06 吊り橋効果
で、迷いの瘴気の呪いの森に来たクーゲル。
「……付いてきてんなぁ」
しっかり自分の死に様を確認しようと、リンダが付いてきていることを気配で確認する。
「まあ、一体ずつなら対処出来るらしいし、隠れてれば移動できるらしいし。大丈夫だろ」
楽観的につぶやきながら、クーゲルは森へと足を踏み入れる。
そんなクーゲルを見送ったあと、リンダは後を追いつつ言う。
「ふっふっふ……今回こそは確実に仕留めてやりますからね、クーゲルさん。秘策中の秘策としてこちら! デデン!」
口で言いながら懐から何かを取り出すリンダ。
「魔物寄せの臭い玉まで持ってきましたから、これをぶつけて確実にクーゲルさんが大量の魔物に襲われるようにしてやりますから、絶対に今度こそ殺せるはずです!!」
ぐっと拳を握りしめて決意を独りでに語るリンダ。
「まあ、うっかり握りつぶしちゃったりしたら私に匂いがついて追われることになっちゃうんですけど、そんなことになるわけ――」
途中で言葉を区切り、ぐっと握った拳を開くリンダ。
なんか、ぷ~んと匂いのするべちゃっとしたやつが手のひらについている。
「やっべ」
――一方その頃のクーゲル。
「なんか、森の入口の方が騒がしいな?」
無数の魔物らしき気配がなにかに群がっている気配を察知するクーゲル。
「……まさか、バカのリンダが何かしでかしたんじゃ?」
と、大体正解に辿り着き、クーゲルはとりあえず様子を見に向かうことにした。
すると案の定。森の中を大量の魔物に追われるリンダの姿があった。
「あああああぁぁああ~~~~~~!! 死ぬ! 死んじゃいます!!」
絶叫しながら必死に逃げるリンダ。その服装は受付嬢のもののままであり、むしろその格好でよく走れるな、と内心で感心するクーゲル。
見ているだけというのも忍びないので、さっさと助けに入ることにした。
「おい! リンダ! こっちに来い!」
「えっ!? クーゲルさん!?」
「早く!」
言われるがまま、リンダはクーゲルの方へと向かって走る。
そしてクーゲルの下へと辿り着くと、すぐさまクーゲルによって抱きかかえられる。
「ひゃあっ!?」
「とりあえず、森から出るぞ!」
言うと、クーゲルは森の外へと向かってダッシュ。
当然、その道中にはこれまでリンダを追いかけてきていた魔物が居るのだが――クーゲルが強すぎるので、特に攻撃するまでもなく、走って正面からぶつかるだけで全部弾け飛んでいく。
「あ、あわわわ……こ、こわ……」
「安心しろ、リンダ。俺が守ってやるから」
「いや、強すぎて怖いのはクーゲルさんのほうです」
「あ、そう……」
ちょっと悲しくなるクーゲルであった。
その後、ダッシュで森を出たクーゲルは、魔物が追いかけてこれないぐらい遠くまで一気に距離を離し、安全な場所に来てようやくリンダを下ろす。
「ふう、なんとかなったな」
「あ、ありがとうございますクーゲルさん……」
リンダは緊張と恐怖、そして走り続けていた疲労からか息が上がっており、胸を押さえながら息を深く吸っていた。
「なんだろう、この感覚……とても胸がドキドキする……もしや、これって恋!?」
「魔物にビビってただけだろ」
いやビビってたのはお前にだクーゲルよ。
「でも、こういう時は吊り橋効果ってやつで恋が始まるって何かの本で読みましたよ?」
「じゃあ偽物の恋じゃねーか!!」
クーゲルのツッコミも虚しく、リンダは見事に吊り橋効果でクーゲルに恋をしたと勘違いしてしまうのであった。




