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90.水を差す


「ヘルマン侯爵令嬢、血が」

「大丈夫です、口が切れているだけなので……。それよりも」


 心配するゲオルグの顔も見ずにアンネマリーは、蹴り飛ばされた先でゆらりと立っているリリーを見ていた。


 ゲオルグはどれだけの力で蹴り飛ばしたのか、吹っ飛んだリリーは煤けた造形物に勢いよくぶち当たり、それを破壊する。瓦礫の中で立ち上がったリリーに感情は見えない。痛みなどもう感じないのだろうか。しかし、アンネマリーはまだあの中にリリーは居ると確信していた。


 両親の愛でリリーは間違いなく揺らいだ。あの中でリリーは抵抗しているに違いないのだ。


 アンネマリーは止めた言葉の先を視線で伝える。今は自分の心配よりもリリーに集中して欲しい。

 今、リリーが見える範囲に居る人間はアンネマリー達しか居ない。つまりまた何かをされるに違いないのだから。


 何かあったら直ぐに反応出来るよう結界の心算をアンネマリーはした。誰も殺させはしない。だってリリーが目を覚ましたら時に誰かが死んでいたら悪夢だろう?


「おい」

「はい、何でしょう」


 短くカーティスに呼ばれ、アンネマリーは視線を向けずに答える。いつもより間延びしていない声は緊張感を孕んでいるように思えた。


「一応伝えとくわ、俺の側近が救援を呼んだ。だから恐らくだが30分以内には騎士団やらなんやらが来る。どうにかしてぇならその前にどうにかしろ」


 つまりこのままだとリリーは捕縛ではなく、殺されてしまう可能性が高いという事だろう。まだ恐らく僅かに自我があるというのに。


「……30分」


 どうにか出来るだろうか。何も方法を知らないのに。


 アンネマリーは深く頷くと短く「やります」と答えた。カーティスは暫し無言だったが、喋り始めに「ハッ」と笑い出す。


「口だけは立派だなぁ?」


 嫌味な言葉は頭に来る。しかし、今はそれどころではない。


「わかんのか?あれが」

「わかりませんよ、でもやるしか」

「そうか、そうだよなぁ?」


 挑発しているのか、本当に同意しているのか分からない。カーティスは徐ろに地面に手をつくと聞き取れない声で何かを口にした。それが詠唱だったと気付いたのは地面から蛇のように蔦が現れた時だった。


 蔦は一直線でリリーへと向かい、腕を巻き込むように拘束する。蔦でぐるぐる巻きにされたリリーはその場に倒れ込んだ。しかし拘束するだけでは何も解決しない事はカーティスも分かっているのだろう、さてと言う風にアンネマリーを見た。


「どうする、どうせ直ぐにこれも取られるぜ」


 リリーはもがきもせず、地面に横たわっている。だがただ横たわっているのではない。カーティスの言うように拘束を解いた。じわじわとリリーに触れている部分が焼け落ちていく。じわりと黒く変色した部分から蔦は崩壊し、ものの数秒でそれは完全に消えた。


 カーティスは舌打ちをした後『やっぱりな』と地面から手を離す。答えの出ない問題にアンネマリーは眉根を寄せた。拘束では無く、中からそれを追い出す方法を見つけなければならない。


「殿下は呪術の解呪をした事がおありですか?」


 アンネマリーはカーティスにそう訊ねる。もしかしたらたくさんついている魔導具の中に一つにそういうものがあるかもしれないという気持ちがあった。しかし、カーティスは無常にもそれを否定した。


「ねぇな。あれは呪いかぁ?」

「その可能性が高いかと」


 そうしてくると解呪出来る人間は恐らくこの場には居ない。視界の端にいるゲオルグにも聞いてみたが、答えは否だった。


「リリー!リリー!」

「離して!リリーのところへ行かなくちゃ!離して!!」


 こうしている間にも結界が無くなった事でバルト子爵達がリリーの元へと向かおうとしていた。それを止めているのはカーティスの護衛達である。後ろから羽交締めにし、動きを制止していた。悲壮な、必死な親の声に護衛達も苦しそうに顔を歪ませている。『駄目です!』と叫ぶように言っていたが、それの半分は自分に言い聞かせているようにも聞こえた。


 あの人達の為にも必ず戻してあげなければならない。

 アンネマリーは改めて握り締めていた手に力を入れ、カーティスへと声をかけた。


「殿下、これから救援にくる人にリリーのペンダントを持ってくるよう伝えて貰っても良いですか。あと呪術師も連れてきて欲しいと」


 だから可能性があるのなら少しでも縋らなければならない。

 カーティスはアンネマリーの言葉に頷き、視線を後方へ向ける。そこに居たのはカーティスの側近だ。側近は心得たとばかりに力強く頷き、王族の緊急時にしか使えないという魔導具を光らせた。


 どうにか出来るかも知れない。根拠は無いが、希望が見えてきた。


(いける、いけるかもしれない)


 根拠は無い。だが自身を奮い立たせなければ事はならない。最悪の未来を考える事を封じ、アンネマリーは赤い瞳に力を込める。


「もう殺した方が良いのでは」


 しかし、そんなアンネマリーに水を差す言葉を掛けたのは意外にもゲオルグだった。薄く笑った顔に温度のない紫眼が光る。それを見てアンネマリーの表情がストンと落ちた。




次回更新は明日16時頃になります。


良かったら下記の連載もどうぞ。

●家出令嬢、不埒で意地悪な元魔術師に唇を奪われる

https://ncode.syosetu.com/n8572ia/

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