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「すまない、ルディアナ嬢。私は君と結婚することはできない」


右手で心臓付近の服をぎゅうっと握り締め、左手は前髪をくしゃりとかき乱し、目を瞑りながら"いかにも苦悩してます"感を出している王太子。


「真実の愛を見つけてしまったんだ!私はサルビア・ランスロット嬢と婚約することをここに宣言する!」


公衆の面前で、自分に酔いながらおねえさまに婚約解消を告げる王太子。

その隣で私は胸の前で両手をぎゅっと握りしめるポーズをとりながら、困りながらも嬉しい、というような表情を心がけた。

心の中では王太子を蔑んでいるのだがそれはもちろん表には出さない。


(愚かすぎて気持ちが悪いわね。でもまぁ、順調に進んで何よりだわ。このままこの男の馬鹿さを露呈させ、私が媚びて奪ったように見せればおねえさまの評判は落ちないもの)


「ごめんなさい、ルディアナ様…、私、わたし…」

(本当はこんな男好きじゃないんですぅぅ!)


心の中で叫びながら、王太子が好きそうなか弱い女を演じる。

そんな私の言葉を遮るようにしておねえさまが口を開いた。


「そうですか。婚約の解消を受け入れましょう」


淡々と言い放たれた言葉に、私は心が痛むのを感じた。


(おねえさまが傷ついてしまったらどうしよう…)


それでもこの男との結婚でおねえさまが幸せになれるとは微塵も思えなかった。


(ああ、おねえさま、本当にごめんなさい…)


おねえさまに対しては心の底から謝罪したい気持ちでいっぱいだ。

俯きがちだった顔を少しだけ上げて、おねえさまを盗み見る。

おねえさまは普段通り、凛々しく、美しく、冷静だった。


それにしても、少しの動揺も見せず言い放つおねえさまはやっぱりかっこいい。

こんな時なのに思わずふにゃりと顔がだらしなく緩みそうになって、慌てて引き締める。


「ああ、サルビア!ようやく私たちは一緒になれる!」

「…はい!殿下」

「殿下、などと寂しい呼び方をしないでくれ、私のことはどうかリヒト、と」


満面の笑みを浮かべて伸ばされた手に不快感を覚えるも、にこりと笑顔を浮かべた。

仕方がない。ここで拒否してしまうのはよくない。

この騒動が落ち着いたら、少しずつフェードアウトしよう。


「はい、…えっと、その…リヒト様」

「ああ、サルビア!」


手が私の腰と頬に触れそうになった時、ぐいっと強い力で腕を引かれる。


驚いて視線を送ると、私の手を引いていたのはあろうことか、おねえさまだった。


「へ…?おねえ、さま?」

「ルディアナ、一体どういうつもりだ?」


おねえさまはちらりと私に視線を送り、すぐに王太子に視線を戻す。


「婚約の解消は受け入れましょう。それを了承したうえで国王陛下のお言葉をお伝えいたします。ただいまを以って、リヒトニア・ベルフォード・サウスホールドは廃嫡とし、第二王子を王太子とする。とのことだ」


おねえさまの言葉遣いががらりと変わる、


「は…?何を…なにが…」

「もちろん国王陛下直々の勅書もある」


おねえさまに命じられて人だかりの最前列にいた生徒が文書を掲げた。

文面を目で追いながら、王太子の顔色はどんどん青くなっていく。


「なぜ…私が…」


王太子は膝から崩折れた。

そしてぱっと顔を上げる。


「さ、サルビア、サルビア!君は、君だけはずっと私の隣にいてくれるだろう?さあ、早く、こっちへ…」


すがるように私に向かって伸ばされた王太子の手をおねえさまは容赦なく叩き落した。


「彼女に触れるな」


ふいにおねえさまの声質が低くなり、ぎゅうと肩を抱く腕に力が入った。


物語の佳境ともいえる展開。

そんな中で私はおねえさまがこれまでの人生で最も近くにいることに動揺してカチンコチンに固まっていることしかできなかったわけである。

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