第五楽章
~願いと誓い~
パパは部屋でシスター御園からの手紙を読んでいた。
篠山優 様
最近、私共の間で色々な事が目まぐるしく動きだし、何から書いたら良いものか…と想いを巡らせております…
まずは、収穫祭での華との演奏を快諾してくださりありがとう。
そして、華をお父様とお母様にめぐり逢わせてくださり、声楽の道への道標を作ってくださりありがとう。
そして何より、華の事を大切に想ってくださりありがとう。
ご存じの通り、私と華は血の繋がった親子ではございません。
ですが、私共は華に物心が付く前から共に暮らしてまいりました。
私は華を我が子の様に愛しております。
ですので、私には判るのでございます。
あの子は歌を歌う時以外はとても内気な子でございますので、口に出すことはございませんが、
華は篠山さんをお慕いしております。
実は、私には若い時分に結婚を約束した方がおりましたが、その方は若くして亡くなってしまい、共に生きる事は叶いませんでした…
私はその方を今でも愛しております…
ですが、その方に触れる事は勿論、声を聞く事も、今はもう叶いません…
華には愛する人と共に幸せに生きて欲しいのでございます。
高校生のあなたにこのようなお願いをすることは至極常識外れでございますことは理解しております。
理解はしておりますが敢えて申し上げます…
華と…
私の大切な娘と、共に生きていただきたいのでございます…
他のどなたでもなく、あなたと、あなたのご両親でしたら、たとえ、これから先どんな事があろうとも、華を支え、守ってくださると私は感じるのでございます…
勝手な事を申し上げてますのは重々承知しております…
ですが、これが私の正直な気持ちでございます。
どうして、私がまだ高校生のあなたにこのような話をするのかと疑問を持たれる
と思います…
そこで、これからの話をさせていただきます…
私共の学園は、色々と規則の厳しい寄宿学校でございます事は既にご存じだと思います。
華もこの学園に居る以上、例外ではございません。
修道女として、男性との恋愛、交際は禁じられております。
ですが、規則は人の行動は縛ることが出来ても、人の心までは縛れません。
想う事は他の誰にも止める事は出来ないのでございます。
そして、その想いは口や態度に出さなければ、周りには露見しないのでございます。
つまり、黙っていれば二人の関係は学園側には気付かれないということなのでございます…
学園側の者でもあります私が、このような事を申し上げるのは如何なものかとは
思いますが、
これから先、華がこの学園を卒業するまでの間は、二人が互いに想い合っていても、自由に会うことも、自由に電話をする事も、普通の学生達の様にデートをする事も、その想いを表現することすら許されないのでございます。
今は、収穫祭での演奏の準備として華の外出は特別に認められておりますが、収穫祭が終わりました後には、そちらにお伺いする事も難しくなります…
篠山さんも、華も、共にまだ1年生でごさいますので、互いの想いを信じ、心の支えに、耐え忍ぶ時間があと2年と数ヶ月続く事になります…
それでも華を想い続けていただきたいのでございます…
篠山さん、あなたなら理解してくださると思い、筆を執りました…
実際には一度しかお会いしたことのない私からこのような手紙を受け取り、さぞ困惑なさっている事と思います…
ですが、どうか、華の心の支えになってあげてください…
そして、輝かしい未来を共に歩んであげてください…
こんなオババから手紙に貴重な時間を割いてくださり、ありがとう…
ひとまず、収穫祭でお会いいたしましょうね。
二人の演奏を楽しみにしております。
それでは、
ごきげんよう。
篠山さんに神の御加護がありますように…
御園恵子
読み終えたパパはすぐにでも気持ちをシスター御園に伝えたかった。
部屋から飛び出し、階段を駆け降り、電話をかけようと思ったら、おじいちゃんが使っていた…
きっとシスター御園と話しているのだと思った…
パパは一旦部屋に戻り、財布を持って、近所の雑貨店の前にある公衆電話に向かって走った…
パパは公衆電話からシスター御園宛に電報を打った…
翌朝、シスターが外を掃いていると郵便配達員がやってきた。
「おはようございます、御園恵子様に電報です。」
「御園は私でごさいます。」
「では、こちらです。ありがとうございました~」
「ハイ、ありがとう、ご苦労様。」
「電報? 誰からかしら……」
シスターは電報の封を切った。
そこには、
オカアサントヨンデモイイデスカ
オカアサン、ホ゛クハ、ナニカ゛アツテモ、ハナサントトモニアユムコトヲチカイマス
シノヤマユウヨリ
と書いてあった…
【ありがとう…】
と、シスターは天を仰ぎ十字を切って手を合わせた…
そして、朝食の時間、シスターはママにニコニコ顔で、
「おはよう、華、話があるから後で私の部屋へいらっしゃい。」
と耳打ちした。
「ハイ。シスター、今日は随分とごきげんでごさいますね。何か嬉しい事でもありましたか?」
と尋ねると、
「ありましたよ。それはそれは嬉しい事が‼️」
と言い、ニッと笑ってママにウインクした。
「なんでしょう…」
と、首を傾げるママに、シスターは人差し指で宙に点を打ちながら、
「あ・と・で・ね」
と言い、クルッと回ってスキップで食堂から出て行った。
その直後、廊下から学園長の怒号が聞こえた。
「やめなさい‼️シスター御園、スキップだなんて小さな子供じゃあるまいし、みっともないですよ‼️全く、あなたは教師という自覚が…」
学園長が全部話し終わる前に、
「ハ~~~イ園長先生~~~」
という声が聞こえ、食堂にいた生徒達はクスクスと肩を揺らした。
(もう…お母さんたら…フフフ…)
その日の自由時間、ママはシスター御園の部屋を訪ねた。
「シスター、華です。」
「どうぞ~」
「失礼します。シスター、お話って…」
シスターはパパに書いた手紙と同じ内容の話をしてから、パパから届いた電報を手渡した。
ママはパパからの電報を読むと、
目に一杯涙を溜め、真剣な面持ちでシスターに
「ありがとう、お母さん…」
と言うと、抱きつき、
「お母さん、私、どんなに辛くても耐えます、耐えて見せます、優さんと共に生きる為なら…」
と、決意を告げた…
「あなた達なら乗り越えられるわ‼️」
と、シスターもママをギュッと抱きしめた。
「お母さん、私、優さんが好きです。」
「うん…知ってるわ。これから先、言葉にしたくなったらいつでも私の部屋にいらっしゃい。何度でも聞いてあげるから…」
「うん…お母さん、ありがとう…
優さんが好きです…」
「うん…そうね。」
「優さんに会いたい…」
「フフフ…昨日会ったばかりじゃないの」
「だけど会いたい…」
「ハイハイ…」
「優さんの声が聞きたい…」
「そうね…やさしいそよ風のような声よね…」
「うん…お母さん、ありがとう、大好き。」
「うん。私も華が大好き。可愛い娘…」
「お母さん…」
「華…」
「優さんに…会いたい…」
「そうね…また日曜日に会えますよ…」
「うん…早く日曜日が来ないかな…」
「すぐに来ますよ…」
ママはシスターから離れて、キリッとした表情で両手の拳を胸の前で握り、
「よし、頑張ろう‼️ では、シスター、部屋に戻りますね。」
と言ってから、
「失礼しました‼️」
と笑顔でお辞儀をしてシスター御園の部屋を出た。
(第六楽章へつづく)