第4話 大量発生
「【星魔法】流星」
魔法を唱え、ゴブリンに向かって一直線に走りだした。ゴブリンが接近に気付いたときには、すでに一匹のゴブリンの首を斬っていた。ゴブリンも攻撃をしてくるが、棍棒を振り下ろした先に既にルイはいない。ゴブリンはルイの姿を見失い、周りをキョロキョロと見てルイを探す。そしてルイはゴブリンの背後から斬りつけ、すぐに距離を取る。
「いける!」
ゴブリンが自分のスピードに付いて来れないと分かり、一撃離脱を繰り返しながら翻弄していく。レイモンドが普通にこの速さに付いてきていたので少し不安があったルイだが、ゴブリンは付いて来れないことに安堵した。その直後、ゴブリンがでたらめに振っていた棍棒がルイに直撃した。
「ぐっ……! あぁぁああああ!」
ルイは何とか踏ん張り、ゴブリンの胸に短剣を突き刺した。ルイの足が止まったことでゴブリン達がルイに向かってくる。
「くっ……このっ!」
ルイは短剣を突き刺したゴブリンを蹴り飛ばし、向かってくるゴブリンの邪魔をする。そして一度、ゴブリンから距離を取った。
「はぁ……はぁ……あと四匹」
再びゴブリンに接近し、斬りつけていく。少し時間はかかったが無事に六匹とも討伐することができた。
ゴブリンの解体を終えたルイは、木に背を預け休んでいた。
六匹が相手でも倒すことはできたが危険なところもあった。ルイは少し油断したところをやられてしまったことを反省していた。
(油断した……自分のスピードに付いて来れないからと言って油断したのは駄目だな。あと魔物の数が増えると上手いこと立ち回らないと死角から攻撃される回数が増える。立ち回り方を考えておかないとなぁ。帰ったらレイモンドさんに立ち回り方について聞いて見ようかな)
「まぁ、大きな怪我無く討伐できたことに関しては良かったかな」
(それにしても魔物を探すのは時間が掛かると思っていたけど、意外と時間が掛からなかったな。奥の方に行くにつれてゴブリンを簡単に見つけられた。案外、ゴブリンの巣ができてたりして……)
そこまで考えてルイはハッとした。いくらゴブリンの数が多いと言ってもこれほど簡単に見つけることが出来るのか、既に14匹と遭遇しているが遭遇していないだけで他にもゴブリンはいるだろう。これが多いのかどうかの基準が分からない。
幸いなことにルイはゴブリンアーチャーやゴブリンソーサラーなどのゴブリンの上位種はまだ見てない。ただギルドに報告をしておこうとルイは心に決めた。
「ふぅ、依頼は達成してるしこれで帰ろう」
そしてギルドに戻るため立ち上がったとき
「———!」
どこからか声が聞こえてきた。
すぐに周りを警戒し見渡すが何も見当たらない。
「こっちの方から聞こえてきたと思うんだけど…」
声のした方に警戒しながら近づいていくと、再び声が聞こえてきた。
「クソッ!いつの間にこんなに集まりやがった!逃げるぞ!」
「逃げるのは良いけど、囲まれているのよ!どうするのよ!」
奥の方に少し開けた場所が見えてきた。そこに大量のゴブリンに囲まれている二つの人影が見えた。二人の近くにはゴブリンが四匹倒れていた。あの二人組が倒したのだろうと推測できた。しかしまだ周りには三十匹くらいのゴブリンがいる。二人で倒すには数が多すぎて無理だろう。Cランク以上の冒険者パーティーであれば不測の事態がない限り可能だろうが。しかし、その二人組はルイと同じくらいの年齢だ。冒険者ランクは良くてもE、Dランクだろう。
(このままじゃ二人が!! とにかく助けないと!! でもどうしたら…………あの魔法を使えば逃げ道を作るぐらいはできるかな? いや、すぐに囲まれるかも。でも少しでも数を減らせるなら……よし、決めた。使おう!)
ルイはある魔法を使う準備を始める。
(この魔法は範囲が広い。そのまま撃つとあの2人も巻き込んでしまうかもしれないから範囲を狭めるために発動できるギリギリまで魔力を絞る。その分、威力も落ちるけどゴブリンが相手なら問題ないはず)
魔法の準備ができたルイは隠れていた場所から飛び出し魔法を発動した。
「二人とも、伏せて下さい! 【星魔法】隕石!」
二人に声をかけると反射的に屈んだ。それを見てすぐさま魔法を放つ。
魔法を発動させるとゴブリンの下に魔法陣が浮かび上がり光輝いた。その直後、凄まじい衝撃がゴブリンを襲った。
「うおっ!」
「きゃっ!」
二人はこの魔法に巻き込まれずに済んだが範囲ギリギリにいたため衝撃波に耐えている。衝撃波が収まり、二人が目を開けるとそこには直径十五メートルほどのクレーターができていた。この魔法の範囲内には十匹ほどのゴブリンがおりほとんどのゴブリンが死んでいた。
突如起きた出来事にゴブリンたちは混乱に陥った。今の魔法で六割ほどの魔力がなくなり少しふらついたが、何とか持ちこたえ追撃するために魔法を使う。
「【星魔法】流星」
魔法を使うと短剣を抜きゴブリンに向かって走り出す。混乱に陥っているゴブリンを斬りつけつつ、二人に声をかける。
「二人ともこっちです! 逃げます!」
「お、おう!」
「わかったわ!」
二人が逃げてくるまでにゴブリンの数を少しでも減らすために短剣を振るっていく。
「助かった!」
「ありがとね」
「とにかく逃げましょう!」
三人はすぐさまその場から離脱するがあまり混乱していなかったゴブリンが数匹回り込んでいた。
「チッ!逃がさない気みたいだな。どうする?」
「蹴散らします!」
「はははっ!それ良いな、気に入ったぜ!」
「それじゃ、行きましょう!」
「おう!」
そう言うと、青年はルイと共にゴブリンに向かって走り出した。
「あっ、ちょっ!? 私にも聞きなさいよ!」
そんな少女の叫びが森の中に響き渡るのだった。