02 目利きのルーデ
で、三人はさっそく魚市場に来た。
「なんで魚市場なんか来る必要あんだよ?」
ルーデは嫌そうにクーゲルへ尋ねる。
「いや、一端の寿司職人を目指すなら、仕入れからちゃんと学ばなきゃダメだろ」
真面目に寿司職人への道を進ませようとしているクーゲル。
「しかしクーゲル殿。吾輩、魚の良し悪しなんてわからんのである」
「まあ、そのへんも含めてここから学んでいけばいいだろ? ……っていうか、うちでメイドしてんだよなお前? ちょっとぐらい知っててもいいんじゃないか?」
「吾輩の担当はクーゲル殿を朝起こして、日中はゲシクテ殿のおしゃべり相手をすることである! 魚など触る機会も無いのである!」
「ほぼニートじゃねぇかお前」
形だけのメイド服が泣いている。
ともかく、クーゲルは二人に魚の説明をしていく。
「まずこいつがカワハギ。皮が簡単に剥ける。肝が美味い」
「ふむふむ」
「次にこいつがウマヅラハギ。皮が簡単に剥ける。肝が美味い」
「ふむ?」
「で、こいつがウスバハギ。皮が簡単に剥ける。肝が美味い」
「クーゲル殿?」
「最後にこいつがソウシハギ。皮が簡単に剥ける。肝が美味い」
「全部同じじゃないか!? である!」
「何を言う! ソウシハギは毒がある場合があるんだぞ!?」
「そんなものをなぜ売っているのであるか!?」
「俺最強だから毒効かないんだよね」
言いながら、ソウシハギを格安で仕入れるクーゲル。
なお見た目は毒々しいが、地方によっては普通に食用として流通する魚でもある。
「さて、こいつは俺が後で美味しくいただくとして」
「普通に買い物していたのである……」
「お前たちに捌いてもらいたいのは、こいつだな」
言って、クーゲルが指さした魚は!
「……さっぱりわからんのである。ルーデ殿はわかるのであるか?」
「アレだろ、ほら、香り松茸アジしめしめって言うだろ? 多分アジだよ」
「味しめじだし、アジじゃねえよ。サバだよ。山のものとどうやったら勘違い出来るんだよ」
何の変哲もないサバであった。
「サバは身割れしやすいからな。包丁捌きを練習するにはちょうどいいんじゃねーかな?」
「クーゲル殿が言うなら、それに従うのである!」
「ちょーしのんなよ? アタシのバックにゃあヒスタミンとパリトキシンが控えてっからな?」
「控えたまんまにしててくれ。んじゃ、帰るかー」
ルーデのボケを軽くいなしながら、クーゲルは帰ろうとする。
が、そこでルーデが目を光らせる!
「ちょっと待った! アレはなんだ!?」
ルーデが指さしたのは真っ赤な魚。
「あいつは……キンキだな」
「あぁ!? アタシのことガキだって言いてぇのか!?」
「キッズじゃねえよキンキ。普通に美味い魚だよ」
「えっ♥ そんな、急に褒められても……♥」
「お前ってキンキだったの? ガラスの少年時代の破片が胸にでも突き刺さったか?」
とはいえ、ルーデがせっかく興味を示した魚なので、キンキも仕入れることにするクーゲルであった。




