03 血抜き一つにもこだわりがある!
クーゲル宅のキッチンにて、ゲシクテによるお魚捌き講座が始まる。
「さあ、ルーデちゃん。シリーちゃん。お嫁さん修行だと思って、頑張りましょうね♪」
「任せときな!」
「うむ! 上手く行った暁には、クーゲル殿に毎日味噌汁をたっぷり飲ますのである!」
「塩分過多になるからやめてね」
で、早速ゲシクテはサバを捌き始める。
「まず、お魚屋さんで買ってきた鮮魚は血抜きがどの程度してあるか品物によって違うから、ちゃんと血抜きをしましょう。エラ蓋で手を傷つけないように注意しながら開いて、エラを包丁で傷つけて、溜めた水の中に入れて血抜きをするのよ」
言って、ゲシクテが実演をする。こなれた手つきでエラに傷を付け、水を溜めた大きなボウルの中にサバを放り込む。
「さあ、二人ともやってごらんなさい?」
「ふむ! わかったのである!」
シリーは少々拙い手つきながらも、元々冒険者であった為か、解体の心得があり、作業に迷うようなことはなかった。
しっかりとエラを傷つけ、ゲシクテと同様に血抜きに入る。なんも面白くない。
だが、ルーデはそうもいかなかった。
「あ、あわわ……あわわぁ……」
包丁を両手で持ち、プルプルと震えながらサバと対峙していた。
「う、うわぁぁぁああ~~~~!!!!!」
そしてドスン! と勢いよく包丁を突き立てるルーデ。
「あらあらルーデちゃん、ダメじゃないの。危ないでしょう?」
「だって、だって! アジのやろーが、死んだ目で、こっちを恨みがましく見てて! 呪われるかと思って!」
「サバよ。よしよし、怖かったわねぇ。でも、包丁は使い方を気を付けないとだめよ?」
「はぁい……」
「ん待って? 恨みがましい目で見てくるからって包丁突き立てたんだよねコイツ?」
細かいところに突っかかるクーゲル。
「さあ、血抜きするお水は何回か取り替えて、キレイな水でやりましょうね。血なまぐさい匂いが水と一緒に魚の身に入っちゃうかもしれないから、血抜きができたら最後に水で洗って、まな板の上にタオルなんかを広く敷いて、匂いのある水がまな板に触れないように注意しましょう」
「そ、そこまでやるのであるか?」
「そうよ。ご家庭で食べるものならともかく、二人は寿司職人になるんでしょう? 身に臭いが移るような下処理なんてもっての外よ」
「っていうか母さんはなんでそんな知識を?」
「昔とった杵柄よ。貴族様のお屋敷で、魚の下処理をして覚えたわ」
随分と限定的な経験であった。
「さあ、ここから本格的に捌き始めるわ。まずは丁寧に鱗を落としていくわ。うろこかきでざっくりと落としたら、包丁も使って細かいところの鱗も落として、取れたうろこが残らないように丁寧に掃除していくわ。水で流すだけじゃ残っちゃうこともあるから、丁寧に拭き取って掃除してね。この時、うろこだけじゃなくてお魚の体のぬめりや臭みも一緒に掃除してきれいにすること。これが残ったまま捌き始めちゃうと、臭いがまな板を介して身に移っちゃうからね」
「ぬ、ぬめぬめ……えっちであるな……♥」
「集中せえ」
魚のぬめりにすら欲情しだすシリーに、スパンとハリスカリバーで突っ込むクーゲル。
「なあママさん!」
「あら、何かしらルーデちゃん?」
「ぬめぬめが取れね―んだけど、爆破していーかな?」
「ダメよ。ぬめりが取りづらい時は、お塩や小麦粉なんかを使ってぬめりを取る方法があるわ。何を使うかは魚種や料理によって適しているものが変わるけれど、今回はお塩を使いましょうか」
ゲシクテはキロ単位で塩の詰まった大袋を持ち出して、そこからサバの体に振りかける。
「モタモタしていると、落としたヌメリから臭いがお魚に戻っちゃうから、手早く作業しちゃいましょうね」
「わかったのである!」
「まかせときんしゃい!」
「体だけじゃなくて、ヒレやその付け根、頭なんかにも臭いは残るから、そういうところまで丁寧に掃除しましょうね」
こうしてゲシクテの指導により、しっかり魚の下処理が進められていくのであった。




