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時空(とき)を超えて   作者: 紅坂彩音
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第一楽章


~miraculorum concursus (ミラクロウルム コンコウルサス) 奇跡的な出逢い ~


パパはひとりっ子だったし、小さい頃から友達と外で走り回って遊ぶよりは学校が終わったらすぐにお家に帰ってきて、【遊び相手はピアノ】みたいに育ってきたからか、凄くマイペースで、みんなでワイワイやってる時でもその場には居ても隅っこで読書に耽ったり、ちょっと離れたところから見ているようなタイプ。


でも、ぼっちとか陰キャな訳じゃなくて、誰に対しても公平中立で相手の話をよく聞くし、自分の考えもハッキリ言うのでみんなから頼りにされていた。



パパは、伴奏者として参加したコンクールの関東大会当日、会場でリハーサルが終わって本番まで少し時間が空くからと会場内の喫茶店で1人で紅茶を飲みながら読書に耽っていた。


「そろそろ時間か…」と席を立ち、レジに向かうとパパの前でレジに並んでいた他校の女子生徒が手を滑らせて財布を落として小銭を床に撒いてしまった…


パパは転がる硬貨を追いかけ客席の方へ駆けていき、ソファーの下に転がり込みそうな硬貨をダイビングキャッチ……出来たらカッコよかったんだけど、テーブルの支柱に頭を強打…


「イッテ~……」


「だ、大丈夫です…か…?」


「ハ、ハイ…大丈夫です…」


パパはぶつけた頭を片手で押さえながら、もう片方の手でソファーの下に転がり込んだ硬貨を手探りで探し出し、渡そうと顔を上げたら、その娘がパパをのぞき込み、顔がパパの目の前に… 


「本当に大丈夫ですか…?」



「………」

(…カ…カワイイ……)


「スミマセン、私がドジなばっかりに…」


「………」


「エッ⁉️…本当に大丈夫ですか…?」


と、その娘はボーッと自分の顔を見ているパパの顔の前で手を振っている…


ようやくパパは、

「エッ⁉️…ア…ハッ、ハイ、大丈夫です。あ、コレ…」


と言って、硬貨を手渡し、床から立ち上がろうとした。


その瞬間、スッと前から手が差し出された。


(エッ⁉️ 手…⁉️ )


「あ…ありがとうございます…」


(落ち着け~落ち着け~)


「いえ、お礼を言うのは私の方です。本当にありがとうございます。」


パパはドキドキしながら差し出された手をそっと掴み立ち上がると、一緒にレジに向かい会計を済ませて喫茶店を出る。


まだドキドキがおさまらないパパは、足早にその場を去ろうとした。


すると、背後から彼女が


「あ、あの、本当にありがとうございました‼️ 本番、頑張りましょうね‼️」


と言った。


パパはまだドキドキがおさまらなくて彼女の方を見れなかったので、親指を立てた拳を彼女に見えるように横に突きだして、


「ウン、頑張ろう‼️」


といい、集合場所に向かった。


コンクールが始まり、パパは気付けばさっきの彼女の姿を探していた。


透き通るような白い肌、大きくてキラキラした目、スッと筋の通った鼻、薄紅色の小さな唇…


彼女があまりにもキレイだったので、どこの学校の制服かよく見てなかった…(笑)


「プログラムNo.3聖ミハエル学園コーラス隊、自由曲、miraculorum concursus、ソプラノソロ、潮田華うしおだはなさん、課題曲、自由共に指揮、シスター御園みその、ピアノ、シスター黒崎」


(あ、居た‼️ ミハエル学園の生徒だっんだ…

制服、特徴あるのに全然気が付かなかった…

やっぱりキレイな人だなぁ…)


課題曲が終わり、引き続き自由曲の演奏が始まる…


(課題曲、女声三部も響きが綺麗だったな~…

そういえば確か、この自由曲の終盤のソロ、凄く難しかったような…)


ソロが始まる…


(あ‼️ 彼女だ‼️)


(かなり難しい音の動きを完璧に、しかもそれだけじゃない、高校生とは思えない表現力…)


(何て美しい歌声なんだ…)


会場に居た全ての人が彼女の歌声に引き込まれ聞き惚れた。

演奏が終わってからも、しばらくの間静寂が続いた…


パパは1人、スッと席から立ちあがり、心の底から拍手を贈った。


周りの人もハッと我に帰って、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


指揮者のシスターが彼女の肩に手を回し、一緒に舞台の前に出てきてお辞儀をした。

それでもしばらく拍手は鳴り止まず、笑顔のシスターの横で彼女は恥ずかしそうにはにかんでいた。


余韻も覚めやらぬ内にパパの学校にスタンバイの指示が…


舞台裏に移動し、前の学校の演奏を聴きつつも、彼女の歌声が頭から離れない…

(あぁ…切り替えなきゃ…深呼吸…深呼吸…)


「プログラムNo.5、都立世田東高等学校合唱部、自由曲、混声合唱とピアノのための組曲、時空ときを超えてより、遥かなる空、課題曲、自由曲共に指揮、松田耕一先生、伴奏、篠山優しのやまゆうさん」


(あ‼️ さっきの彼だ‼️ 伴奏者なんだ~)


前奏のピアノが始まった途端、会場の空気が曲の世界に染まる…


(す、凄い…こんなに深い前奏聴いたことがない…

曲の世界が目の前に、まるで映画でも観ているかのように…

ううん、そうじゃない、曲の世界に自分が吸い込まれてしまうような感覚…)


前奏から合唱に引き継がれる。


(決して自己主張が強いとかではなく、かと言って合唱に埋もれる訳でもなく、ピアノと合唱が共鳴し合って、より曲の世界がカラフルに描かれていく…


あぁ…なんて美しい演奏なんだろう…)


演奏が終わり、再び静まりかえる会場…


(あぁ…どうしよう…涙が止まらない…)


周りからも鼻をすする音が…


(この気持ち、伝えなきゃ…)


彼女は、静まりかえった会場で1人、席から立ちあがり、心の底から拍手を贈った。


周りの人も1人、また1人と溢れた涙を拭いながら立ちあがり、会場は今日一番の拍手に包まれた。


舞台上では、笑顔の先生が


「コイツ凄いでしょ?」


とでも言いたげにパパを両手で指差し、両手の親指を立ててから、生徒1人1人の目を見ながら拍手を贈っていた…


コンクールの結果はパパの学校と聖ミハエル学園が満場一致で全国大会へ進む事に。


表彰式が終わってから、パパはロビーで彼女の姿を探していた…


今度は制服でわかるからすぐに見つけられた。


彼女の元に駆け寄り、パパは大きく深呼吸をしてから、


「あ、あの、さっきはありがとう…

ソロ、本当に素晴らしかったです…

またお会いしたいです‼️


(あ‼️ 何言ってるんだ)


ぜ、全国大会で…


(あ‼️ 全国大会で会えることはもう決まってるんだった…)


ぜ…全国大会頑張ろうって意味です…ハハハ…」


彼女は頬を赤く染めながら、


「あ、こ…こちらこそ、ありがとうございました…

し…篠山さんのピアノも本当に、本当に素晴らしかったです‼️


あの…わ…私もまた篠山さんとお会いしたいです‼️」


(わわわ‼️ 私何言ってるんだ‼️)


パパは嬉しいのと恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じたが次の瞬間、ハッとして、


「エッ⁉️…何でボクの名前を…?」


それを指摘され、慌てた彼女は、


「エッ⁉️…だ、だ、だって、演奏前にアナウンスで…」


と、取り繕うけど、明らかに動揺している。


「あっ‼️ そ、そうか…ハハハ…そうですよね、潮田さん…」


「エッ⁉️…ア…ハイ…エッ⁉️」


(私の名前、覚えてくれたんだぁ…嬉しいなぁ…)


もはや、思考回路が通常運転ではない二人…(笑)


そこへ彼女の学校の指揮者をしていた

シスターがやってきた。


「あらあら、お二人共お知り合いだったのですか?」


彼女がアワアワしながら、


「エッ⁉️ ち…違います、シスター御園、篠山さんは先程、喫茶店で私が財布を落としてしまい散らばったコインを拾ってくださったんです。」


と言うと、シスターは微笑みながら、


「あら、そうだったのですね。それはありがとうございました。


篠山さんとおっしゃいましたよね? あなたのピアノ、本当に素晴らしかったですわ‼️

もし、よろしければ、私共の学園の母体であります聖ミハエル教会の収穫祭においでになりませんか?

うちの華と一緒に演奏を…」


と言ったところで、急にハッとして


「あらイヤだ…私ったら…不躾なお願いを…


初対面の方に大変失礼いたしました…


うちの華と篠山さんが一緒にそれはそれは素晴らしい演奏をしている様子が目に浮かびましてね、思わず口走ってしまいました…ゴメンナサイね…」


パパは顔を大きく横に振って、


「いえ、シスター様、そんなことは‼️

是非ともお伺いさせていただきたいです、潮田さんと一緒演奏させてください‼️」


(あれ⁉️ 今日のボク、何か積極的…)


それを聞いたシスターは満面の笑みで、


「ハイ、是非とも‼️

ありがとう、篠山さん、きっと素晴らしい演奏になりますわ。

後日、招待状を学校の方に送らせていただきますね。今から楽しみですわ。


本当は学園の文化祭にもいらしていただきたいのですが、学園は男子禁制ですので…


この子ったら篠山さんのピアノが素晴らしかったって大興奮で…


良かったわね華。」


と言い、シスターは彼女の方を見てウインクしながらニッと笑った。


「もぅ…シスター…」


と、言いながら、彼女は頬を赤らめ下を向いていた…


その時、会場の出口の方から松田先生の声、


「お~い、篠山~置いてくぞ~」


パパは先生に、


「今行きま~す」


と返すと、


「じゃ、潮田さん、まずは全国大会で…シスター様、ありがとうございます‼️


あ、それから、潮田さん、ボクは音楽は勝ち負けをつけるものじゃないと思ってるんだ。だから、お互いにベストな演奏が出来るように頑張ろう‼️」


と、ようやく彼女の目を見て話を出来た。


彼女はニッコリ微笑んで、


「ハイ。篠山さん、私もそう思います。頑張りましょうね‼️」


と、胸の前で両手の拳を握った。


「うん。じゃぁ…また…」


パパはなごり惜しそうに、彼女を見つめて小さく手を上げてから、シスターにお辞儀をして出口の方へ走った…



みんなが待ってるバスに乗り込んだら一斉に「ヒュ~ヒュ~」って冷やかされ、


「バカ、やめろよ… そんなんじゃないし…」


って言いながら、パパはニヤニヤが止まらなかった。



これが、パパとママの奇跡的な出逢い。

そう、潮田華は私のママになる人です。


(第二楽章へ続く)



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