03 ハリスカリバーの本質
「そこまでここから出たいなら、協力してやらんでもないけどな」
「ほ、ほんとであるか!?」
クーゲルの言葉に、シリーは嬉しそうに声を上げる。
「ああ。でもその前に、お前がどうしてここで守護者をしているのか。それを教えてもらうぞ?」
「ぬ? 何故であるか?」
「そりゃあ、お前が実はとびきり悪いやつだったらここに閉じ込めといたほうが良いからな。それを確かめるんだよ」
「なるほどである!」
と、いうわけで。シリーは生前の自分の話をクーゲルに伝えることとなった。
「吾輩はおよそ五百年ほど前の、とある国で冒険者として活動していたのである」
「この国じゃなかったのか?」
「うむ。当時はその辺の普通の冒険者と同レベルであったからな。やはり稼げるところで活動するのが一番であった」
懐かしむように表情を緩めるシリー。
「で、ダンジョンに潜っていたある日、吾輩はこの聖剣ハリスカリバーを手に入れたのである」
「なるほど。そこからお前は冒険者として頭角を表していくことになった、と」
「いや? 違うのである」
「違うのかよ!!」
テンプレを外されたことでついツッコんでしまうクーゲル。
「ハリスカリバーは、持ち主の性質やその場の状況に応じて姿形を変える聖剣である。今は剣として普通の姿であるが、吾輩が手にしたハリスカリバーは違っておった」
「……どんな形だったんだ?」
クーゲルが問うと、シリーは一度頷いてから応える。
「吾輩は、じつはすんごくむっつりスケベな女であったのだ」
「は?」
「下ネタ大好きであるが、実際に男と行為をするとなると怖くて出来ない臆病なスケベ女でな。そんな吾輩にぴったりの形に、ハリスカリバーは姿を変えたのである」
嫌な予感がするクーゲル。
「そう、アダルトグッズの姿に!!」
「やっぱそういう話だったか……!」
くだらない話に巻き込まれた、とクーゲルは少し後悔する。
「以来、吾輩はオナニーの虜になったのである。何しろ吾輩にとってベストな形をした、望んだ通りに変化する最高のアダルトグッズである。サルのように一人で致すようになってしまったのである」
「最悪じゃねーか」
「そこで、できる限り働かずオナニーばかりして過ごせるように、物価が安い田舎に引っ越して来たのである。そこが、この山の麓にある村であった」
「そこで繋がってくるかぁ……」
頭が痛くなるクーゲルであった。
「しかし、それが災いとなったのである」
「は? どうやって災いに繋がるんだよ?」
「吾輩は田舎の自宅に引きこもり、日夜オナニーに励んでおった。あの日も当然、ハリスカリバーを突っ込んでおった」
「生々しいからやめろ!」
「ちなみにケツの方なので吾輩は処女である、安心せい少年よ!」
「何を安心しろっつーんだよ!!」
段々と下品な話を躊躇わなくなってきたシリーに、クーゲルは頭が痛くなりながらもツッコミを入れる。そういう気質の為、仕方のないことであった。
「その日は運悪く、村に魔物が侵入しておった。しかし気づかずにオナニーにふけっていた吾輩。そして魔物はそんな吾輩の家に侵入し……吾輩が果てたと同時に、吾輩の部屋に入ってきたのである」
「あー、なんか嫌な予感が」
「結果、吾輩の中にずっぽしと入っておったハリスカリバーは戦闘状態になり、剣に変形してしまったのである。当然身体の中を聖剣で切り裂かれてしまえば、吾輩は即死であった」
あまりにも情けない死に様である。
「そうして吾輩は情けない死に様の無念からゴーストとなり、このハリスカリバーと一体化してしまったのである。そして村人はキモい死に方をした吾輩の剣を、キモいという理由で山に捨てたのだ」
「いや、それだと聖剣はそのへんに転がってなけりゃあおかしくないか?」
「うむ。その状況が嫌だったので、吾輩は周りの魔物を地道に倒して強くなり、うまいことハリスカリバーを移動させていい感じに封印された聖剣って感じのとこに突き刺したのである」
「お前……強くなった理由、それでいいのか?」
ハリスカリバーが封印されていた理由が、あまりにもバカバカしかった。
「とはいえ、さすがに何百年も封じられていては孤独でつらかったのである。そこで羊皮紙にここの地図を書いて、山に適当にばらまいたのだ。この聖剣の持ち主となる者を呼び込むためにな」
「あー、それでルーデが地図を食……拾ったのか」
ルーデがお掃除マシンになって口に地図を入れていたとまで説明する必要はないだろう。クーゲルはいらぬことは語らなかった。
説明したところで理解できないだろうし。
「以上が、吾輩がここに封印されておった経緯である! どうだ? なんも悪いところ無いであろう?」
「確かに悪人じゃあないけど……変態が過ぎる。そういう意味では邪悪だぞてめえ」
「そ、そんな! 吾輩にとって下ネタ下品オナニーの三つは三種の神器! 欠かすわけにはいかんのである!!」
「って言われてもなぁ」
「頼む少年よ! 吾輩のケツで股間の前後運動をしてもよいから!!」
「しねーよ!!」
とは言ったものの。身体を売ってでも孤独なまま封印されていたくはない、という気持ちなのだろうとはクーゲルにも理解できた。
「はぁ……まあ、仕方ない。悪さするわけでもなさそうだし、俺が聖剣の持ち主になってやるよ」
「おおっ! 感謝するのである少年よ!」
「俺はクーゲル。クーゲル・シュライバーって言うんだ」
「なるほど、ではクーゲル殿! さっそく聖剣を引き抜くのだ!」
「はいはい。……っしょ、っと!」
ということで、クーゲルは聖剣をあっさりと引き抜く。最強なので聖剣の封印ぐらいなんてことは無い。
まあ、そもそも封印自体がゴーストであるシリーがでっちあげたものだったのだ。尚更苦戦する理由が無い。
「おお、聖剣が姿を変えるのである!」
聖剣の刀身が輝きはじめる。
「何になるんだろうな?」
「ぐぬぅッ!? 変化と同時に、く、クーゲル殿の膨大な魔力が聖剣を通じて吾輩にも流れ込んでくるのであるッ! ぬぅ、んくぅ♥ んはぁぁあ♥ おほぉぉおおおおおっ♥」
「キモイ声を上げるな!」
「ひゃあんっ♥」
クーゲルは隣で嬌声を上げるシリーを蹴り飛ばす。
が、ド変態のシリーには逆効果。ドMでもあるシリーはむしろ興奮するのであった。
そうしているうちに、聖剣を包む光は収まっていく。
完全に光が消え、露わとなった聖剣の形は!
「……ハリセンじゃねーかッ!!!」
見事にハリセンへと変化していた為、クーゲルはベチンッ! と足元に投げ捨てるのであった。