01 とりあえず6歳
で、転生してから6年が経った。
「は~……色々あったけど、なんとか今日まで無事に生き残ることが出来た」
男はため息を吐く。
その姿は生前の面影など全く残っておらず、紅の髪にグリーンの鮮やかな瞳を持つ、優しげな顔立ちの美少年となっていた。
「……でもさぁ。イケメンに転生できたのはとりあえずいいよ。父さんと母さんもいい人だしさ。でも!」
ダンッ!! とテーブルを叩く男。
「俺の名前が『クーゲル・シュライバー』はさすがにふざけすぎてんだろ!!!!!」
男――いや、今となっては転生者クーゲルは天に向かって叫んだ。
「あらあら。クーゲルったらまたよくわからないことを叫んでるわね」
「はっはっは! 元気で良いことじゃあないか!」
そんなクーゲルの様子にも動じずに、ニコニコと笑っているこの二人が母親と父親。
母親が『ゲシクテ・シュライバー』であり、父親が『ラングザマー・シュライバー』である。
とりあえず、クーゲルとしてはその意味がきになるところであったが、ごく普通だったのでドイツ語には詳しくない。
クーゲルシュライバーがドイツ語でボールペンを意味する、という豆知識をたまたま知っていた程度である。
「……ふぅ、ごめん父さん、母さん。ちょっと発作が出ちゃったよ」
「ふむ、構わん構わん! 子供は元気が一番だ!」
「そうねぇ。朝から元気で立派よクーゲル。さあ、朝ごはんが出来たわよ~」
どう考えても妙な子供のクーゲルだが、謎に器の広いラングザマーとゲシクテは、些細な事は気にしないとばかりにクーゲルを受け入れていた。
そんな優しい両親のことが、クーゲルは大好きである。
「うん! ありがとう母さん!」
「さあ、召し上がれ♪」
「いただきまーす!」
クーゲルが朝食に手をつけようとしたその時であった。
「オラオラ! クーゲル、飯くってる場合じゃねーぞ!!!」
バァンッ! と扉を開けてシュライバー家の食卓に侵入した少女がいた。
水色のショートヘアに金色の瞳を持つ、快活そうな見た目の美少女である。
「げっ! ルーデじゃん!」
そう、この少女こそがクーゲルの出会ったヒロイン1号であり、たった六年の人生を波乱万丈に塗り替えた元凶、不条理系ギャグ漫画キャラの『ラリルーデ・ヤクスード』である!
「おうクーゲル! 来てやったぞ!」
「何だよルーデ。今から朝ごはん食べるとこなんだから来んなよ」
「うるせー! アタシが来てなんか悪いか!? そんな物理ほーそくどこにもねーだろコラ!!!!」
「いや、物理法則とかじゃねーよ? 飯食わせろって話だよわかんねーかな?」
こんな調子で、ラリルーデこと愛称ルーデはクーゲルに日夜絡み続けているのである。
「は? 飯だったらいらねーだろ。見ろ、アタシがおかき焼いて来たんだぞ!?」
ルーデはポケットからおかきを取り出した!
「ほら食え! このおかき良いおかきだからな!!!」
言いながら、ルーデはおかきをクーゲルのほっぺたにグリグリ押し付けます。
「いや、食えね~よ。押し付けんなって……いや、だからグリグリすんな! 油で汚れるだろ!」
ちなみにクーゲルはチートスキルのおかげで最強なので、おかきをグリグリされても痛くないし、油汚れもススッと落とせる。
「文句いってんじゃねー!」
「ぐべっ!?」
バシンッ! とクーゲルの顔面を殴るルーデ。
「あらあら。相変わらずルーデちゃんとクーゲルは仲がいいわねぇ」
「これは将来はうちにお嫁さんに来てくれるかな?」
どう見てもやり過ぎなルーデだが、謎に器の広いクーゲルの両親は笑って受け入れていた。
「え、いや、あの。そんなお嫁さんだなんて……っ♪」
そして急に照れ始めるルーデ。
この態度からも分かるとおり、ルーデはクーゲルにぞっこんなのである。
まあ、ルーデはこのとおり滅茶苦茶やらかす女の子なので、それに付き合える唯一の存在クーゲルに好意を抱くのも仕方のないことであった。
(……こーいう照れてるとこが可愛いから、憎めないんだよなぁ)
ため息を吐きながら、諦め気味にルーデを受け入れるクーゲル。
「……で、ルーデは本当におかき食わせたくてうちに来たのか?」
「あ、そうだ! おかきなんてどーでも良いんだよバカ!!」
「じゃあ出すなよ」
ルーデはおかきを放り投げるが、もったいないのでキャッチして食べるクーゲル。
「すげーもん手に入れたんだ! 見に来こいよクーゲル!」
「はいはい。とりあえず朝ごはん食べ終わるまで待ってな?」
「ちっ、しかたねーな。三十分だけ待ってやる」
「まあまあ長いな!」
そんなこんなで、クーゲルはルーデに付き合う羽目となった。