02 聖剣の守護者
洞窟の中は暗かったが、最強なのでクーゲルが適当に魔法で明るくしといた。
お陰でルーデも普通に進むことが出来ていた。
「へぇここが聖剣を封印してる洞窟かぁ。テーマパークみたいでテンション上がるなー!」
「上がんねぇよ。どう見てもテーマパークにはならねぇだろ」
鍾乳石すら見当たらない、岩肌ばかりの地味な洞窟である。クーゲルの主張も当然であった。
「お、分かれ道だ」
クーゲルは目の前に現れた分かれ道を見て立ち止まる。
「おいクーゲル、どっちから行く?」
「右だな」
「判断はえーな!」
「最強だから正解とか分かるんだよ俺」
「え、こわ……」
最強すぎた為、めずらしくクーゲルがボケに回ってしまう。たまにはこういうこともある。
そんなこんなで洞窟の奥に進むと、やっぱり聖剣っぽいものがあった。
「あー! 岩に刺さってる剣じゃん! 絶対聖剣だろこれー!」
「ぽいなぁ」
興奮するルーデと、退屈そうにそれを眺めるクーゲル。
何しろ最強なので、聖剣より自分の肉体の方が強い。興味が抱けないのも当然である。
で、ルーデの方は聖剣を引き抜こうと手を伸ばしていた。
「ぐぬぬんうぬぬゥゥッ!!!! ぬ、抜けない!!」
「当たり前である! お前のような資格なき者に、この聖剣『ハリスカリバー』が抜けるはずが無いのである!!!」
「え、誰だ!?」
どこからともなく聞こえて来た声にビビって手を離すルーデ。
そして、ルーデの声に応えるように、どこからともなく人の姿が浮かび上がってくる。
「ふふふ……吾輩こそが先代のハリスカリバーの使い手にして、死後はゴーストと化して聖剣にふさわしいものを選別する役割を担っておる没年22歳の伝説の美女冒険者! その名もシリー・アーナンである!!!!」
姿を現したのはゴーストと呼ばれる実体の無い魔物。
アッシュグレーの長髪に、ブラウンの瞳を持つ、冒険者らしい装備に身を包んだ半透明の超絶美女であった。
そして、その姿を見た二人はそれぞれ別の感想を抱く。
(半透明なのに、なんで装備の向こう側は透けて見えないんだろ? やっぱ裸は恥ずかしーからかな?)
変なところが気になってしまうルーデ。
(こいつ……変な名前に加えてキャラが濃いし美人! ってことは絶対ヒロインだ!!!)
自分のスキルを把握しているクーゲルは、シリーにビビっと来ていた。
「少女よ……お主がこの聖剣を求めし者か?」
「あ、え……う……」
「聖剣が欲しければ、吾輩と戦って力を示さねばならぬ」
「……っす」
「さあ構えよ! お主がどれだけの実力の持ち主か、吾輩が見極めてやるのである!!」
「あっ……すー」
人見知りのルーデは、いっさいまともな返事が出来ないまま、クーゲルの背中に隠れる位置まで戻ってしまう。
「……あー、少女よ? 試練であるぞ? 吾輩倒せば聖剣とか使えちゃうやつだぞ?」
「っす」
「いいのかなーそんな消極的でー。あ~もったいないな~聖剣使いとか憧れちゃうんだけどな~~~!!!」
「いっす……」
会話が成り立たない!
仕方ないので、クーゲルが話を代理することにした。
「あー。シリーさんだっけ?」
「ぬ? 少年よ何であるか?」
「こいつ、ルーデは人見知りなんで俺が変わりにルーデの言ってることを伝えますよ」
「う、うむ。何を言っているかわからず困っておったのだ。助かるのである!」
というわけで、クーゲルを介しためんどい会話がはじまる。
「して少女よ。お主は聖剣が欲しくてここまでやってきたのであろう?」
「や……っす……」
「そのへんに聖剣が落ちてるぐらいに考えてたんで、試練とかめんどそうな事しなきゃいけないなら別にいらないって言ってます」
「ぬぬぬ、しかし少女よ、聖剣であるぞ? これ、持つだけて強くなれるのであるぞ?」
「いっす」
「別にクーゲル……俺がいつでも守ってくれるから自分が強くなる必要は無いんでいらないって言ってます」
「ふむ、そうであるか。……っていうかお主、よく少女の言っておることが分かるのであるな?」
「まあ自分最強なんでそれぐらいは」
とまあ、結局ルーデは聖剣の試練に挑まないということになった。
「ぐぬぬ……では少年よ。お主は聖剣に興味とか無いか?」
「いやー別に。聖剣無くても自分強いんで」
「ドラゴンの鱗とかでも紙切れのように容易く切り裂けるのであるぞ? それでもいらぬか?」
「俺の手刀の風圧の方が切れ味いいんで……」
「あ、そう……強いのであるな少年は……」
てな感じで、なんか空気が悪くなった。
「――嫌である! 試練を受けてほしいのである! 頼むのであ~~る!!!」
「いや、だから別に聖剣とかいらないって」
「お主らが聖剣の主になってくれなきゃ、吾輩いつまでも聖剣の守護者としてここに縛られっぱなしなのである!」
「じゃあ試練とか言って追い払おうとすんなよ」
「それはしないといかんやつである。それに雰囲気も出して格好つけたかったのである!」
「出すなよそんなもん」
「うむ。出すのはちんちんからぐらいで良いのであるな」
「……ん? いま何て?」
シリーの口から変な言葉が聞こえたような気がしたクーゲルはつい聞き返す。
が、シリーは答えずに勝手に話を進める。
「お主らがそういう考えならば、吾輩にも考えがあるのである」
「ん? どうするんだ?」
「聖剣の試練を受けてもらえるまで、お主らをこの洞窟から帰さないのであ~~る!!」
言うと、途端にシリーは魔法で岩を操り、洞窟の出口側を塞いでしまった。
「ふふふ。こうなればお主も吾輩と戦わねばならぬであろう? 諦めて聖剣の持ち主となるが良いのである!!」
そう言って、シリーはついにクーゲルへと襲いかかった!
「反省したか?」
「ふぁいである」
ゴーストなのに顔面をボコボコにされたシリーの姿がそこにあった。