01 なんか敵国で噂になってる
所変わって、クーゲルの住んでる国の隣、いわゆる敵国ってやつのなんか重要な施設にて。
偉い人がクーゲルの噂を聞きつけ、危機感を抱いていた。
「ふむ……あの恐るべき化け物、伝説のエンシェントアイスファングドラゴンの討伐に加えて、かの有名な……名前はなぜかよく思い出せないがマフィアが経済の大部分を牛耳っていたとも言われる都市にてそのマフィアを壊滅させた少年冒険者か……」
見事な解説っぽい独り言をつぶやきつつ、考える。
「……危険だな。間違いなく英雄になる素質がある。我が国にとって強大な敵となりかねない」
続けて状況がよく分かる独り言を言いながら、ふと部屋の一角に視線を向ける。
「――バッカス、居るのだろう?」
「は、ここに!」
偉い人が視線を向けたのとは全然関係ないところから、黒装束に身を包んだ女性が姿を現した。
見当違いな方向を向いていたことなどおくびにも出さず、偉い人は続けて話す。
「新たな任務を言い渡す。――隣国の冒険者、クーゲル・シュライバーについて調査せよ。そして我が国の敵となるようであれば……殺せ」
「御意に」
任務を受け取った黒装束の女性は、シュッと消えるやつでその場から立ち去った。
屋根裏の方からゴンッ、という音と共に「痛ったいっ! 何この柱!?」と頭かなにかをぶつけたらしい声が聞こえてくるのはご愛嬌である。
「……ドジでバカでアホなのが玉に瑕だが、我が国で最強かつ最高の暗殺者だ。問題なく任務をこなしてくれると信じよう……」
説明口調でわかりやすい独り言とフラグをつぶやく偉い人であった。