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74.行きたい


 リリーの手紙の返信は意外にも早く来た。手紙を出してから一週間程だと思う。まさかこんなにも早く来るとは思っておらず、アンネマリーは驚いた。侍女から渡された手紙をその場で開封し、便箋に目を通す。その際にあまったるい香水の香りが脳を刺激し、リリーの顔が鮮明に思い出された。匂いが記憶を引き出すというのは本当らしい。僅かに顔を歪ませたアンネマリーはその顔のまま、目を便箋の文字を追う。彼女の強い癖を思わせる文字に目が泳ぎそうになったが、強い意志を持って文字を読んでいく。


「机に置いてあった、と」


 アンネマリーは手紙読みながら自分にしか聞こえない声で呟くと、その内容の怪しさに眉を顰めた。


 内容はこうだ。

 ある日、教室の自分の机に手紙と共に置いてあり、自分に想いを寄せる人物からのプレゼントだとリリーは思ったらしい。黒い石は自分のイメージカラーでは無く、プレゼントのセンスとして悪いが高価そうだったので有難くつけていたと。手紙の内容はあまり覚えていないが『夢を叶える』というような事が書いてあったような気がすると書いてあった。


「悪徳商法に騙されそうなチョロさだわ……」


 手紙を片手に唖然とした。まさか自分で買った等ではなく、机に置いてあったものをそのまま付けていたとはアンネマリーは思わなかった。普通は不審に思わないのだろうか?と思ったが、今更そんな事を考えても仕方が無い。そういう人種もいるのだと無理やり納得させた。


 だがこの手紙で一つアンネマリーは分かった事がある。

 それはあの魔獣討伐演習での事件を何者かが意図して引き起こした可能性があるという事だ。当初からそれは感じていたが、それがほぼ確定した。リリーの机にペンダントを置いた人物がリリーをあの黒い禍々しいものの贄としたのだ。そうすると事件で命を落としたアーベルも何かしらをされていた可能性が高い。あの闇に触れたからああなったと考えていたが、それ以前の激情も今としては不審である。だが、真実を知るアーベルは既にこの世には居ない。これに関しての真実はもう闇の中だろう。


 アンネマリーは手紙を机にしまうと、自室のソファーへ腰かけた。トントンと頬を人差し指で軽く叩き考える。


「会いにいこうかな」


 考えた末に出た言葉はリリーの領地へ行く事だった。手紙の内容が全てかもしれないが、会って話をしてみたいと思ったのだ。それに手紙には感情の変化などの事の記載はほぼ無かった。ただ、アンネマリーを見ていると苛々が募っていったとは書いてあった。それが石の影響か、はたまた単にアンネマリーの事が気に食わなかったのかは判別が出来ない。まあ、何となく後者のような気もするが。

 そういう事も含めて話してみたい。ひとつずつ確実にまとめていきたいのだ。きっとこれはそう簡単には解けない事に違いないから。


 アンネマリーは再びリリーへ手紙を書き、訪問したい旨を書いた。そしてリリーの体調を最優先するので無理な場合は断っても良いとも。そして書き終えた手紙に封蝋を押す。きっと手紙は最短で明後日には届くだろう。

 机に座ったまま両手を上げ、背中を伸ばしたアンネマリーはそのまま体を横に倒す。筋が伸び、その気持ちよさに声が漏れた。


(明日、殿下に話してみようかな)


 すっきりした頭でそう考えたアンネマリーはついでに呪いの事も伝えてみようと、視線を窓へ向ける。先程から何か音がすると思ったら小雨が降っていたらしい。陽が沈みかけた空に落ちる雫、アンネマリーは暫くその雨を意味もなく見つめ続けた。





 翌日、研究の主な拠点となった特別室にてアンネマリーは持論とリリーの手紙の事をカーティスに伝えた。アンネマリーの熱量とは違い、カーティスは自分の魔導具を手入れしつつ話を聞いている。その様子は全く興味が無い様に見受けられた。何故なら相槌もまばらでアンネマリーの事を見もしない。たまに聞こえてくる相槌も『ん~』や『ふ~ん』など気のない言葉のみ。


 熱量を持って話をしていたアンネマリーだったが、ほぼ話を聞いてなさそうなカーティスの様子を見て段々とトーンダウンしてくる。必死に話している自分が馬鹿みたいに思え、尻すぼみ気味に言葉を止めた。すると突然黙ったアンネマリーに何かを思ったのかカーティスは魔導具から視線を上げた。


「なんだぁ?もうやめか?」


 ほぼ聞いていなかった癖に何を言うのか。口をへの字にし、顔だけで非難すると愉快そうに目を歪められた。


「ちゃんと聞いてたぜ?呪いだろ?まあそんな事もあんじゃねえか?」

「軽いですね、殿下もあの場にいらっしゃったでしょう?」

「居たが、居ただけだぜ。何だと思っている間に誰かさんがどうにかしちまってた」

「そんな短時間じゃなかったと思いますけど」


 非難の目を向けたまま、会話をしているとカーティスは『でも、そうか』と何かを考えるように黙り込む。その珍しい光景に思わずアンネマリーは黙り、様子を窺っているとカーティスは自身の後れ毛を弄りながら口端を二ッと上げた。


「あれに話を聞きにいくのか。おもしれーだろうな」

「私は面白さを感じませんけど。それに会えるかはあちらの体調次第です。後遺症もありますし」


 全く何が面白いのか不明だが、彼にとってはそうなのだろう。アンネマリーとは全く感性が合わない。ふんふんと鼻歌を歌い出しそうな雰囲気を醸し出し始めたカーティスは唐突にアンネマリーに尋ねた。


「俺も行っていい?」


 一瞬、アンネマリーは何を言っているのか理解出来なかった。だが、何度か言葉を反芻し、頭に理解させるとこれでもかという程、眉間を寄せた。


「殿下も行きたいのですか?」

「行きてえ」


 即答され、理解に苦しむ。興味無さげに聞いていた癖に何が気になる事があるのか。リリー単体に興味があるのなら別で行って欲しい。だが、それをはっきり王族に伝えるだけの度胸をアンネマリーは持ち合わせていなかった。


 思案の為に暫し黙っているとうざったい視線がアンネマリーへ継続的に注がれる。穴が開くほどに見られているが、それを一切無視し、瞳を閉じた。


(いや、これは断れないわ……)


 溜息を飲み込み。直ぐにアンネマリー瞼を上げる。


「是非、是非行きましょう、殿下」


 張り付けた笑顔が引き攣る前に咳き込む真似をして口元を隠す。その手の中で小さく暴言を吐いた。カーティスの耳には全く聞こえなかったのか、上機嫌に『よし!』と言っている。


 何がよし、だと内心舌打ちをしながらその愉快な顔をアンネマリーは見続けた。


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