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81.嫌い


 翌日である。


 リリーの体調を見て、という事だったが本人の申し出もあり朝食後に目的であるペンダントの話をすることになった。立ち会うのはアンネマリー、カーティス、そしてゲオルグだ。医官の立場で見てみたいとは言うが、今日はそういう話ではない。カーティスが説明をしていないという事は容易に想像できたが、アンネマリーから改めて言う事でもないだろう。終わってみて違ったと思うかもしれないが、それこそアンネマリーにはどうでも良いことだ。


 侍女を伴い、指定された部屋へと出向くと既にリリーが着席していた。学園では見た事の無いゆったりとした様子に少しほっとした。退学と聞いた時は少なからず罪悪感があったが、こうして見るとこれで良かったのかも知れないとも思える。勿論自己満足ではあるが。


「今日はありがとうございます、リリーさん」


 リリーの向かい側に腰掛けるとカップが目の前に置かれ、紅茶が注がれる。フルーティーな香りが立ち上った。

 リリーは首を横に振り、困ったように微笑む。気にするなと言いたいのだろう。あと、やはり彼女の中でもアンネマリーへ罪悪感がある事がわかった。それはそうか。あんな事をしておいて罪悪感が無い方がおかしい。


 そう考えるとやはりあの二人の王子に執着し、アンネマリーを目の敵にしていたリリーは少しおかしかったのかもしれない。


 二人静かにお茶を飲んでいると時間の5分前にカーティスとゲオルグが入室してきた。カーティスは朝よりもけだるそうに体幹をゆらゆらと揺らしながら勢いよくソファーへ腰掛ける。ゲオルグは軽く挨拶をした後、座るのではなくカーティスの背後を定位置とした。

 席はある。座らなくても良いのだろうか、と視線をカーティス向けると面倒くさそうに手を振られる。


「こいつは良いんだよ、気にすんな」

「そうですか」


 斜め後ろにいるゲオルグを見ると大きく頷かれた。本人も良いのなら問題はない。


「ではリリーさん、大丈夫ですか?始めても」


 今回の仕切りはアンネマリーである。手元に広げたノートに日付を記載しながら訊ねた。リリーはこくりと頷き、同じくサイドテーブルに置いてあったノートを広げる。


「手紙とも重複してしまうのだけど、ペンダントは机に置いてあったと。他に気になる事はありました?」

『特に何も』

「何か違和感とかもなかったです?」


 頷くリリーにアンネマリーは『そうですか』と返事をした。


「リリーさんは誰がくれたのかも分からないものを直ぐに身に着けてしまう質ですか?これは嫌味ではなく、今までも?という意味です」


 アンネマリーの言葉にリリーは眉根を寄せた。だが、思うところがあったのだろう、視線を斜め上に向け口を真一文字に結んだ。何度かゆっくり瞬いたあと、何故か悔しそうにノートに文字を書き込んでいく。


『言われてみれば、普段はそんな事をしない。気持ち悪いから』

「ああ、普通の反応で安心しました。ではそれは特別だったという事ですね」

『付けなきゃと思った様な気がします。自分の趣味じゃないけど誰か男子がくれたなら付けなきゃって』

「なるほど」


 自己申告なので完全に信用するわけではないが、誰が置いたのか分からないものを付けるのは普通ではないと知っているようだ。その思考があるのならやはりそのペンダントに何かしらの効果があった可能性がある。


 アンネマリーはノートに自分の疑問を書き、大きく丸をした。


「では、付けてからですけどおかしな事はありました?」


 アンネマリーはリリーのおかしなところしか見ていない。ペンダント云々は事件で分かった事。もしかしたらペンダントのせいでおかしくなったのかも、というのも事件がきっかけだ。思い返してみれば強引さに拍車がかかり、アンネマリーを親の仇のように見ていたが、その当時は意地になっているのだろうと正直思っていた。


『あなたがとても嫌いになりました』


 リリーの返事を待ちながら当時を思い出していると、鋭い言葉が目に入る。


『最初はあなたを足掛かりに玉の輿になろうと思っていました。でも段々とそれがあなたを如何に苦しめられるかという事になっていたように思います』


 顔を歪めて文字を見せたリリー。アンネマリーは正面から『嫌い』だと言われ、複雑な気持ちになった。リリーがアンネマリーを嫌いなことは当時から知っていた。寧ろ知らない人はいないだろう。だから隣のカーティスも面白くなさそうに欠伸をしている。

 アンネマリーもリリーの事が好きでなはい。当然だ、あのような事をされてそれでも嫌いになれないと言えるほど出来た人間ではないのだ。


「そうですか」


 それ以上の言葉は出ず、アンネマリーはリリーから目を背けた。嫌い合っている、その事実はお互い知っていた筈なのに『そうか』と受け入れられないのはどうしてだろう。自分も嫌いだと言えば良いのだろうか。


「そうでしょうね」


 口から零れた声は自分が思うより傷ついた声をしていた。




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