05 SSS級討伐依頼
数日後。リンダはだーれも来ない閑静なギルド受付で頭を抱えていた。
「なんで……!? クーゲルさんが強すぎて殺せる気がしないんですけど……っ!?」
順当な悩みである。
「里の秘伝の毒薬を致死量の1万倍ぐらい健康食品と偽って直食いさせてもケロッとしてるし! エンシェントアイスファングドラゴンの牙から削り出したすっごい短剣で心臓を一突きしようとしても何故か短剣の方が粉々に弾け飛んで壊れるし! 寝ている間に水球が顔を覆い続ける魔法を使っても次の日普通に起き上がって元気そうにギルドに来るし! どーなってるんですかあの人は!!!」
相当殺す気まんまんで襲いかかっていたリンダだが、まるで効果がないようだ。
まあ無敵のクーゲルを相手にしているので当然なのだが。
「クーゲルさんに教えてもらったステータスでは説明が出来ません。……はっ!? まさか!?」
何かに気づいた様子のリンダ。
「あの人の運がめちゃくちゃ良くてたまたま毎回失敗してる!?」
何にも気づいてない方がマシな方向に思い至るリンダ。
「くっ……そうともなれば、簡単に殺すことはできそうにありませんね……」
考え込むリンダ。
「こうなれば最終手段。クーゲルさん本人から確実に殺せるような弱点とかを聞き出すしかありませんね!」
馬鹿の考え休むに似たりと言うが、休んだ方がマシなことを考えるリンダ。
「あのさぁ。そういうこと、俺がギルドに訪れたタイミングで言うの辞めたほうがいいよ?」
「あっ! クーゲルさん!? これは受付嬢として! 受付嬢としての話ですから!」
「はいはい受付嬢としてのヤツね」
ちょうどギルドに訪れ、バカな計画を耳にしたクーゲル。
ただ、いつものことなのでかるーく流す。
「というわけでクーゲルさん。受付嬢として気になるので、クーゲルさんを確実に殺す為にはどうすればいいか教えてもらえませんか?」
「良かったなぁ、リンダ。それ訊かれてちゃんと答えてやるやつがターゲットで」
クーゲルは生暖かい目でリンダを見たあと、答える。
「……まあ、俺を殺そうと思ったら、まず間違いなくソイツも死ぬことになるだろうな」
「え……? なんか、カッコつけちゃった感じですか? 急に怖い……」
「あの、大真面目なんですが……」
実際クーゲルを殺そうとしたら惑星ぐらい簡単に壊れちゃう破壊力が必要である。
そしてクーゲルはこの世界で最強なのだから、クーゲルの死ぬような破壊力に巻き込まれて耐えられずに死ぬ。
当然の道理である。
(まあ俺は最強だから殺されてもすぐ復活できるんだけどね)
心の中でどこかズレたツッコミを入れるクーゲル。最強すぎて常識を失った哀れな男である。
「……ふむ。そんな大言壮語が吐けるだけの実力があるというのでしたら、この依頼を受けてもらいましょう!!」
そしてリンダは、話の流れからごく自然に討伐依頼の依頼票を取り出した!
とっても自然だったので、クーゲルは話に乗ってあげることにした。
「それは……SSSランクの広域討伐依頼だな?」
「ええ。なんか強すぎて暗殺できないぐらい強いクーゲルさんならこれぐらいの依頼、簡単にこなせるはずです! あ、ちなみに」
「はいはい、受付嬢として暗殺できないぐらい強いって思ってるだけなんだろ。分かってる分かってる」
リンダの発言を適当に封じながら、クーゲルは依頼票の内容に目を通す。
「ふーん……全人未踏の危険エリア『迷いの瘴気の呪いの森』の最深部調査及び魔物の駆除ね……だっせえ名前の森だなぁ……」
「ですが、この森は外縁部だけでもSSSランクに該当する魔物がうようよいる危険エリアです! 私でさえ、一体ずつ遭遇しないと倒せないから気配を隠して移動しなきゃいけないんですから、相当ですよ!」
「お前暗殺者のわりに腕っぷしだけ強すぎない?」
「受付嬢です! 間違えないでください!!」
「あーはいはい受付嬢受付嬢」
リンダに適当なツッコミを入れながら、クーゲルは考える。
(最近ちょっと運動不足気味だったし、この森でひと暴れしてくるのもいいかもなあ)
強くなりすぎて、無抵抗に攻撃されただけでも相手が粉々に弾け飛んで死んでしまうようになったクーゲル。
その為、戦闘らしい戦闘が全然出来ていないことを気にしているのだ。
(強すぎて運動不足になって、将来太ったりしてもイヤだしなぁ)
ビール腹になったオッサンの自分を想像し、恐怖するクーゲル。
が、この身震いを見てクーゲルが怯えてると判断しニヤリと笑うリンダ。
「あーもう決定! この討伐依頼受理しちゃいました! もうクーゲルさんはここに行かないと駄目ですからね~~~~!! ――よし、勝った!」
「まだ勝ってねぇだろ。……まあいいや。そういうことなら、ちょっくら行ってくるよ」
というわけで、クーゲルはなんかやべー森へと討伐に向かうこととなった。