97.よく回る口
フェリクスとの日程はヘルムートが調整した。当然アンネマリーが王城へ赴くのだろうと思っていたのだが、ヘルムートは余程アンネマリーが心配だったのだろう、フェリクスを呼び寄せる形としたらしい。
「あっちが会いたいと言ったのだから別に良いだろう?」
大丈夫か訊ねたアンネマリーに何も問題はないと答えたその顔は少し口端が上がっていた。若干嫌がらせも含んでいるに違いない。しかし、王太子にそういう事をするのはどうなのだろう。
そうして、アンネマリーはいつもより上等なデイドレスに身を包み、玄関前でかの人の到着を待っていた。使用人達は皆、何処か緊張の面持ちだが、仕事上の関わりがあるギュンターとヘルムートは酷く面倒臭そうだ。母エリゼはいつもと同じ調子で一人で喋っており何だか楽しそうである。
馬車が門を抜けたと報告を受けたアンネマリー達は外へ出た。速度を緩め走ってくる王家の紋章入りの豪華な馬車。それが目の前で止まり、ゆったりとした歩みでフェリクスが降りて来る。
「やあ、今日は休みかい? 二人とも。別に一家全員で出迎えなくても良かったんだよ? 僕としてはアンネマリー嬢に会えればそれで良かったんだし」
久しぶりのフェリクスを見て、そういえばこういう人だったと思い出した。にこやかに嫌味を言い、そしてよく喋る、そんな人。
(前はエドと一緒に聞いてたな)
以前はエドウィンと共に彼と話していたが、今日エドウィンはいない。その当たり前でしょうがない事実に少し心が沈んだ。
フェリクスの言葉にギュンターらはにっこりと微笑む。
「王太子殿下が来るのです。一家全員でで迎えるのは常識でしょう。不敬になってしまう」
「はは、そんな訳ないだろう? それだけで不敬になったら今頃お取り潰しになった家ばかりだ! 全く君達は大袈裟だな。ただアンネマリー嬢に対応させたくなかっただけだろう? 別に僕は何もしないのにさ。僕には愛するクラリッサが居るんだよ?」
「大袈裟などではありませんよ。貴方様は尊い身、これが普通で御座います。それに王太子殿下がトールマン公爵令嬢を愛しているのは存じておりますので、その事に関しては心配しておりません」
「その事に関しては、ね。他に心配している事があるって言っているようなものだ」
笑顔という仮面を貼り付けたまま行われる微笑ましくないやり取りににアンネマリーは呆気に取られた。他の家族はどうだとエリゼへ視線をやれば「あらあら」と笑っている。自分の夫と王族が不穏な感じでやり合っているのに笑える神経がアンネマリーには分からなかった。
溜息を吐いたヘルムートが二人を止める為に、フェリクスの名を呼んだ。そして父を一瞥し、口を開く。
「こんなところでは何でしょう。中へどうぞ」
「やあ、そうだね。此処は陽がよく当たるから暑かったところだよ。じゃあ、中に案内してくれるかな」
フェリクスは一言余計な言葉を放ちながら、玄関へと向かう。その際にアンネマリーに微笑み掛け「元気そうだ」と微笑んだ。
元気そうに見えたなら何よりである。だがその言葉に本人よりも反応したのはギュンターだった。特にフェリクスは深い意味で言ったのではないだろう。しかしフェリクスの言葉にギュンターはスンと表情を無くす。
そんな父の表情にアンネマリーはヒヤヒヤとした。だがすぐにヘルムート父を制止する視線を送ったので、それ以上問題は起きなかった。
「じゃあ、過保護な君達は部屋を出てくれるかい?そんな怖い顔をされちゃあ、話なんか出来ないよ。別に脅そうとか殺そうとか害そうとしている訳じゃないんだからさ。少しは落ち着いて。ただ話に来ただけなんだ、僕は。ヘルムートから注意事項は聞いたし、君達が望まない話はしないつもりだ。だってそういう約束だからね、だから出ていってくれないかい?」
応接室へ入り、少し挨拶程度の話をした後、にこりと笑ったフェリクスはそう一気に言い放った。
ギュンターとヘルムートは慣れているのだろうが、慣れていないアンネマリーとエリゼはポカンとしてしまう。よくもまあ、こんなに一気に話せるものだ。
少し感心したアンネマリーだったが、自身が当事者であった事を思い出し、眉根を寄せている父と兄へ声を掛けた。
「私は大丈夫ですよ」
「だそうだ、出て行ってくれるかな?」
アンネマリーがそう言うなら家族達は何も言わない。しかしフェリクスの言葉は苛ついたのだろう、エリゼ以外の視線は険しかった。
フェリクスはギュンター達を追い出すと、さてと言う様に姿勢を正した。足を組み替え、王族特有の青い瞳をにこやかに細める。
「やあ、今回も大変だったね。君はこういう星の元に生まれているのかな?あんまりそういうの今まで気にして無かったけど、やっぱりあるんだろうね。いや、だとしたら大変だ」
確かにそんな星の元に生まれていたら大変である。実に嫌な事を言う人だとアンネマリーは愛想笑いを浮かべた。愛想笑いをされるのは慣れているのだろう、フェリクスはあからさまな愛想笑いをさして気にせず、注がれたばかりのお茶に口をつける。
アンネマリーも本題が始まるまでは気を抜いておこうとお茶に口を付け、薄く微笑んだ。
話すなら早く話して欲しい。早くこの場が終わるからだ。だが、聞きたくなくずっとお茶を飲んでいたい自分もいた。
アンネマリーは受け身の姿勢でフェリクスの言葉を待つ。話し続けるわりに本題は全く出て来ない。どうせあの魔石の事を聞きたいだけだろうに、とアンネマリーは心の中で苦笑した。
次回更新は明日夕方!
良ければ「いいね」や評価、ブクマをしていただけると今後の励みになります。
宜しくお願い致します。




