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勇気#7


 こんな、ワケの分からない世界で、ワケの分からないまま、死ぬのか。


 まだボク若いのに……異世界だったらおっさんになるまで生きたかったよ。そして追放されるまで生きたかった。


 ボクの脳裏を滅裂な思考が埋め尽くしていく。走馬燈のようで、そうでない。そして、


 ボクが最後に思ふこと、それは最近の時流のことでは無かった。時流を深く愛していたし、尊敬もしていたが、ふと沸き上がった想念に、壮年の云々は吹っ飛んでいた。


 女の子と、付き合ったことも無いのに……ッ!!


 死を前にして思うこと、それは性だった。いまわの際まで健康体だったのなら、しょうがないことだよね……


 眼前に迫るのは、「魔神」と呼ばれるほどの力を有しながら、妖艶かつ美麗な女性の外見をも有している物体。そうか、じゃあもうそれを女性と認識してしまえばいいんじゃないか?


 これで最後なら、滾り切った思春期のエネルギーを蒼天に届くくらいまで装填し、果ててやる。肚は、決まった。


【ふおおおおおおおっ!!】


 腹からの魂の叫びは、実際にボクの声帯を震わせると、奇跡を起こすのであった。


「んん? お主は良く分からないが、ぶっ飛んだ思考を持っておいでだねえ。よいよい、初めて食すモノというのはいつだって心躍らされる……」


 目の前には金髪の美女が、ボクにそんな熱い視線を送っているよ……いける。何だか今日はいけそうな気がする……ッ!!


【……アナタガ好キデソォォォォォォォォッ!!】


 瞬間、自分の身体をも震わせる大音声が、ボクの喉奥から放たれた。


「……ええっ?」


 途端に金髪美女の表情が、可憐な少女のものに変わる。突然のことに戸惑い、顔を羞恥に赤らめながら。


 効いてる……本当にいけそうな……さらにボクは肺いっぱいに息を呑み込んで続ける。


【アナタノコトカァァァァア、ダイッ、好キデソォォォォォォォォッ!!】


「ちょっ……!! 何言ってんのよバカじゃないっ!?」


 引いたぞッ、推定確率0.02%の絶滅危惧級希少種ツンデレをぉぉぉぉぉっ!! だったらボクはっ!! 日頃の疑似プログラム相手のシミュレーションの成果を見せるだけだッ!!


【イツマテモォォォォォォッ!! 変ワラナイテェェェェェェェェェェッ!!】


「あ、アンタなんか……っ、アンタなんかぁ……」


 怒りのような照れのような最高の表情を見せながら、「少女」はいつの間にか出していた両拳を握りしめて、わなわなと体を震わせているけど。


【死ヌホトォォォォォォォッ!! ……好キダッ、カラァァァァァァァァッ!!】


「!!」


 ボクの最後のひと押しで、泣きそうな真っ赤な顔になると、堕ちた。そして次の瞬間、化物然としたボディからするりと抜け出た全裸の美女は、素早く駆け寄ってくると、ボクの身体をきつく抱きしめるのであった……


 勝った。全てに勝ったよ、父さん。


 コロッセオの観客席および実況からは、ええ……という腐った溜息のような声が降り落ちて来るけど。文句があるなら、このアロナコちゃんに食わせますよ?


 こうして。


 「勇気」とは何だったのかという、壮大な未回収感を残し、「祭り」は終わるのだった。


 一旦は「勇者」に成りあがりかけたボクは、魔神と共に世界を統べる存在へと駆け上がっていくのだけれど、それはまた別の話だ。


 ボクたちの冒険は、これからだぜっ!!


(終)



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