31.今後の対策
リリーの襲撃を逃れ、食堂でサラと合流を果たしたアンネマリー達はぐったりと特別サロンにある椅子に座り込み、今後の事を考えた。今回の事を見ると、これで諦める様な人物では無さそうだ。きっとこれからもSクラスに来るに違いない。今日はランチという事だったが、放課後に襲来される事も想定しなければならない。
カーティスの過激派なんて睨み付けるだけで可愛いもの。リリーの方が余程恐ろしい。
違う階数のクラスであるのに授業が終わって直ぐ来る根性も凄い。その執念だと恐らく捕まらない様に素早く教室を出ても廊下でバッタリ会う確率も高いだろう。
これは大人しく四人で食べた方が良いのか、とアンネマリーは最悪の事態を考え、肩を落とした。
(それと)
アンネマリーは考えに耽るエドウィンを見る。
先程の彼の行動だ。確かに自分に婚約を申し込んでいる人物に軽率な行動はしたと思う。だが、結界を解いたのを良い事に大胆に行動しすぎではないだろうか。後ろから抱き締める等、本当に……
(心臓が止まるかと思った)
アンネマリーは包まれていた時の体温を思い出し、一人赤面する。あんな事は初めてだった。家族の体温は知っている。だが、あれは家族にされる時とは全く違うものだった。いや、されている事は同じだ。でも何処か違うのだ。香りも体温も、体の硬さも、見知らぬもの。
(でも何故かしっくりきた)
その事実にアンネマリーはバレない様に顔を歪めた。
それがどういう事なのかは分からない。だが、確実にエドウィンに絆されている事だけは分かった。
「転移は使えるか」
色々な事を考えてしまい、食欲が無くシャーベットだけを口に運んでいるとエドウィンが二人に質問してきた。
転移魔術はアンネマリーのお得意だ。学園から家に帰る時も転移魔術を使って帰っている。行きは何故か母であるエリゼが乗って行きなさいと言う為、馬車を使っている。ヘルマン侯爵家の馬車が学園につけたと言う事が大事らしい。正直理由はよくわからない。
「使えますよ」
「私は使えないわ」
サラは眉を下げ、申し訳なさそうに言った。そもそも転移魔術は魔力量が多くないと失敗する事が多い魔術だ。しかも失敗をすると下手すると命を落とし掛けない。別の空間に取り残されたり、体がバラバラになったりする。なので実は気軽に出来る事では無く、リスクをちゃんと分かった上でそれでも覚悟がある人がやるのだ。
(エドウィンも魔力多いのね)
魔術の授業で、何でも卒無くこなしているので技術力が高いとは思っていたが、魔力量も多いらしい。
「でも学園内では転移魔術は防犯対策で使えませんよね?」
そう、学園内では転移魔術は使用できない。理由はサラの言う通り防犯上の理由だ。この学園は主に貴族が通う学園、王族も突然通っている。それなのに転移魔術で何処でも入り放題になったら大変な事になる。もし、王族が一人で居る空間に突然敵が転移してきたら? そして殺されてしまったら? 大変どころの話では無くなる。だから学園内では転移魔術を含め、幾つかの魔術が使用出来ない処理をされていたりする。
「そうだな、だが理事長に俺とアンネマリーだけ部分的に使用出来ないか頼んでみる」
真面目な顔で言うエドウィンにアンネマリーは驚いた。そんな事出来るのだろうか。たかだかリリーの事で大事にし過ぎな気もする。
「そこまでします?」
「俺はそこまでしたい。あれは結構なストレスだ。それに今は危害を加えなくても、ああいうタイプは妄想で突っ走って何かしらの攻撃を与えてくる奴が多い。早めに自衛、対処した方が良いだろう」
そう言われたら納得してしまい、何も言えない。やはりエドウィンも皇族なのだ。いつも何も無さそうにしているが、今まで色々な人に危害を加えられそうになったに違いない。アンネマリーは過去のエドウィンを思い、憂ってしまった。
結果的に言えば、エドウィンの提案は理事長に承認され、アンネマリーとエドウィンは何故か食堂の特別サロンにだけ転移出来る様に配慮された。昼休憩だけはリリーから逃げる事が出来るらしい。転移魔術が使えないサラはリリーが女子生徒をあまり認知していなさそうな事から普通に歩いて食堂へ。心配をしてしまうが、教室へ来た時も確かにリリーはサラを全く気にしていなかったので大丈夫だと思いたい。
「アンネマリー」
横を歩くエドウィンが心配そうに声を掛けてくる。眉を下げ、口元も心なしか下がっている。
「本当に大丈夫か」
今日は教室に襲撃を受けてから初の魔術の授業だ。アンネマリーは憂鬱な気持ちで授業場所である校庭に向かっている。心配そうなのはエドウィンだけでなく、サラも同じだ。そわそわとアンネマリーの様子を過剰な程、見てくる。
「今からでも先生に言ってペアを交換した方が良いわ。私だったら何もされないと思うし」
「私達と行動している事は多分知られているし、同じ事になると思う」
「では俺と交換するか?本当は男だから嫌だが」
「カドリック帝国の皇子に何かあったら大変だからお気持ちだけ貰っておきます」
「だが……」
心配して貰えるのはありがたい。だがアンネマリーにとって二人に何かある方が問題だ。精神的な苦痛はしょうがないとして、物理でこられた場合、アンネマリーならば簡単に対処出来るだろうがサラであったら難しい事もあるだろう。エドウィンは場数を踏んでいそうなのでアンネマリー同様問題は無いだろうが、いかんせん彼は皇子。下手に何かあれば周りの首が飛ぶ。何も無いのが一番だ。
授業場所に着くとアンネマリーはまず、教師の目の前のスペースを陣取った。今回はサラもエドウィンも見える範囲に居てくれている。暫くするとリリーがやってきた。
「あっちの方へ行かない?」
教師の近くだからか控え目に言うリリーにアンネマリーはニッコリと微笑む。
「この間、全然出来なかったから先生の近くでやりましょ。遅れを挽回しないと」
そう言ったアンネマリーにリリーは顔を歪ませ、小さく何かを言った。それは小さすぎてアンネマリーには聞こえなかった。




