20.丸め込まれてはいけない
どうやって前世を思い出したか確認すれば良いのだろうか。アンネマリーの場合は一瞬で大量の情報が頭に襲ってきた。それにより頭が耐えきれなくなったのでその場に蹲っていたが、エドウィンにその様な兆候は見られない。
アンネマリーから三歩程離れた場所で腕を組んでいるエドウィンを見る。やはりおかしなところは見当たらない。
「私を見て何か思い出したり…します?」
一か八か、直球で聞いてみる。だが、不思議そうに首を傾げられただけだった。
「いや、思い出す?何を?これより以前に会った事あったか?」
これは思い出していないのかも知れない。ならば藪蛇にならない様、変に刺激しない方が得策だろう。
アンネマリーは幼児向けのカラクリ人形の様に平坦に笑い、両手を振った。
「ないです、気にしないで下さい」
「?そうか」
「そうです!」
それ以上追求をするなとばかりに声を張り上げる。その不審な行動にエドウィンは思うところはありそうだが、もう一度『そうか』とだけ言い、話題を変えてきた。
「それはそうと断りたいのか」
本題である。一瞬、アンネマリーは忘れていたが、今日温室に来たのは『婚約』の件だ。前世云々で慌てていたが、こちらの問題も解決しなければならない。
「はっきり言うとそうですね」
もう誤魔化してもしょうがない。淡々と答えるとエドウィンは困り顔で頬を掻いた。
「どうしたら受けてくれる?」
しゅん、とした態度で言われ、思わず声が詰まる。雨の中の犬を彷彿させる雰囲気に胸がギュンギュンと異音を発する。今まで知らなかったがアンネマリーはこういう顔に弱いらしい。知らなかった自分の一面に『今では無いだろう!』と喝を入れ、数度口をパクパクさせてからそっと声を出す。
「そもそも何故私なのでしょう」
そう、何故自分なのか。それが最初からアンネマリーは腑に落ちなかった。
接点ほぼ無し状態だった為、あみだくじで決めたのかと怪しむ程に。
エドウィンはふむ、と顎に手を当てた。
「温室によく来てただろう」
「はい。でも寝ていましたよね?」
いつも同じ場所で気持ちよさそうに寝ていたのをアンネマリーは知っている。驚いたのは最初の方だけで、後は背景として扱っていた。
「起きてた」
「え!」
「起きて薄目で見ていた」
にこりと言われ、驚きと共にひとつの言葉がアンネマリーの頭を駆け巡った。
―――やっぱりストーカーなんじゃ……
起きていたなら素直に起きていれば良いものを、狸寝入りで入室者を観察するなんて、良い趣味とは言えない。
声帯が『ス…』と発音させようとする。だがそれを理性で止める。
若干アンネマリーが引いたのが分かったのか、エドウィンは眉を下げ笑った。
「そりゃあ、扉のベルが鳴れば起きるだろう普通」
言われてみれば確かにあのベルの音は大きい気がする。でも問題はそこでは無く、薄目を開けて観察する事だ。アンネマリーは口を挟みそうになったが、エドウィンが続けて喋り始めたので大人しく口を噤んだ。
「それで俺を背景として扱ってるのが面白くてな、俺これでも皇子なのに」
その時の事を思い出しているのか、小さく笑いながら言う姿は確かな感情がありそうに見えた。斜め前の空に視線をやりながらぽつりぽつりと溢す姿に、アンネマリーは目を奪われる。
(あ、見た目が凄くタイプなんだ)
そんな事を唐突に理解し、自身が赤面していくのがわかった。
「だから君を知りたいと思った」
エドウィンが視線をアンネマリーに戻し、一歩近付く。ふわりと空調の風が二人の髪を揺らす。エドウィンの黒い髪は光が当たると青っぽく見える。細められた瞳には感じたことのない感情が見える気がした。
「どうだろう?これでは理由として弱いか?」
こてんと首を傾げられ、アンネマリーは心の中で『ああ!』と叫ぶ。今日判明した。その顔と仕草にアンネマリーは弱い。
エドウィンの背後に犬が見える気がして、アンネマリーは歯を食いしばった。
「か、考えてみます」
婚約は断りたい。だが、好みの外見だとそれが思う様に出来ない事が今回わかった。免疫が出来ればどうにか出来そうだが。
エドウィンはアンネマリーの答えにふんわりと笑い、また一歩近付いた。
「ありがとう」
そう言うとアンネマリーへ手を伸ばす。その瞬間、防御結界がパチンと鳴り響く。
それにエドウィンは目を丸くした後苦笑して、その後声を出して楽しそうに笑った。
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