01 めし処『†煉獄†』
ある日のこと。依頼を昼前には終えて村に帰ってきたクーゲル。
お腹が空いていた。
「そういえば、最近村に新しくめし処が出来たって聞いたな」
片田舎ではあるが、田舎ゆえにまあまあ魔物とか出るので冒険者はちょくちょく訪れるのがクーゲルの住む村である。
なので、最低限の食事処と宿屋は存在している。
そんな食事処が新しく出来たと聞いて、クーゲルはウキウキだった。
「どんな店が出来たのかなぁ。楽しみだなぁ」
等と独り言をつぶやきながら、噂の食事処に向かう。
そして、到着したクーゲルは看板を見て驚く。
「……めし処『†煉獄†』……中二病だ……!!」
そう。その食事処はなんと、ダガーを生やしていたのだ!
「ちょっとイヤな予感がするが……まあ入るか」
嫌な予感がするなら逃げりゃあいいのに入るクーゲル。
店内は賑わっており、殆どの席が埋まっている状態だった。
「いらっしゃませ、なのじゃ!」
そして、早速キャラの濃そうな挨拶で歓迎されるクーゲル。
(絶対のじゃロリだ!!)
確信しつつ、声の方を振り向く。
そこにいたのは、ウエイトレスっぽい制服に身を包んだ――ふつーに大人の女性であった。
「いや、のじゃロリじゃないんかいっ!!」
「む? のじゃロリとは何なのじゃ?」
「あ、いえ、なんでもないです……」
勝手な思い込みからツッコミを入れてしまったことを恥じるクーゲル。
改めてウエイトレスっぽい人の様子を観察する。
見るからにお嬢様、といった感じの巻き巻きヘアースタイルの、黒髪に赤い瞳の女性。背も高く、背筋もピンと伸びており、出来る女オーラが漂っている。
(いや、のじゃロリじゃなかったけどキャラは濃いな……)
やはり自分の直感は正しかったのだ、と気を取り直すクーゲル。
「おっと、いかんいかん。案内せねばな。お客様は何名様なのじゃ?」
「あ、一人です」
「ではカウンター席の方へと、この妾が! アルア・ルネータ様が案内してやろうぞ!」
「は、はぁ……」
妙に態度のでかいウエイトレス……アルア・ルネータについていきながらクーゲルは思う。
(アルア・ルネータ……絶対あるあるネタってことだろこれ)
と、この時点で、アルアがヒロインであることを確信する。
「えっと、カウンター席は……」
アルアは案内しようとするが、既にカウンターは全て埋まっていた。
「……もう空いてないのじゃ。すまぬが帰るのじゃ!」
「ええっ!? 他に空いてる席あるのに!?」
クーゲルがツッコむと同時に――どこからとも無くお玉が飛んでくる。
そして、スコーン! といい音を立ててアルアのおでこにヒットした!
「ぐはっ!!」
「――店長。ふざけとらんとさっさとテーブル席に案内しいや」
そうアルアに呼びかけたのは――カウンターの向こう側で調理をしていた女性であった。
暗めの茶髪に赤と青のメッシュの入った無造作ロングヘアの女性で、ダークグリーンの瞳にメガネを掛けている。
(……メガネ関西弁で元ヤン風っぽい髪の色!! キャラが濃いッ!!! ヒロイン二人目じゃんッ!!!)
まさかの、怒涛のヒロイン二人目の登場に焦るクーゲル。
「うぐぐ……すまぬのじゃバイトよ」
「いいから店長、はよう案内して」
(っていうかウエイトレスの方が店長で料理してんのがバイトなのか……)
声にせず、二人の関係性にツッコんでしまうクーゲルであった。




