21.エドウィンは思う
「か、考えてみます」
そう言った彼女は赤くなったり、青くなったり、悔しそうな顔をしたり様々な表情を見せてくれた。そんな百面相が面白くて、触れたくなった。触れたらどんな表情を見せてくれるのだろう。それが知りたくて堪らず手を伸ばす。だがそれは彼女の結界に阻まれ、手に鋭い痛みが走っただけだった。
(ああ、これは厄介だな)
触れたいのに触れられないもどかしさと、結界の厄介さに思わず苦笑した。
だが段々と、気になる女一人も触れない状況が面白くなり声を出して笑った。どうしてこんなにも、どの出来事も楽しく思えてしまうのだろう。
エドウィンはアンネマリーと話していると自身が今まで感じた事の無い柔らかい感情を感じる事が出来た。これが何なのかは理解し始めている。それを素直に受け入れる心算も出来ているつもりだ。
アンネマリーは話が終わると来た時と同じように急いで温室から出ていった。先程まであんなに騒がしかった空間があっという間に静かになり、その中でカランカランと鳴る無機質な音が虚しさを冗長させる。
エドウィンは温室のガラス越しにアンネマリーの背中を見た。
妖精が先祖というヘルマン家特有の髪が外の陽射しを受けて、オパールの様に輝いている。その髪の綺麗さは人がおおよそ持ち得ぬ美しさだろう。
腰程もあるウェーブ掛かった髪が歩きに合わせてふわりと揺れる。それを見るだけで心が踊った。
エドウィンがアンネマリーを初めて見たのは、アンネマリーの登校初日のあの温室だ。
人が入ってきた時、狸寝入りをするエドウィンはいつもと同じ様に狸寝入りを決め込んだ。テーブルもソファーもない温室だ、興味を無くして直ぐに出ていくだろう、そう思っていたのだがその来訪者は一向に出て行かなかった。段々焦れてきたエドウィンはどんな奴が来ているのか見てやると薄目を開ける。
温室に居たのは恐ろしく美しい容貌をした女だった。
髪色は薄い金髪なのだが、その髪がガラス越しの光に当たるとオパールの様にキラキラと輝いているのだ。あまりの美しさに呼吸さえも忘れた。
彼女が伏し目がちに花に手を触れる。それだけで胸の鼓動が跳ねた。
楽しそうに周りをゆっくりと見渡しながら、一つ一つ植栽されている植物を見ている姿に心奪われた。
近くになるにつれ、エドウィンはある事を思い出した。
たまに見る夢の事だ。それは何の変哲もない、ただ花を女性にあげる夢。夢の中では幸せなのに、目覚めると無性に悲しくなる、そんな夢だ。
彼女がその夢の女性に似ている事にエドウィンは気付いた。
白っぽい髪に、赤い瞳、顔立ちは流石に違うが纏う雰囲気が似ている。
だからだろうか。一瞬にして心の中を占拠されてしまった。
エドウィンはその日の内にその女生徒がアンネマリー・ヘルマンだと突き止め、国に婚約の申込みを依頼した。他国という事もあり、タイムラグがあるのは承知していていたが、まさかヘルマン家へ一週間以上掛かって釣書が届いたのは予想外だった。
そしてまさかの初日にカーティスが食堂で求婚をしたと聞いて肝が冷えた。自分よりも早く求婚をする奴がいようとは。だがあの容貌であれば仕方ない。それにアンネマリーが事もなげに一蹴したとも聞き、安堵した。
初めて話した時も、そして今日も関わる度にエドウィンの胸に締めるアンネマリーの割合が増えていく。見た目に反して表情が豊かなところや、少しずれているところが堪らない。
そういえば初めて話した時、どうしてアンネマリーは幻惑魔術をかけていたのだろう。今となってはどうでも良い事だが、機会があれば聞いてみよう。
エドウィンは先程の防御結界の事を思い出し、弾かれた指を見る。あの結界が無ければ、頬に触れる事が出来たかもしれない。あの白い頬はどんなに柔らかい事をだろうか。触れたら彼女はどんな表情をするだろう。だが、そう考えたところでエドウィンはふと考えを止めた。
アンネマリーの性格上、婚約もしていないのに触れたら余計警戒されてしまうかもしれない。そう考えたら触れなくて良かったとも言える。だが、しかし……
「あれは邪魔だな」
後々の事を考えると、相当邪魔な防御結界だ。他の男が触れないのは良いのだが、自分も触れないとなると話は別だ。エドウィンはどうにか自分だけはすり抜けられる方法はないかと思案し、知り合いの魔導具屋に話を持っていく事に決めた。
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