第三楽章
~決意~
パパとママは、駅に向かって街路樹沿いをそれぞれ考え事をしながら歩いていた。
二人は、ふと立ち止まり、同時に、
「あの…」
「あの…」
「エッ⁉️」
「エッ⁉️」
「お先にどうぞ。」
「お先にどうぞ。」
と言うと、一瞬見つめ合ってから吹き出した。
「アハハハ‼️」
「アハハハ‼️」
パパが、
「ここまでシンクロするとは…」
と言うと、ママはこみ上げる笑いが止まらないまま頭を何度も縦に振り、
「本当に‼️」
と言って、呼吸を整えてから、
「今日は本当にありがとうございました。優さんのご両親は本当にお優しくて…本当に大地の様な…あぁ…ゴメンナサイ……」
と、目を潤ませた。
パパは自然にママの肩に手を添えて、
「ウン、うちの両親はああいう人達なんです…ビックリさせちゃいましたか?」
と、優しく語りかけた。
「ハイ。それはもう色々とビックリしました…でも、本当に…嬉しかったです…」
と、ハンカチを取り出し涙を拭っている。
「華さん、端から見たらボクが泣かせてるみたいじゃないですか…ナンテ…冗談です。」
「あ、そうですよね…ゴメンナサイ…」
「ア…イヤ…ですから冗談ですって…」
「ハイ。フフフ…」
それから駅まで、行きの道程のぎこちなさはどこかへ行ってしまったように談笑しながら歩いた。
駅に着いた二人はまた黙ってしまった…
でも、二人の想いはひとつだった。
(もっと一緒に居られたらいいのに…)
ママは1回頷き、大きく息を吸い、
「私、関東芸大を目指します‼️」
と言い、まっすぐパパの目をみつめた。
パパも大きく頷き、
「うん。ボクも関東芸大を受けるよ‼️」
と言うと、二人は決意の表情で同時に頷いた。
「じゃぁ、また次の日曜日に…」
「ハイ…」
「気を付けて帰ってくださいね…
あと、何かあったらいつでも電話ください。」
「ハイ…ありがとうございます…」
電車の到着を告げる構内アナウンスが…
「来ちゃいましたね…」
「ハイ…」
到着した電車に乗り込むママを愛しそうに見送るパパ…
「それじゃぁ…」
「それでは…」
発車のベルが鳴り、ドアが閉まる。
ガラス越しに見つめ合う二人…
動き出す電車…
二人は、お互いの姿が見えなくなるまで手を振った…
パパは家までの道程を気が付けば走っていた。
この想いを早くおじいちゃんとおばあちゃんに伝えたかった。
「ただいま‼️」
「おかえ…」
「父さん、母さん、ボク、関東芸大を目指すよ‼️」
おじいちゃんとおばあちゃんは目を合わせてから、ニッコリと笑い、
「そう言ってくれると思ってたぞ。」
「私達は優が音楽の道に進むと思ってたから嬉しいわ。」
「それから…華さんを全力で支えてあげなさい。」
と言うと、両側からパパの肩をガシッと抱いた。
パパはちょっと恥ずかしそうに、でも、強い決意を抱き、大きく頭を縦に振った。
「ハイ。」
ママが改札を出ると、シスター御園が立っていて、ママの姿を見つけるとニコッと笑った。
「おかえり。」
「ただいま戻りました。シスター御園。あの…シスター…」
とママが話そうとすると、
「ハイハイ。話は学園に戻ってからゆっくりと聞きますよ。」
と、ママの肩に手を回した。
駅からの帰りの車中、二人は無言だった…
シスターはこれからママから聞くであろう話の内容を悟り複雑な心境だった…
ママは何から話そうかと想いを巡らせていた…
学園に着き、シスターはママに微笑みかけた。
でも、その目は少し悲しそうだった…
「華…自由時間に私の部屋にいらっしゃい。」
「ハイ、シスター。お話したい事が沢山あります。」
「そうよね…後でね。華…」
と言いシスターは少し下を向いた…
「ハイ。シスター…? どうかしましたか…?」
「いえ、大丈夫よ。後でね。華。」
「ハイ…あ、こちらのお手紙を優さ…
篠山さんのご両親からシスターにお渡しするようにとお預かりしました。」
と、おじいちゃんから預かった封筒をシスターに手渡した。
「そう…篠山先生から…
ありがとう…確かに受け取りましたよ。読んでおきますね。」
と少し悲しそうな目をしたままママに微笑みかけた。
そして自由時間、ママは何度も深呼吸をしてシスター御園の部屋のドアをノックした。
「シスター、華です。」
「ハイ。どうぞ、入って…」
「ハイ。失礼します。」
「そこに座って。紅茶でいいかしら?」
「シスター、私が…」
「では、お願いね。」
「ハイ。」
淹れた紅茶に一口、口をつけ、ママは話を切り出した…
「あの…シスター、私、関東芸大を受験したいです‼️」
予測していた言葉を聞いたシスターは目を閉じ、大きく深呼吸してから
「そう…決心してくれたのね…
私…心の準備をしていたはずなのですが…」
といつも笑顔のシスターが今にも泣きそうな顔をしている。
「シスター…私…」
とママが言いかけると、言おうとしてたことを悟っていたかの様に、
「いいのよ。それが一番いいの。
私もそれを望んでたのよ…
あぁ…嬉しいわ……」
と言い、大粒の涙を流した…
「シスター…」
ママはシスターにギュッとしがみつき涙声で続けた…
「あのね…私ね…シスターの事、本当のお母さんだと思ってるから…ホントはね…ずっと離れたくないの…でもね…でもね…」
シスターもママをギュッと抱きしめ
「うん…うん…わかってるわよ…
あなたはね、私の可愛い可愛い娘なの。
だから…ね…旅をさせないといけないの…いつまでも手元に引き止めていてはいけないの…
神様が篠山さんとめぐり逢わせてくださったの…
だから、あなたは…あなたの道を進みなさい…
私やシスター達に会いたくなったらいつでも会いに来ればいいのよ。
ね?華…」
「ハイ…お母さん…お母さん…お母さん…お母さん………」
とシスターの胸に顔を埋めたまま、ママは眠ってしまった…
「あらあら、この子ったら…まだ話の途中なのに…
今日は色々な事があり過ぎて疲れたのよね…」
と、シスターはママを抱きしめたまま頭を撫でた…
それから数時間が経ち、ママはふと目を覚ました。
「……ん⁉️ あれ⁉️ ここは……アッ‼️」
「フフフ…目が覚めましたか?」
「私ったら……」
「フフフ…いいのよ。今日は本当に目まぐるしい1日だった様ね。」
「ハイ。本当に…あ、それで…」
「ハイ。篠山先生からのお手紙、拝見いたしましたよ。本当に…本当にお優しい方ですね。あなたの住まいの事まで考えてくださって…
でも…本当にそこまで甘えてしまっても良いのかしら…
華、今度、私が先生と直接お話してみようと思うのですが…
私はあなたの母親代りですから…」
「シスター、代わりではなくて、シスターは私のお母さんです‼️」
「そうね。華…ありがとう。」
「いえ、お礼を言うのは私の方です‼️
お母さん、大~好き‼️」
「あらまぁ~、あなた、歌う時以外は内気なのに、今日1日で随分大胆な性格になったのね…フフフ…でも、嬉しいわ。ありがとう…
私も華の事、大~好き‼️」
「お母さん。」
「なあに? 華。」
「フフフ…何でもない。」
「まぁ。この子ったら…フフフ…」
「ところで華、あなたが眠っている間に篠山さんとご両親にお手紙を書いたの。今度お会いするときにお渡ししてね。」
「ハイ‼️」
「さてと、消灯時間を過ぎてしまってますから、今夜はここで寝ていきなさい。
ベッドはひとつしかありませんが…」
「ハイ‼️ ありがとうございます。
シスターに抱きついて寝ていた幼い頃を思い出します。」
「フフフ…そうね。 おやすみ。華。」
「おやすみなさい。ねえ、お母さん、なんだかベッドが狭くなったような…」
「フフフ…そうね。それだけあなたが成長したという事ね。」
「お母さん…」
「華…」
「お母~さん…」
「なあに? 華…」
「大~好き…」
「フフフ…」
二人は心地よい眠りについた…
(第四楽章へ続く)