06 決戦! 寿司職人!
「さあ、まずは寿司職人のシーちゃんから見ていくのじゃ!」
アルアは魚を捌く準備に入るシリーの様子を伺う。
「のじゃ? この魚は……どういう魚のじゃ?」
「ふふふ、この魚は……鯉なのである!」
「こ、恋!? ラブラブなのじゃ!」
「鯉は鰯に少し似た体をしておるのである。同じく無為魚であったり、身の中にY字の形の骨がたくさん入っていたり……手間のかかる魚ではあるが、しっかり処理をすれば美味しい魚なのである!」
アルアのボケに反応せず解説をするシリー。
「見よ! 成長した吾輩の包丁捌きを! 丁寧かつ美しい骨切りによって、小骨も気にならなくなっていくのであーる!!」
シュパパパ、とすごい手際で鯉の処理を済ませたシリー。
こうして下駄の上に、見事に処理された鯉の刺身が用意された。
「で?」
「うぬ? クーゲル殿よ、で、とは?」
「こっから寿司にするんだろ? どういう工夫をして美味しく仕上げるんだ?」
クーゲルに言われた瞬間、シリーは冷や汗をダラダラとかきはじめる。
「言われてみれば、吾輩魚の捌き方しか学んでいないのである! シャリの握り方どころかどうやって作るかもわからんのであーる!!」
「バカだろマジで……」
「ぐぬぬぬ、こうなれば、炊きたて熱々のご飯に、何となく目分量で赤酢をぶちまけてやるのである!!」
「これはひどい」
そうやってめちゃくちゃな手順で作られたビチャビチャのシャリを、無理やり形にするために力強く握って寿司として仕上げるシリーであった。
「お、終わったのじゃ……こんなカスの寿司なんぞ勝てるわけが無いのじゃ……」
「絶望してねーで真地女さんの方も実況しに行ったらどうだ?」
「はっ! そうなのじゃ! バイトがこれよりひどいものを作る可能性もあるのじゃ!」
「さすがに無いんじゃないかなぁ……」
望み薄ながらも、アルアは希望を持って真地女の様子を見に向かう。
「む? バイトはどうやら仕入れからちょうど帰ってきたところのようじゃな。何を買いに行っておったのじゃ?」
「あ? 寿司ネタ用の柵を買いに行ったに決まっとるやろ。ウチに生食できる鮮魚は仕入れとらんからな」
「そうだったのじゃ?」
「あんた店長だろそれぐらいは知っとけよ」
冷静なツッコミを入れるクーゲル。
「しかしこの柵は……どこにでも売っているようなサーモンの柵なのじゃ」
「せやな。ウチが作るんは何のひねりも無い漬けサーモンや」
「うーむ、低俗のじゃ……」
「しばき倒すぞボケ店長」
「痛いのじゃ!」
言った頃にはもう手が出ている真地女であった。
「えーっと、真地女さんがサーモンを選んだ理由は?」
「あん? 好きやろサーモン。男子やし。油ぎっとりしとる方が美味いんちゃうか?」
「否定はできないな……」
クーゲルが思いの外高評価を出しているのを見て、アルアは慌てて真地女の寿司を下げようとディスり始める。
「し、しかし! サーモンの、しかもスーパーで売っておった安物なんぞ臭みがあるのじゃ! その点、シーちゃんの寿司はキレイな川で育った生食用の鯉! 臭みなんぞあろうはずも無かろうなのじゃ!」
「アホか店長? せやから漬けサーモンにすんねん」
真地女はアホの店長に反論する。
「そらスーパーのサーモンの柵は安物やろうけどな、食えへんほど臭いもんでもなし。しかもウチの食堂でも使っとる特製の牡蠣醤油で漬けるつもりやからな。気になるようなもんやあらへんよ」
「ぐぬぬぬ!」
「サンマやアユの腸、普通に考えて臭いに決まっとるのに美味いやろ? アレとおんなじや。旨味があれば多少の臭みは人間気にならへんねん。しかも醤油の香りまで乗るんやから十分や」
「な、何を言っているのかさっぱりわからぬが、圧倒的敗北感なのじゃ……!!」
真地女の知恵により撃退されてしまうアルア。
だが、まだ最後の希望が残っていた!
「じゃ、じゃがバイトよ! お主もシャリの作り方なんぞ知らんはずじゃ!」
「そんな専門で出すようなもんならともかく、シャリなんぞ適当にやって作れるやろ」
言いながら、真地女は業務用の大型炊飯器に炊けてあるご飯をいくらかボウルの中に入れて持ってくる。
「要するに適量の酢と塩でそれっぽくすりゃええねん。ウチはええ米つかっとるわけでもないから砂糖もちょっと入れるか?」
言いながら、真地女は調味料をご飯に投入し、しゃもじで混ぜ始める。
「さっくりと混ぜながら、うちわで扇いで水気を飛ばしながら冷ましていく。野菜を陸上げする時とおんなじやな。水気が敵になるもん作る時は、全部こうやって適当に扇いで冷ましゃあええねん」
そうして真地女は時折味見をしてバランスを調整しつつ、シャリを完成させる。
「で、余計な水気が無いから強く握らんでもシャリは形になるし、米粒の間に空気が入ってふんわり美味しく仕上がるわけや」
「ち、ちくしょうめぇのじゃ!」
最後に捨て台詞を吐いて、アルアは脱兎のごとく逃亡した。




