第6話 VSゴブリン
——青年side——
「話している時間はない! 今聞いた作戦で行くぞ!」
それだけ言って青年はホブゴブリンに向かって走り出した。青年はまずホブゴブリンがどれだけの実力があるか確かめるつもりだった。一人で倒せそうなら一人でホブゴブリンを相手して、ルイにはゴブリンを倒した後ゴブリンアーチャーたちの方に向かってもらう。二人じゃないと無理そうなら二人で戦う。そう戦闘の方針を考えていた。
しかしそんな青年だが一つ勘違いをしていることがあった。それは
(あれだけの魔法が使えるんだ。あの女の子は魔導士だろう。接近戦は分からないけど、魔法封土ではないだろう)
ルイが女の子だと勘違いしていることだ。しかしルイのみためから青年が勘違いするのも仕方がなかった。
「【星魔法】流星!」
青年がそんなことを考えていると後ろから声が聞こえた。聞こえたと思ったら青年をかなりのスピードで追い抜き、ホブゴブリンに向かって一直線に突っ走っていった。
「早っ!? あんな魔法も使えるのか!」
ホブゴブリンに突っ込んでいったルイは短剣を突き出したが、あと少しのところで盾で防がれてしまった。防がれた後、すぐさま距離を取ったルイと入れ替わるように青年が前に出てホブゴブリンに斬りかかる。
「はぁあああ!」
剣と盾がぶつかり合う音が森の中に響く。攻撃は防がれたが何度も斬りかかる。ホブゴブリンも負けじと、盾で防御し棍棒を振り回していく。そのまま打ち合っていると青年はホブゴブリンの棍棒と盾の扱いが下手だということに気付いた。
「これなら俺だけでも倒せそうだ」
これなら一人でも倒せそうだと思った青年は一度距離を取りチラリとルイの方を見る。そこには四匹のゴブリンと戦っているルイの姿があった。しかし、しきりに青年とホブゴブリンを見ていてゴブリンとの戦闘に集中できていないようだった。どうやら青年が大丈夫か心配しているようだ。青年は心配してくれるのはありがたいが目の前に集中しなければ危険だと思い声をかける。
「ホブゴブリンは俺に任せろ! 一人で十分だ。あんたはゴブリンに集中しろ!」
そう言うとルイは青年の方を見る。そのとき青年とルイは目が合った。青年は任せろと言わんばかりに自信満々な表情でニッと笑顔を見せる。
その後、青年は再びゴブリンに斬りかかっていく。ゴブリンと打ち合いながらチラリとルイの方を見ると、さっきとは別人のようにゴブリンを翻弄している様子が見えた。
「もう大丈夫そうだな。さあ、俺もいくぜ!」
ホブゴブリンの攻撃は棍棒を力任せに振っているだけなので避けるのは容易だった。棍棒を振った後に隙ができることに気付くと、青年はその隙をつき少しずつホブゴブリンに斬りつけていく。このまま少しずつ削っていけば倒せるだろうが、それでは時間が掛かりすぎる。相手がホブゴブリンだけならこのままでも良いかもしれないが、今はあまり時間を掛けることはできない。なぜならゴブリンアーチャーとゴブリンソーサラーがいるからだ。二匹を相手に時間稼ぎをするのは厳しく、長くても十分が限界だろうと青年は考えていた。ただでさえ今日は戦闘が続いていたため、少女の魔力がけっこう減っている。二匹と戦うことを考えたら可能な限り早くホブゴブリンを倒し、少しでも魔力と体力に余裕のある状態で向かいたかった。
仮に少女が限界まで魔力を使いその後の戦闘で戦えなくなった場合は、攻撃魔法を使う魔力がなく短剣で戦わなければならないルイと大した魔法が使えない両手剣の男二人で遠距離攻撃をしたてくる二匹と距離のある状態から戦うことになる。接近しようにも接近することを許してはくれないだろう。少女に魔力があれば魔法で支援ができるため接近もしやすくなる。少女に魔力があるのとないのとじゃ戦闘の難易度が段違いになるだろう。
そのことを理解していた青年は、ホブゴブリンに隙ができたと同時に一気に攻勢に入りホブゴブリンを追い詰めていく。
「はぁあっ!」
青年はホブゴブリンが持っていた盾を弾き飛ばした。盾を弾き飛ばされたホブゴブリンは体勢を崩し、無防備な状態をさらす。
「はぁあああ!!」
青年はそれを見逃さず、全力で剣を振るった。青年が振るった剣はホブゴブリンの肩からお腹まで大きく斜めに斬りさいた。斬られたホブゴブリンは後ろに倒れていく。
「よし! 倒したぞ」
青年はそれを見て倒したと思い油断した。ホブゴブリンは倒れかけたが持ち堪え、青年に向かって棍棒を振りかざした。倒したと油断してしまっていた青年は反応ができなかった。「やられる」と思った青年だが、ホブゴブリンが棍棒を振りかざしたところでビクッとしたと思ったら前に倒れてきた。
「え?」
青年は何が起こったか分からずホブゴブリンが倒れていくのを見ていた。
「助かった? ……ん? 何か背中に刺さって……短剣?」
「大丈夫ですか!?」
「ん? おお、あんたか? 俺なら大丈夫だぜ! それよりこの短剣って……」
「僕がやりました」
どうやらゴブリンを倒し終わったルイは、青年とホブゴブリンの戦いを援護しようと思ったらしい。そして青年の方をみるとホブゴブリンが棍棒を振りかぶるところが見えて咄嗟に短剣を投擲したとのことだ。
「そうか。仕留めたと思って油断したから助かった、ありがとな」
「いえいえ、でもあとは上位種の二匹——っ!」
「どうした?——!くそっ!」
何があったか聞こうと思った青年だが、それが目に入りその必要がなくなった。後方で混乱に陥っていたゴブリンがいつの間にかこちらに向かって走ってきていたのが見えたからだ。
「あの人が!」
ルイの声に少女の方を見た青年が見たのは弓矢が少女の肩に刺さるところだった。
「エマ! 俺はエマを助けに行くぞ!お前は——」
「なら僕は上位種を引き付けます。その間に救出と回復を! これを使ってください」
「これは……ありがたく使わせてもらう」
青年がルイから渡されたのは下級のポーションだ。青年も下級のポーションを一つ持っているが、その好意をありがたく受け取った。そして青年は少女、エマのもとへ走り出した。
「邪魔だ! 退けぇ!」
青年は進路にいたゴブリンに襲い掛かられたが無理やり突破していく。そんな中、エマを襲おうとしたゴブリンが吹き飛ばされたのが見えた。よく見るとエマの周辺が風に覆われているのが見えた。
「あれはエマの魔法か?でもこれじゃ近づけねえぞ。エマ! 大丈夫か、返事をしてくれ!」
青年が声をかけるがエマは倒れたまま返事がない。そのことに危機感を覚えた青年は何とか風に覆われている内側に入れないか試してみるが、風によって吹き飛ばされてしまった。
「クソ! 魔法が切れるまで入れないのかよ!」
青年はどうすれば内側に入れるか考えるが、ゴブリンたちが襲い掛かってきてそれどころじゃなくなってしまった。青年はゴブリンと戦いながら考えようとするがゴブリンの数が少しずつ増えてききたためゴブリンとの戦闘に集中しなければと集中し始めた。
「エマを早く回復させたいけど……まずはお前らを倒す!」
青年はゴブリンと戦いながら必死に考えていた。なぜならゴブリンはどんどんと数を増えていっているからだ。一対一でゴブリンを相手にするのなら負けはしないが二匹、三匹、五匹とゴブリンはどんどんと増えている。二、三匹ならばなんとか対処することはできるがそれ以上の数は今の青年では厳しい。数が増えると死角からの攻撃が増えたり囲まれたりする可能性もある。囲まれでもしたら勝ち目はほぼなくなるため、囲まれないよう立ち回りながら有利な状況にするにはどうすれば良いか考える。
「ちっ、どうすれば……」
エマの魔法が消えるまでにゴブリンを倒したいと考えながらチラリとエマの周囲を覆う風を見た青年はあることを思いついた。そして青年はそれを実行するのに最適な場所をゴブリンから逃げ出し探す。その場所はすぐに見つかった。すぐさまそこに陣取り、ゴブリンとの戦闘を再開する。
「ここなら背後をほとんど気にせずに済む。来い、ここでお前らを相手してやる!」
青年が思いついたことは風の監獄:反転を自分の背後に陣取るということだ。この魔法が切れるまでは背後からの攻撃を気にする必要がない。それだけでなく青年は上手いこと木を使い、ゴブリンが横から攻撃をするのが難しくなる場所を選んでいる。そのためゴブリンは前方から攻撃せざるを得なくなった。青年はエマの魔法を上手く使い、戦闘に有利な状況に持っていくことができた。そして、風の監獄:反転にゴブリンを叩きつけて吹き飛ばすなど前方にいるゴブリンの数を減らして戦っている。できる限り自分が対処可能な数で戦闘をしていく。いずれは維持することができなくなるだろうが、その時はその時で相手をするしかないだろう。そうなる前にできる限り数を減らし、傷を負わせておく。そうしておくことで少しでも生き残る可能性を増やしていく。
「はぁ! おらぁ! ——ぐあっ! ……もっと速く、もっと強く! はぁああ!」
それでも青年はさすがにすべての攻撃を防ぐことはできず、何度も攻撃を受けてしまう。しかし何度ゴブリンの攻撃を受けようが青年は倒れない。
「うぉおお!」
何度も攻撃を受けても倒れない青年とその気迫にゴブリンは恐れを抱き後退る。後退るゴブリンを見た青年はそれまで以上に攻勢に出てゴブリンを切り倒していく。すでにエマの魔法は切れてしまっている。しかし青年はゴブリンを一手に引き付けている。エマの方に行こうとしたゴブリンもいたが即座に青年によって斬り伏せられていた。そして十匹ほどのゴブリンを倒したところで一匹のゴブリンが逃走し始めた。それを追いかけるようにその他のゴブリンも逃走し始める。青年はそれを追いかけることなく見送った。そしてゴブリンが見えなくなるとすぐさまエマに近寄り声をかける。
「はぁ……はぁ、エマ! 大丈夫か?」
青年はエマが息をしていることを確認し安堵する。そして肩に刺さっている矢を引き抜き、ポーションを傷口に少しずつかけていく。
ちなみにポーションの使い方は二種類ある。それは青年がしたように傷口にかけるか、ポーションを飲むかの二つだ。どちらも怪我を癒すことには変わらないが少し効力に違いが出る。ポーションは飲むことによって体の中を癒す。それに比べて傷口にポーションをかけると、ポーションがかかったところを中心に癒していく効果がある。このことからポーションを使うときは状況に応じて使い分けることができる。
青年はエマが肩以外に目立った外傷がなかったため傷口にかけることを選択した。持っていたのは下級ポーションだったが見る見るうちに治っていき、無事に回復することができた。
「良かった、これでもう大丈夫だ。あとは上位種だけだが……くっ」
青年は既に限界だった。先程のゴブリンとの戦闘での傷が今頃になって痛み出した。ルイから受け取ったポーションを飲めば治るだろうが、この程度の傷で使う気にはならなかった。それにエマが気を失っている状況でここから離れることができなかった。エマが目を覚ましてくれたら二人でルイの援護に向かうことができるが、今の状況で離れれば他の魔物が現れた時にエマが危険だ。そんなこともあって青年は援護に向かいたいが、この辺りから離れられないという状況になってしまった。
「頼むから無事でいてくれ。エマが目覚めたらすぐに向かうからな」
やっと少女の名前が出ました。もう少し前の話で出そうか迷ったのですがここで出すことにしました。
青年の名前は7話か8話で出す予定となっています。
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