プロローグ
新作でーす!!!!!
わりと正気な方のコメディを書いたのでよろしくお願いします!!!!!
その男はごく普通の、ほんと~~~に何の特技も能力もない、一般的な男であった。
ただひとつ、つい周りの人間のツッコミどころにツッコまずにはいられないという性格を除けば。
そんな彼は、友人のボケに小気味よくツッコミを入れながら、ごく普通に成長し、ごく普通に大学を出て、ごく普通の企業に就職した。
しかし!
その就職先の上司がクソであった。
サボりぐせがひどく、部下に自分の仕事を投げて自分は楽をするタイプで、その割にフォローが下手なため、部下に嫌われるタイプの上司であった。
なのである時、一人の部下が限界が来て辞めてしまったのを切っ掛けに、短期間で一斉に同じ部署の社員が退社、休職、部署異動をしてしまった。
そんな流れに取り残されてしまったごく普通の男は、普通なのでなにか特別なことを出来るはずもなく、普通に上司の無茶振りに応えざるをえなかった。
その結果、三時間睡眠の二十四連勤という地獄のスケジュールをこなす羽目となった。
で、その地獄をどーにか乗り越えた男は、ようやく訪れた休日を満喫し、目一杯眠るつもりであった。
しかし、そんな男が帰宅したと同時に、上司から電話がかかる。
「いやー、悪いけど明日も出てくんないかな? 急な仕事でボクそっちの仕事を出来なくなっちゃってさー」
と、悪気もなさそうにヘラヘラと報告する上司。
当然、男はごく普通――なのだが、ツッコミをしてしまう性格が災いしてしまい。
「ブラック企業かよ!!!」
と怒りのままに声を張り上げツッコミを入れてしまった。
すると急激に上がった血圧と限界を超えた疲労により脳内出血を起こし、そのまま倒れてしまった。
しかも男は一人暮らしで、上司もカスだったので突然電話口で喋らなくなった男に違和感もおぼえなかった。
結果、救急車を呼ぶような人間はおらず、そのまま男は死んでしまった。
――そんな男の死に様を、とある女神様が見ていた。
まあまあ笑える死に様であったことから、その女神様は男に褒美を与えることにした。
それは最近流行りの異世界転生というやつである。
「――というわけで、貴方はこれから私の管理する異世界『ナンディーヤ・ネイン』に転生することとなったのです」
「いや異世界の名前! なんでやねん!」
男は女神に説明を受け、ついツッコミを入れてしまった。
「そこはどうでもいいでしょう。それよりも貴方は転生したくないのですか? 流行りの異世界チート転生ですよ?」
「あ、チートつくんですか?」
「もちろん」
「じゃあ転生します!!!」
ごく普通なので、男はほどほどに現金なヤツであった。
「では、どのようなチートをお望みですか?」
「異世界で最強になれるようなヤツと、たくさんの美少女とハーレムになれるヤツをください!」
ごく普通なので、男は異世界チート転生の主人公にありがちな能力を求めた。
「すみません、それは無理です」
「え、なぜですか?」
「貴方の魂はごく普通なレベルなので、そこまでのチートは授けられないのです」
「えーっと、じゃあどれぐらいのチートを?」
「そうですね……異世界モノによくある、パッと見糞スキルだけど、実はちゃんと鍛えると最強になれるチートスキルぐらいでしょうか」
「鍛えるって、どれぐらいですか?」
「異世界モノによくあるぐらいなので、サクッと昔の話としてスキップされがちな『何度も死にかけたなぁ』と主人公が回想するレベルの修行ですね」
「あー」
男は普通なので、そのテの異世界モノのことはよく知っており、女神様の言うことが容易に理解できた。
そこで男は、異世界モノにありがちなごく普通の提案をする。
「では女神様。デメリットありのチートスキルを複数手に入れつつ、メリットの部分で互いのデメリットを解消するような形でチートを貰えませんか?」
「ああ、なるほど。ありがちな普通のヤツですね? 魔力を常時使用するというデメリットのあるスキルを、魔力回復のスキルで帳消しにしたりするアレをお望みと」
女神様も異世界転生には詳しいので、男の話をすぐに理解できた。
「分かりました。では、私に出来る範囲で試してみましょう」
「ありがとうございます!」
男は素直に感謝した。
「ではいきます。む~~~~~~~ん……ホイサッサッ!!」
女神様の間抜けな掛け声と同時に、2つの光が男の身体に吸い込まれていく。
そして光が男の身体に定着すると、次第に光は消えていく。
完全に光が消えたところで、女神様はうんうんと頷いた。
「よし、うまくいきましたよ!!」
「本当ですか!? どんなスキルになったんですか!?」
男が尋ねると、女神様は得意げに言ってみせた。
「はい。1つ目は最強にして無敵の能力を手に入れるが、それを活かす機会にあまり恵まれないというデメリット持ちのスキル『天下夢想』!」
「ふむふむ、それで?」
「2つ目は、魅力的な異性と出会いモテモテになりラブラブになる運命力を手に入れるが、そのデメリットとしてヒロインがギャグ漫画世界の住人のようになってしまうスキル『限定魅了(笑)』です!」
「……はい?」
男は自分の耳を疑った。
「あの、女神様?」
「完璧です。上手く行きました。最強の能力を披露する機会に恵まれないデメリットを、厄介ゆえに最強でなければ耐えられないようなヒロインと強制的に出会えるスキル『限定魅了(笑)』で打ち消しました。そしてギャグ漫画世界の住人とでも対等に渡り合えるだけの力を『天下夢想』で手に入れました!」
女神様の言い草に、ついに男は限界を迎えた。
「――いやいやいや!!!! なんでなんでなんでなんで!?!?!!? おかしいでしょ、何だよギャグ漫画世界の住人って!!」
「それは仕方ありません。貴方の人生が少しだけそちら寄りだったせいで、魂もそちらに傾いていたのですから」
呆れた様子でため息を吐きながら、女神様は男に諭す。
「これが不幸寄りであれば、貴方が出会うヒロインはみな不幸な目に遭うことが確定しているとかになっちゃいますよ? 必ず全員救わないと後味悪いですよ? そんなこと出来ますか? ごく普通の貴方に!」
「うっ……そう言われると、俺には無理っぽい感じが」
「でしょう? であればこれでいいのです。少なくとも、貴方の失敗でヒロインが不幸になるようなことは無いですよ? まあ、ツッコミがキツすぎて殺しちゃうことはあるかもしれませんが……」
「ええっ!? 俺のツッコミそのレベルで強くなるの!?」
「もちろんです。最強なんですから。とは言え、相手もギャグ漫画世界の住人ですから、例えば核兵器を腹の中で爆発させたぐらいじゃ死にませんので安心してください」
「ギャグ漫画補正つっよ!!!??? いやむしろそのレベルの人間を殺しちゃうかもしれない俺は何なの!?!??!!?」
「それは転生すればおいおい分かってきますよ。それではいってらっしゃいませ~~~♪」
「へっ!?!?? う、うわぁあああぁあああ~~~~~!!?!?!!?」
こうして男は異世界『ナンディーヤ・ネイン』へと転生するのであった。