決戦!VS魔王
異世界は初めてとなります。よろしくお願いします。
「よくぞここまでたどり着いた、勇者よ」
透き通るような美しい声が部屋の中に響き渡る。
部屋は黒曜石の壁で囲まれておりいたるところが輝きを放っている。
また部屋の奥には十数段の低い階段があり、その頂にはアダマンタイトで作られた人一人が座るには大きすぎる玉座が鎮座していた。
そしてその玉座の中央――寸分の狂いもなく中央に君臨するのは翡翠色の髪を伴った女性...。 まるで人形のような造りの顔立ちに、黒き衣装の上からでもわかる細き体型にそぐわない豊かな胸は、会う男どもを全て魅了してしまうだろう。そこだけを見るなら、の話だが。
それは確かに人の容姿をかたどってはあるが透き通るような白い肌に対して、右腕が黒く変色し、頭には2本の黒い角のようなものを携えていた。
「魔王!今こそお前を倒してこの戦争に決着をつける!」
対する勇者と呼ばれた少年は、服は破れ、顔は泥で汚れ、いたるとこに傷のようなものがあり、とてもではないが万全な状態とは言うことができなかった。
しかしその瞳は未だ希望の光は満ちており、手に持つ聖剣を魔王に向けている。
「勇者よ、まだそんなことを言っているのか...。私は何度もお前たちに言ったはずだ。私かおまえ、どちらが死んでも戦争に終わりはないと」
「黙れ!!そんなことを言って俺を惑わす気だろう!!」
勇者の純粋無垢な鋭い眼差しが魔王に刺さる。
対して魔王は顔を右手で覆い、空いたもう片方の手で自信がいる玉座に対し、コツコツと音を響かせていた。
「これだからこの年代のガキは嫌いなんだ...。自分が正しいと思い込むくせに他人に騙されやすい。何が正しく、何が間違っているのかわからない。そして何より自分を一人前だと思い込んでいる。やっぱりあの時に殺しておくべきだったんじゃ...。ブツブツ.....」
顔を覆い隠していた右手を口元まで下げ、魔王は自分にしか聞こえないような声でつぶやき始めた。
「.......」
勇者が玉座へと歩みだす。
勇者の足音はこの広大な部屋のせいか反響しているのだが、完全に自分の世界に入り込んだ魔王の耳には入らない。
一歩一歩確実に踏み出し宿敵との距離がゆっくりと詰められて行く。
「......っ」
いよいよ階段の前までたどり着き、聖剣を握る拳に力が入る。
(なんだ、これは?罠か?罠なのか?なんで俺の接近をここまで許す?だが...ここでまで近づいたならやるしかない!)
勇者は利き足である右足に力を込め、そして高く舞い上がる。
そして階段を飛び越え、魔王の頭上に聖剣を振り下ろす。
「うおおおおぉ「うるさい」
声の元に向かい、魔王の右腕が振り下ろされる。が、すでにそこには何もなく魔王が凄まじい速さで振り下ろした腕は空を斬った。
「なっ!」
気づいた時には、時すでに時間切れ。
後ろを振り返った魔王に対し玉座の裏から飛び出てきた勇者が腰に携えていた予備の剣を魔王の頭部に突き立てようとしていた。
「これで終わりだぁぁぁぁぁ!!!!」
「くぅっ!!」
「なんてな」
勇者の頭に衝撃が走る。
「ゴハッ...」
何が起きた?いくら気づいたとしてもあの剣を避けられるはずがない。一体何が。
そのような言葉が、勇者の頭の中を巡り廻る。
そして掠れ行く意識の中、勇者は見る。
魔王の頭部に深々と突き刺さった予備の剣を。
「...私を倒したいならせめて聖魔術をかけた物を使うのだったな」
そう呟きながら魔王は、自身の頭部に突き刺さった剣を引き抜く。
「今回の勇者こそはわかってくれると思っていたのだがな...」
自身の頭部を抑えながら、勇者のそばにしゃがみ込む。
床に垂れ流された血は、すでに常人であれば死ぬようなラインをとうに超えていた。
しかしながら勇者だからか、何か特別な魔術をかけていたか、そう言う体質か、勇者からは微かな鼓動と吐息が漏れる音が聞こえた。
「ふむ...」
魔王は自身が握る剣に目を移す。
特にこれといった装飾もない量産型の剣だ。
自然と口からため息が漏れる。
歴代最強と謳われた勇者がこんな終わり方か、と。
剣を逆手に持ち替える。
そして勇者の頭部を狙って、狙って、よく狙って、剣を突き刺した。