03 ケジメ案件
「で? なんでテメーらは他人の名義で借金を取り立てられると思ったんだよ、アアン!?」
ヤクザ集団をあっさりとボコボコにして撃退し、説教するクーゲル。
「借金したのも掛けたのも全部ルーデだろうが! なんで俺から取り立てるって話になったんだよ! おかしいだろうが!」
「ふぁい……」
ヤクザ達もボコボコにされては逆らえません。
クーゲルに言われるがままとなっていた。
「……まあ、ルーデが借金したこと自体は事実みてーだからな。そこは俺がどうにかあの馬鹿に働かせて返させるから。今はとりあえず帰れ」
「ふぁい」
顔面がボコボコになったヤクザ達は、ぞろぞろと並んで自分のシマへと帰ってゆくのであった。
で、ヤクザを追い返した後、クーゲルはすぐにルーデを見つけた。
「おらぁぁぁあああッ!!!! 覚悟しろやルーデェェァァァッ!!!」
「ほげッ!!」
飛び膝蹴りを見事ルーデの顔面に叩き込むクーゲル。
「行くぞ」
「え、ど、どこへだよ……まさか、秘密結社『闇のダークファンネル』の本拠地!?」
「闇が被ってんぞ」
こんな時でもしっかり律儀にルーデにツッコミを入れるクーゲルであった。
「お前の借金を返す為に、冒険者ギルドで指名手配されてるモンスターを狩りに行くんだよ」
「は? なんでそんなことしなきゃいけねーんだ??」
「分かんねー……分かんねぇ理由が分かんねぇ……」
頭を抱えるクーゲル。
「いいか、ルーデ」
「うん」
「お前がこさえた借金はお前が金を稼いで返せ」
「えぇ~……めんど」
「殺してやろうかこいつ……」
すぐに蘇生の魔法使えば大丈夫だろ、とか物騒なことまで考え始めるクーゲル。
「ふん、そんなにアタシを働かせたいなら、力付くでやってみな!」
「分かった」
顔面がボコボコになったルーデを引きずりながら、クーゲルは遠いどっかそのへんの山脈の頂上付近へとやってきた。
「この辺にエンシェントアイスファングドラゴンが住んでるらしいな。ルーデ、俺も手伝ってやるからちゃんと討伐するぞ」
「ふぁい」
抵抗する気力すら失ったルーデが戦えるのかは甚だ疑問だが、ともかく戦うこととなった。
「お、来たみたいだ」
「あ、あわわわ……あわわわぁ……」
クーゲルが気楽にいう。が、ルーデはエンシェントアイスファングドラゴンの迫力に圧倒されてあわあわしてしまう。
「もう無理……アタシ駄目だ……刺し身になる……」
そしてとうとう、ルーデは刺し身に擬態した。
見事に刺し身にしか見えない擬態! エンシェントアイスファングドラゴンはルーデを餌と認識した!
「あ、あわぁ……食っても美味くないぞ、アタシサシミ……マズイサシミ……」
「変なことやってねーで戦え」
クーゲルは刺し身になったルーデを、エンシェントアイスファングドラゴンの方へと蹴り飛ばした。
「ぎゃあああああああああ!!」
が、力加減を誤ったので刺し身のルーデが綺麗に角を立てて切ったように擬態していたのもありエンシェントアイスファングドラゴンに突き刺さる!
この一撃がトドメとなり、エンシェントアイスファングドラゴンは倒れた。
ずしーん、と音を立てて倒れるエンシェントアイスファングドラゴンと、その胸元に突き刺さってたせいで巻き込まれて下敷きになるルーデ。
「ぐえっ」
「やればできるじゃねーか。帰るぞルーデ」
「あい……」
ずりずりと身を捩りながら脱出するルーデ。
と、そんなこんなで討伐が終わった二人だが、なにやら大勢の人の気配が近寄ってきていることにクーゲルが気づく。
「なんだ? 誰か近づいてくるな……」
「ああん? じゃあこのドラゴン見せびらかしてビビらしてやろーぜ!」
ドラゴンが死んだ途端態度がデカくなるルーデであった。
そうこうしているうちに、気配の元が姿を見せる。
なんと、神さまとかそういうやつを信仰してそうな服を来た人々であった。
そして、その中心には桃色のボブカットヘアに水色の瞳のリーダーっぽい少女が、聖女~って感じで居た。
「お前ら、この辺りにエンシェントアイスファングドラゴンというやばい魔物が居るはずなのだが、知らないか?」
その中の一人のおっさんがクーゲルに話しかけてくる。
「あー、それなら俺たちが倒したよ」
「何だと!? 嘘をつくな! お前のようなほどほどにイケメンだが探せばどこにでもいそうなツラをしたガキにエンシェントアイスファングドラゴンが倒せるわけが無いだろうが!!」
おっさんはクーゲルの言ったことが信じられず、食って掛かってきた。
「いや、嘘とか言われてもさぁ」
「正直なことを言わんと、為にならんぞ!」
そしておっさんは武器っぽいメイスを構える。
すると、ここまで沈黙を貫いていた聖女っぽい少女が口を開く。
「――待てや、ロッチ」
おっさん……ロッチと呼ばれた男は、途端に恐れおののいた様子でその場にひれ伏す。
「へい、頭! どうなさいました!」
「おどれ、何様のつもりでカタギに手ぇ出しよるんじゃ」
聖女っぽい少女は、なんだかヤクザっぽい感じでロッチに向かって凄みだした!
「へ、へい。そりゃあ、あの……」
「答えれんのかい、エエ!? どうなんじゃゴラ!」
「すいやせん、頭!」
「謝るようなら、ハナからキバッとんちゃうぞ、ガキャァ!!」
そして聖女っぽい少女は、なんとロッチの顔面を思いっきり殴り飛ばした。
ロッチは吹き飛び、そのまま鼻血を流しつつ気絶した。
唖然とその様子を見ていたクーゲルに、聖女っぽい少女が話しかける。
「すまんのぉ、カタギの坊っちゃん。ウチのもんが迷惑かけよったみたいで」
「あ、いえ……大丈夫っす」
「見たところ、冒険者やろう? ギルドには後から侘び入れさせてもらうけん、許してくれるか?」
「あ、はい」
「すまんのぉ。ワシらはこういうもんじゃ。なんかあったらギルド通してでも言うてくれ」
そういって、聖女っぽい少女は名刺っぽいなにかを渡してくる。
受け取ったクーゲルがそれを読む。
「……『清光会組長、テスタロッサ・サクライ』……?」
首をかしげるクーゲルをよそに、聖女っぽい少女……テスタロッサは引き上げてゆく。
「帰るぞ、お前ら!」
「へいっ!!」
テスタロッサとその配下一同は、ぞろぞろと立ち去ってゆく。
そんな様子を眺めながら、クーゲルは考える。
(……キャラが濃い……絶対ヒロインじゃん……)
またもや厄介そうなヒロイン候補の登場に、若干げんなりしていた。