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36.怒り


 さて、この状況は何だろう。嵌められたのは分かったが、これをやる意味は?ただの嫉妬からだとしたら頭おかしい。確かにリリーはいつもと違う様な気はしていたが、こんな事を企んでいたとは思ってもいなかった。


 先程までは動揺をしていたが、目の前で行われる茶番を見ていたら段々とアンネマリーは落ち着いてきた。こんな子供の様なやり方でどうにか出来ると思ったのだろうか。アンネマリーに攻撃されたとリリーは言っていたが、リリーの体には魔術で攻撃された痕跡などない。アンネマリーは主に炎を使う。それが当たったのなら火傷や服に焦げが出来る筈なのだ。それが一切なく、泥しか付いていないのに何が『攻撃された』だ。それを主張するならちゃんとそれっぽくやって欲しい。


 それに分かる人には魔力の残渣が分かる。アーベルもきっと分かるだろうに知らないフリをするのは、二人がグルだという証拠に他ならない。一体教師と生徒でどの様な接点があってこういう事を起こそうとするのか。悪意しかない四つの瞳を前方に眺めながら、アンネマリーは腕を組んだ。


「大丈夫か?バルト子爵令嬢」

「ぐすん、とっても怖かったですぅ」


(ぐすん…て自分で言うものなのね)


 目の前の茶番を冷静に見て、どうでも良い事をひっそりとツッコむ。その間も二人はアンネマリーを悪者にしようと意地の悪い物言いを続けていた。リリーはわざとらしく震え、アンネマリーを怯える目で見ている。アーベルはネチネチと校則の事を言っていた。退学がどうのと言っているので、相当アンネマリーの事が嫌いな様だ。


 アンネマリーはアーベルに冤罪だと訴える事は出来たが、最初から悪感情を持たれている人にそれを訴えるのは時間の無駄だと感じたので早々に諦めた。それに絶対グルだ。言ってもしょうがない。


「聞いているのか!」


 アーベルはアンネマリーが全く狼狽えていない姿に苛立ちを覚えたのか、突然声を荒げた。先程まで不敵に笑っていたのに、老齢にしては感情が豊かだ。アンネマリーは自身の顎をふむ、と触り、口端を上げた。


「聞いていますよ、先生。面白い劇だなあと見ておりました。終わったんですか?劇は」


 クスリと笑い、目を細める。思いの外冷たい低い声が出て、アンネマリーは自分が思った以上に腹にきている事に気付いた。冷静に見ていると思っていたが、怒りを溜め込んでいただけの様だ。


 正面から分かりやすく馬鹿にされた二人は顔を真っ赤に上気させ、アーベルは鼻息荒く自身の体に魔力を纏わせた。感情が制御出来ない程、怒っているらしい。アーベルの体を包む様に魔力が渦巻き、空気を歪ませている。魔力に疎いリリーも流石に何かを感じたのかアーベルを赤い顔のまま見ると、数歩離れてまたアンネマリーを睨みつけた。


「なんでそんな事言うんですかぁ!」

「何故そう思わないと思ったんです?私はそんなに間抜けでは無いですよ。貴方がどう思ってたかは知りませんが。子供みたいな事をして、もう少し年相応に頭を使って生きてみたらどうですか?あと何故私が貴方に嫉妬を?貴方はどう見てもあの二人に好かれていないのに?おかしな話」

「お前は人に魔術を当てたと言うのに何だ!その口の聞き方は!!」

「貴方は教師に向いてないのでは?物事を俯瞰で見る事をしない。平等に接さなければならない生徒に対してそれもしない、公平性もない。おまけに魔力の残渣も分からない等、魔術の教師にも向いていないようですね」


 あ、お年だから耄碌してるんですかね?、とニッコリ笑った。アンネマリーは自分でも知らなかったが、怒るとペラペラ口を滑らせてしまう様だ。思っている事がすらすらとつっかえなく出てくる。


「本当、どうしようもない人達」


 スーッと軽蔑の目で二人を見ればワナワナと震えていた。目を吊り上げ、下唇を噛んでいる。


「アンタ!!!」

「あら、猫が取れてますよ」

「アンタは嫉妬して私を殺そうとしたのよ!!」

「だからおかしいですよね?何故嫉妬を?私がそれをする意味は?」

「王子達の愛が欲しいからやったんでしょ!?」

「それが欲しいのは貴方では?私は王子達の愛など欲しくは無いですけど」

「私はもう愛されているわ!!!」

「あらあら、それは良かったんじゃないですか」


 鼻で笑いながらそう言えば、リリーの顔が更に歪んだ。可愛い顔なのに、性格が悪いとこうも醜くなるのか、アンネマリーは一瞬で哀れに思った。性格も悪く、思い込みも激しい。これからの彼女の人生は生き辛かろう。

 ふるふると震えるアーベルに視線を合わせれば、魔力が更に漏れ、今にも爆発しそうになっている。ある程度離れているのにも関わらず、アンネマリーの肌もチリチリとアーベルの魔力を感じていた。しかも本人はそれに気付いてもなさそうだ。気付いていたら直ぐにでも感情を落ち着かせるだろう?


 教師が感情で暴発など、醜聞以外何ものでもない筈なのに本当に愚かだ。


「先生、少し落ち着いては?魔力が漏れてますよ」


 アンネマリーの指摘にアーベルはピクリと眉を動かし、口を歪めた。ぶわっと魔力が空気を重くさせる。


「…ル……ン…が」


 アーベルの魔力が漏れると共に、何かを口にした。だが言葉は掠れ掠れで聞き取れはしなかった。アンネマリーは聞き取れなかった言葉に眉根を寄せて、首を傾げる。その態度にアーベルは目を見開き、目を吊り上げた。


「盗人のヘルマン家の癖に!!お前が魔術を語るな!!!」


 その瞬間、アーベルの魔力が大きく膨らみ、爆発をした。アーベルを中心に木々を薙ぎ倒す程の風圧が四方八方に暴れ回る。暴発の音と木々が倒れる轟音が響き渡った。バキバキと大木が小枝の様に折れ、青々とした葉が撒き散る。チリチリとした魔力が可視出来る程舞い、威嚇する様に風と共に周囲を覆い尽くしていた。




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