5.星環証
校舎を3階まで上がり、角を曲がればどうやら目当ての教室が見えてきたらしい。
「あの一番端の教室がSクラス。君の教室さ」
「Sクラス」
「一番優秀なクラスって事だよ。試験で970点以上の生徒が入れるんだ。今は27人いたかな?あまり増える事はないけど、減る事はままあるんだよねぇ」
君が落ちる事はないと思うから大丈夫!と何の根拠があって言っているのかウィンクをアンネマリーに飛ばしてきた。
「ははは……」
もはや乾いた笑いしか出ない。ここ迄の道、こういう事ばかりされる。早く解放されたいとアンネマリーは気持ち早歩きで教室まで進もうとした。だが、それはコリンの突然の大声で阻まれる。
「あ!そうだった!」
出鼻を挫かれ、何事かとコリンを見ればとポケットの中から指輪を取り出した。
「これこれ、渡しそびれたら大変だった!星環証!学生証のようなもので、学園内に居たらどこにいても場所が把握出来るんだ!必ず学園内では付けていてね。ほら、貴族って誘拐される率高いからさ。身の安全を守ると思って」
ぎゅっと手渡され、それをまじまじと見る。シルバーのリングに蔦のような繊細な爪があり、中には透明の石が嵌め込まれていた。石の底には校章の星が刻まれている。
―――星環証
聞いた事はあった。それに姉と兄がしているのを見た事がある。だが、あれは透明では無く姉は黄色、兄は水色であった筈だ。
記憶と齟齬があるだけなのかも知れない。アンネマリーは深く考えず、コリンに尋ねた。
「嵌めるのは何処の指でも良いのでしょうか」
「何処でも良いよ。但し、最初にはめた指にサイズが調整されちゃうから気を付けてね」
そう言われ、左手の人差し指に嵌めると少し大きめだったリングが一瞬にしてぴったりとなった。あまり指輪をつける習慣がないので少し違和感がある。
「ちょっと見せてね」
コリンはアンネマリーの手を取り、星環証を見た。突然の接触に背中がざわりとしたが、そんな事お構いなしの男は『見てみて』とアンネマリーの視線を星環証へ移させた。
「ほら見て、綺麗な赤だね。君の瞳と同じだ。でも純粋な赤でもなく、中からキラキラ輝くようなものも見えるね。あぁ、これは君の髪と同じかな?」
見れば確かに先程は透明だった石が赤く輝きを放っていた。
(そういえば)
姉から聞いた事があったような気がするとアンネマリーは記憶をひっくり返す。
「あ、魔力に反応して色が変わるのでしたっけ?」
そうだ、だから一つとして同じ石はないと姉が楽しそうに言っていた。アンネマリーは手を様々な角度に動かす。キラキラと輝く様はヘルマン家の髪の様だった。
「いやぁ、本当に綺麗だなぁ。卒業する時は私にくれない?コレクションにするよ!」
コリンは星環証を見たまま、うっとりとそう言うとアンネマリーの手に口付けた。わざとらしいリップ音を響かせ、ニヤついた目でアンネマリーの赤い瞳を見つめている。
どの過ぎた行為にアンネマリーは流石に顔を歪ませ、掴まれていた手を振り解くと持っていたハンカチで唇の触れた箇所を拭いた。
何のつもりか解らないが、途轍もない不快感、嫌悪感を感じる行為だ。
先程までは教師でもあるコリンに対して最低限礼儀を持って接しようとしていた。だが、彼は教師であるのに生徒であるアンネマリーに無礼を働いたのだ。
「この学園では教師は婚約者でもない未婚の令嬢の手に口付けをするのですか」
冷ややかにコリンを見る。コリンの顔はニヤついたままだ。
「いや、普通はしないだろうね」
「貴方は普通ではないと言う事?」
「君を敬愛しているんだよ」
ハッと乾いた笑いが心の底から出た。何を馬鹿な事を。
「……無駄な話でしたね。案内ありがとうございました。ここ迄で大丈夫です」
アンネマリーは言うが早いかコリンに背を向け、歩き出す。その目は心なしか座っていた。
(アナスタシアの時もこんな事があった気がする。これは愛なんかじゃない。利用しようとしている人の目だ)
背後から反省のかけらもない『これからよろしくね!』という男の声が聞こえる。舌打ちを我慢し、その声に聞こえないフリをした。
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