る。

「まあ、それもそうか」

 源はなんとはなしにそう返事をする。そして白石は、少し笑顔を固くしていた。

(源君と同居してるからって……)

 1年前、日本に戻ってきた後から、源とカナは寮の同部屋となっていた。その目的は怪人であるカナの監視であり、さらに源の監視も兼ねていた。

(源君の様子が変わっているのは、1年前に空港で会ってすぐ気付いた。私の知ってる源君は、優しくて正義感があって、でもどこかあどけなさがあった。でも、今の源君はそのあどけなさが無い。むしろ熟達した雰囲気すらある。別に、どっちが良いってわけじゃないけど……)

 白石は、軽く手を握った。胸の奥に広がる焦りを抑えるように。

(私は、源君のことを何にも知らない。富士山で、長崎で、アメリカで何があったのか、私は知らない)

「私は、いつも部外者だ……」

 白石は、誰にも聞こえないぐらい小さな声で、そう呟くのだった。


「やあ、久しぶり」

 地球防衛省の地下55階、その研究区画で源たちは狛江主任の出迎えを受けていた。狛江は源と握手をすると言った。

「定期検査からだから、半年ぶりかな?」

「はい。主任もお変わりないようで」

「それはどうも。まあ今回は君と白石君、周君、そしてあのトラグカナイが一緒だからね。少しテンションが上がっているけど」

 狛江はそう言っていたずらっぽく笑った。

「さて、早速新装備のお披露目といこうかな。ついてきてくれ」

 狛江はそう言ってさっさと長い廊下を歩き始める。

「地下ってこんな風になってるんだね……」

 道中、白石が辺りを見回しながら言う。

「そういえば、白石はここで検査を受けてないんだったよな」

「うん。私は高校生の時の検診で分かったから」

「ああ、あったあった。うちの学校にも」

 源は少し懐かしそうに相槌を打つ。

(確かあの時は俺は引っ掛からなかったんだよな。それにカナも)

 源はその時のことを思い出して少し寂しくなる。かつての幼馴染、遠野彼方はもうこの世にはいないのだ。

「ところで、新装備ってなんなんですかね」

 周はそう言いながらサイズの合わない服の襟をまくる。

「確かに、そこのところは何も聞かされてないな」

 源は考え込む。そこにカナが言った。

「"地上"じゃ言えないものってことだろ」

「地上じゃ言えないもの?」

「対人装備だよ」

 カナの発言に、白石たちは驚きの表情を作る。

「対人って、私たちは非戦闘員ですよ?」

 白石が思わずカナに反論する。

「なにをいまさら呑気なこと言ってんだよ。ミナモトとアカモト、この2人は戦力になる。それは長崎とニューヨークで証明されてるだろ」

「それは……」

 白石はそれ以上言わなかった。

「……正直、カナの言うことは一理ある。というか、その可能性が高いと思う」

 源は難しい顔でそう言った。

(俺はもう大君としての記憶と経験を取り戻しつつある。ラケドニア最強とまで呼ばれた大君ギルガメシュの記憶と経験を。そうなれば、俺が戦わないわけにはいかなくなる。なにもおかしい話じゃない……)

「また戦うんですか、私たち……」

 周は思わずそう呟く。その時、前を歩く狛江の足がある扉の前で止まる。

「ここだよ」

 狛江が立ち止まったのは、『隔壁室』と書かれた扉の前だった。そして狛江が扉の横のパネルに手を当てると、扉のロックがガコンと解除される。狛江はどこか不安げな源たちに声をかける。

「大丈夫。きっと期待は裏切らないから」

 扉が開ききる。部屋の中には、ある大きな台が設置されていた。その台の上に、どうやら新装備が置かれていた。それは、

「……これ、カッターメス?」

 そう呟く源の目線の先には、ちょうどカッターサイズの黒くて細長い何かが人数分置かれていた。狛江はその一つを取り上げてみせる。

「これは『可変式多目的工作外科兵装』だ。長ったらしいので仮にブレードメスとでも呼ぼうか。とにかく、このブレードメスは君たちの特殊業務をまるきり変えてしまうだろう。もちろんいい意味でね」

 狛江はそういうと、ブレードメスを源に手渡す。

「それを握ったら人差し指を押し込んでみてくれ」

「握って、人差し指を……」

 源は言われた通りに指を押し込む。するとガシャっという音と共にメスの柄から15センチほどの刃が飛び出した。

「うわっ!」

「最新式の合金素材を使ったブレードだ。強度で言うと、その刃先で車を支えられるくらいかな。切れ味も医療用メス以上だよ。じゃあ次は中指を……」

 それから狛江はブレードメスの機能を順々に紹介していった。ボタンなどはなく、指先で柄に圧力を加えることで機能を切り替える。通常のメスや、銃のアタッチメントの付いた銃剣仕様。さらにライトやGPSまで内蔵されている。

「なるほど、使いやすそうだな」

 カナも一通りの機能を試しながら言う。もうすでに機能の切り替えまで習得している様子である。

「ちょっとコツがいりますけどね」

 周は少し柄が大きいのか、少し持ちにくそうにしている。そして白石もまだ慣れない様子である。

 狛江はそんな源たちを満足そうに眺めると、やがて言った。

「さて、こう言うのもなんだが、僕の仕事はあらかた終わってしまった。ただ源君には残ってもらいたい」

「俺ですか?」

「うん。できれば2人だけで」

「……わかりました」

(何の話だ?)

 そして狛江は白石たちを退室させると、話し始めた。

「すまないね。こんなタイミングで」

「構いませんよ。それで、俺に何か?」

「ああ。聞くところによると、君はジウスドラ・グラ・レオラオリとアメリカで接触したらしいじゃないか」

 狛江は探るような口調で言う。源はその様子に若干警戒しつつ答えた。

「そこまで知っているなら、俺が今どんな状態かも把握しているでしょう?」

「眠っていた記憶の覚醒、だろ?君はかのギルガメシュと遺伝子的には同一人物だ。しかもそのDNAにはナノサイズのコアが組み込まれているとか」

「はい。だから今の俺は、多分源王城というよりギルガメシュと言った方が近い」

 源はこともなげにそう言う。

(自己を客観視し始めている。2つの自我を認識したからか……)

 狛江はそんな源に言う。

「源君、君はこの世界の台風の目だ。人間と、そしてラケドニア人の双方にとっての切り札だ。これから来るであろう争いは全て、君を奪い合うような争いになるだろう。だから気を付けて欲しい。怪人も、人間も、本当に味方なのか見極めるんだ」

「狛江主任、なんでそんなことを……」

 源の問いに、狛江は何かを恐れるように目線を落とす。そして言った。

「……一つ、心当たりがあるんだ」

「心当たり?」

「立川栄二、神獣協会で研究主任をしている男だ。彼は、きっと君を殺す」


 そしてカナたちは、通路で源を待っていた。場には気まずい静寂が流れる。そんな空気に耐え切れなくなった周が口を開く。

「……あの」

「なんだ?」

「どうしたの?」

 カナと白石が同時に反応する。2人は互い無言で牽制しながらも、結局カナが尋ねる。

「なんだ?アマネ」

「いや、別に大したことじゃないんですけど。なんの話してるのかなって」

 カナはそれを聞いて少し考え込む。

「……まあ、そうだな。アイツはもう要人だ。ただの公務員じゃねえ。源王城としてではなく、"大君"として国際的に扱われるようになってきてる。そういう心構えの話だろうよ」

 カナの話に、白石はドキリとする。そして思わず呟いた。

「……でも、源君は源君ですよね?」

「そりゃそうだろ。ただ世間からはそう見られなくなってるって話だ。アイツも気を付ける必要がある」

「気を付けるって……」

「怪人にも、人間にもどんな目的であれ狙われる。何かあってからじゃ手遅れなんだよ」

 カナはそう言いながら少し表情を歪める。嫌な事を思い出している顔だ。白石はその表情の機微に気づいた。

「何かあったんですか?」

 それに、カナは答えた。

「……別に。ただ、もし近しい相手が裏切ってきたら、それに対処する術は無いってだけだ」

 カナは、ただそれだけ言うのだった。多くは語らずに。

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