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時空(とき)を超えて   作者: 紅坂彩音
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第四楽章


~過去と未来が交差する刻~


次の日曜日、ママは午前のミサと奉仕活動の後、シスターから預かった手紙を持って篠山家に向かっていた。


駅に着くとパパが


「華さ~ん‼️」


と笑顔で手を振っている。


「こんにちは。優さん。今日は優さんとご両親にシスターからお手紙を預かって参りました。」


「エッ⁉️ ボクにもですか?」


「ハイ。こちらです。」


「うん…ありがとう…なんだろう…」


「私も内容は存じ上げません…」


「そうですか…後で読ませていただきますね。」


「ハイ。」


「今日は母さんが張り切ってフルーツタルトを焼いてるんですよ。」


「まぁ‼️ それは楽しみです‼️」


「じゃぁ、行きましょう。」


「ハイ。」


二人は街路樹沿いを談笑しながら家に向かった。


「ただいま~」


「こんにちは。」


「やぁ、華さん、いらっしゃい。」


「お邪魔いたします。今日は、お父様とお母様にシスターからお手紙を預かって参りました。こちらです。」


「ありがとう。では、二人が音合わせをしてる間に拝見するとしよう。」


「華さん、いらっしゃい。今、フルーツタルトを焼いてますから、後でみんなでいただきしょうね。甘いものはお好きかしら?」


「ハイ。大好きです‼️」


「良かったわ。じゃぁ、後でね。思う存分練習なさってね。」


「ハイ‼️ ありがとうございます。」


二人は練習を始めた。

心地よい歌とピアノが家中に響きわたり、午後のひとときをゆったりと包みこんでいた…




一通り曲を通したところで、おじいちゃんがキッチンから歩いてきた。


「お二人さん、そろそろティータイムにしよう。」


「ハイ。ありがとうございます。」


「ハイ、父さん、ところでボク達の演奏、どうですか?」


「うん、若さが溢れてて凄く良いと思うよ。我々の様に歳を重ねた者には出せない良さがある。」


「若さか…それは、青臭いとか、粗削りだという事ですか?」


「優がそこまで音楽の事で食い付いてくるなんて、珍しいね。

でも、父さん嬉しいよ。


う~ん、そうだね、そういう側面もあるね。

でもね、それは悪い事ではないと思うんだ。緻密さや深みとか円熟味っていうのは歳や経験を重ねて身に付いていくものだから、今はそれで良いと思う。二人とも凄く感が良いから、その調子で頑張って‼️

それでも、もし、二人が望むなら、細かい所のアドバイスはさせてもらうよ。」


「ハイ。お願いします、父さん。

華さんは?」


「ハイ、それは大変ありがたい事でございます。

よろしくお願いいたします。」


「うん、わかった。


ところで華さん、シスター御園さんからのお手紙なのだが、」


「ハイ。」


「私達の想いを理解してくださって感謝してるよ。今度、直接お会いしてお話をしたいと思うのだか…」


「ハイ。シスターもその様に申しております。」


「そうだね。今度、機会を作ろう。

何より、キミが関東芸大を受ける決心をしてくれて本当に良かった。

優も一緒にだから頑張って‼️」


「ハイ‼️ 頑張ります‼️

優さんが一緒でとても心強いです‼️」


「ボクも華さんと一緒で心強いよ‼️」


(キッチンからおばあちゃんの声)


「教授、用意ができましたよ~」


「ありがとう、泉君、今行くよ。」


おじいちゃんとおばあちゃんの会話にママはきょとんとしていた…


「あの…優さん、お父様とお母様はお互いの事を教授と泉君って呼びあってるのですか…?」


「そう。元々、教授と生徒だったから、そのなごりというか…変…だよね…ハハハ…」


「フフフ…確かに変わっているかもしれませんが、お父様とお母様は本当に素敵な御夫婦だと思います‼️

呼び名はお互いが判れば良いものだと思いますし…」


「うん、確かにそうだね…ハハハ…

行こう、ティータイム。」


「ハイ‼️」


ママはおじいちゃんとおばあちゃんともすっかり打ち解けて、ティータイムの談笑に花が咲いた。




それからまた夕方まで、おじいちゃんとおばあちゃんからのアドバイスを受けながら練習をして、演奏は一段と輝きを増し、時間はあっという間に過ぎていった…


「華さん、そろそろ帰らなきゃだね…」


「ハイ…」


「じゃぁ…また駅まで…」


「ハイ、ありがとうございます。」


「それでは、お邪魔いたしました…

お母様、フルーツタルト、大変美味しゅうございました‼️ 」


「お口に合って良かったわ。

今度は何を作ろうかしら…フフフ…

またね、華さん。」


「ハイ。」


「後で、私から御園さんに電話をしようと思うのだが…」


「ハイ。シスターにお伝えいたします。」


「よろしく頼むね。」


「ハイ。それでは、お父様、お母様、ごきげんよう。」


「ごきげんよう。また来週。」




その夜、おじいちゃんはシスターに電話をかけた。


「ハイ。聖ミハエル学園、寄宿舎でございます。」


「夜分に恐れ入ります、篠山と申しますが、シスター御園様はいらっしゃいますか?」


「ハイ、篠山先生、御園でございます。」


「あぁ‼️ 御園さんでしたか、うちの息子が大変お世話になっております。」


「いえいえ、何をおっしゃいます‼️

こちらこそ、うちの華に、それはそれは御厚情を賜りまして、いくらお礼を申し上げても足りないくらいでございます…」


「いえ、そんな、華さんの歌を聴かせていただいて逸材だと思いましたし、

幼い頃の話を伺いましてね、力にならせていただきたくなりました。

ひとの世話を焼くのが好きな性分でして…」


「左様でございますか…本当に…本当にありがとうございます。


思えば、合唱コンクールで、ひょんな事で華と御子息がめぐり逢って、まさかこんな御縁になるとは…


私は神のお導きだと思っております。」


「そうですね。私もそう思いますよ。」


「それで、いただいたお手紙の事ですが、華さんがそちらの学園を卒業された後、うちに来ていただくのは、私共は大歓迎ですよ。部屋もたくさん空いてますので、どうかお気兼ねなさらず…


華さんは本当に良い子ですし…それに…


こんな事を申し上げて、母親代りをされている御園さんがお気を悪くされなければ良いのですが、うちの息子と華さんは将来一緒になるような気がしています…

そう感じるのです…」


「運命の人…でございますか?」


「そうです‼️ 実際のところ、それは神のみぞ知る事なのでしょうが…

実は…

優と華さんが出逢う前の晩に不思議な夢を見ましてね…」


「不思議な夢でございますか…?」


「ハイ、夢の中で私が書斎で書き物をしていたら、それはそれは可愛らしい女の子が、いつの間にか部屋に居て、私に歩み寄ってきて、膝の上にちょこんと座ってこう言ったんです…」


【ねぇねぇ、おじいちゃん、パパはね、あした、ママとであうからね。だからね、ふたりにちからをかしてあげてね。おねがい…】


「と…そこで、ハッと目が覚めまして、横を見たら妻も私と同じようにベッドの上で体を起こして呆然としてましたので、その夢の話をしたらですね、何と‼️ 妻も同じ夢を見たって言うんです。驚きましたよ‼️」


「それは確かに不思議でございますね‼️」


「ハイ。翌朝はコンクール当日だったので集中力を欠いてはならないと、優にはその話はしなかったのですが、コンクールから帰ってきたら、全国大会進出の事より先に、聖ミハエル学園に凄いソプラノの子が居て、今度その子と一緒に演奏する事になったって大興奮だったんですよ。」


「ハイ、私が御子息にお願いいたしました。

今思えば初対面の方に不躾なお願いをしたものだと…


ですが、あの時は二人が素晴らしい演奏をしている様子が脳裏に浮かびましてね、何かに突き動かされる様に、気が付けばお願いをしておりました…」


「そうでしたか~

私共が同じ夢を見た事、二人が出逢ったこと、御園さんが不意に二人の出逢いを次の機会に繋げた事…

何か不思議な力が働いたのかもしれませんね…」


「ハイ、華は歌う時以外は内気な子ですので、きっと自分からは御子息に声を掛けられなかったと思います。


コンクールが終わってから、私に何度も、世田東校のピアニスト凄かったですよね‼️ 感動しました‼️ と言って大興奮で…


そうしましたら、帰りにロビーで御子息から華に声を掛けてくださって…」


「そうだったんですね~、

しかし、うちの優もピアノを弾く時以外は静かな子ですし、とてもシャイなので、自分から異性に声を掛ける様な事はまずないと思います…


よほど華さんの事が気になったのか…


それとも、何か不思議な力に突き動かされたのか…


それとも…その両方か…


いずれにせよ、二人はいずれ結ばれる運命にあるのではと私は感じるのです…」


「ハイ。私もそんな気がしております…


華も恋をする年頃になったのでございますね…あぁ…」


シスター御園は電話越しにでも判るような大きなため息をついた…


「どうかなさいましたか…?」


「いえ……」


「何なりとおっしゃってください。」


「ハイ…それでは…

恥ずかしながら、子離れ出来ない母親からお願いが、二つございます…


ひとつは…


私がこの世に居る間は、華の母親で居させて欲しいのです…」


「何をおっしゃいます‼️

それは勿論ですよ。御園さんは華さんが物心つく前から共に暮らし、育ててきた訳ですから、学園を卒業後、華さんがうちで暮らす事になっても、将来、二人が一緒になろうとも、御園さんと華さんの関係に何ら変わりはありませんよ。


どうかご心配なく…


我が子の様に愛しているんですね?」


「ハイ…華とはシスターになる以前から共に生きておりますので…」


「エッ⁉️ そうなんですか? 」


「ハイ……

これからお話することは御内聞に願いたいのですが…」


「ハイ…わかりました。」


「実は、私はこちらでシスターになる前は保育士をしておりました。それも、通常の保育士ではなく、ある企業に雇われている専属のベビーシッターでございました。

当時、私の両親は多額の負債を抱えておりましたので、通常の保育士の5倍のお給料をいただけるというお話をいただき、迷うことなくそのお仕事に就かせていただきました…

ですが…」


「5倍の報酬なりのリスクがあったのですね…?」


「ハイ、左様でございます…

私はその企業の中東の支社に配属されました…

当時も情勢が不安定で常に危険と隣り合わせでございました…


あちらに渡り数ヵ月経ちました頃、私はある男性と恋に落ち、三年間の交際を経て結婚の約束をいたしました…


彼はその企業に雇われた傭兵で我々の身辺警護に当たっておりました…


とても責任感が強く、心身共に逞しく、それでいて、そこはかとなく誰にでも優しい人でございました…


ですが…


あの日は…忘れもしない…


私の勤め先の企業が入っているオフィスビルが空爆を受けて倒壊したのでございます…


私は離れた場所にある、その企業の寮でベビーシッターとして働いておりましたので空爆は逃れましたが、社に居るはずの彼の安否が気がかりで、いてもたってもいられず、お世話をしていた子を同僚に託して危険を承知で現地に向かいました…


そこで私が見たものは…

瓦礫の山と、人の形ではなくなってしまっている無数の遺体でした…


私はどうすることも出来なく、立ち尽くしておりました…


その時、背後から絞り出す様な声で私を呼ぶ声が聞こえました…


振り返りますと、そこには全身血まみれになった男性が小さな女の子を抱えて地面を這っておりました…


彼でした…


彼は残っている全ての力を振り絞り、その女の子を私に差し出し、


【すまない…この子しか助けられなかった… この子を頼むよ…】


と…


私は彼とその子を抱き寄せ、あなたは十分役目を果たしました。

この子を助けてくれてありがとう…

この子は私に任せて。


と、申しました…


そして、


【私はこれから先も、ずっとあなたを愛しています…】


と告げました…



彼は涙を流しながら…笑みを浮かべて、私の腕の中で息を引き取りました…」


「……そうでしたか……………」


「……ハイ………」


「……その空爆の事はこちらでも大きく報道されましたので存じ上げています…

まさか、あそこに御園さんがいらしたとは……

ん⁉️…御園さん、もしかして…」


「そうです、お察しの通り、その子が華でございます。肌着に名前や連絡先が書いて縫い付けてございました…


私は、必死にご両親を探しました…

ですが、消息は判らぬまま…

無念でございますが、あの瓦礫の下で無惨な姿になってしまったのであろうと覚りました…」


「と、いう事は、華さんのご両親が災害で亡くなったというのは…」


「ハイ…嘘でございます…

本当の事を知ってしまえば、あの子が誰かを恨み続けながら生きていく事になると思いましたので…」


「なるほど…確かに…」


「それで…華さんの安全を第一に考え、共に帰国したという事ですか…?」


「ハイ…これは後からわかった事なのですが、華のご両親はその企業の重役で、その企業が開発、製造、販売していた計測機器が兵器に流用されていました…」


「ハイ、その事も後から報道されましたので存じ上げています。

それが空爆の標的にされた原因ではないかという報道でした…」


「ハイ…真相は判らぬままですが…恐らく…

私は帰国後、華の親戚を探し出しましたが、その対応は冷たいものでした…


あの空爆で大変多くの方が犠牲になりましたので、原因になったとされている企業の重役の娘は今後何らかの訴訟問題に巻き込まれる可能性があるので可哀想だとは思うが引き取れないとの事でした…


華に何の責任があるというのでしょうか‼️


そこで私は決心をいたしました。


彼が命懸けで守り、私に託したこの子を私も命懸けで守ると…


私はこの子に【武器商人の子】というレッテルが貼られる事を恐れ、裁判所を通じて親戚と掛け合い、華の身元を引き受けて、社を去りました。


しかし、幾ばくかの退職金や貯蓄は私の両親の負債の取り立て屋に持って行かれてしまいました…

私は無一文になってしまい、華と二人で路頭に迷いました…


そんな折、公園で炊き出しをされていた神父様と出逢い、神父様が理事長に頼んでくださり、私は孤児院の寮母兼保育士として華と共に住みこみで働かせていただく事になりました。


後に私は教会で洗礼を受け、シスターにならせていただき、華の成長に合わせて、小中高と教員免許をとりました…


そして、現在に至ります。」


「そうでしたか……

あなたの華さんへの愛情の深さがよくわかりました…

それに、大変お辛い御経験を……」




しばらくの間沈黙が続いた…




「あ、そうです、もうひとつのお願いとは…?」


「ハイ、それは私がこの世を去る事になりましたら、華の事をお願いいたしたいのでございます…」


「そんな悲しい事を言わんでください。一緒に孫を抱こうではありませんか‼️

ね?御園さん。」


「ハイ……ありがとうございます…

長生き…しなくては…でございますね…」


「そうですとも‼️」


「ハイ…」


「いや~、すっかり長電話になってしまいましたね、本当はお会いしてお話するつもりでしたが、子供達には聞かせたくない話もございましたし、これで良かったのではないでしょうか?」


「左様でございますね。」


「ですが、今度、改めて機会を設けてお会いしませんか?」


「ハイ。私も今、そう思っておりました。

…それでしたら、今度、御子息をご招待しております教会の秋の収穫祭に奥様と御一緒においでになりませんか?」


「それは良いですね‼️

私共も、優と華さんの演奏を観たいと思っておりましたので是非お伺いさせていただきたいです‼️」


「では、そういたしましょう。後日、華に招待状を持たせますね。」


「ハイ。ありがとうございます。」


「では、夜も更けてまいりましたし、今日はこの辺で失礼いたします。篠山先生、ごきげんよう…」


「御園さん、お互いに先生稼業なのですから【先生】はやめましょうよ…ハハハ…」


「フフフ…左様でございますね…では、篠山さん、おやすみなさいませ…」


「ハイ。おやすみなさい、失礼します…」


(第五楽章へ続く)



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