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15話 祈る星

 かくしてクナは、剣を背負う花売りに思いを託した。


「舞踊団の間に動揺を広めるのは得策ではありません。もし巫女の皆さまがまだこの件をご存じないなら、しばらくそのままで」


 そう言い置いて、花売りはさっと駆けて行った。クナのもとには五人の護衛騎士をそっくり残し、たったひとりで。ふわりと衣をひるがえし、クナの頬にかろやかな風をかけながら。

 とはいえ、こたびの事件は、すめらの兵たちが全力をあげて動いている案件である。クナを襲った者たちと同種のものどもが相手だとすれば、はなはだ危険なことこの上ない。

 浮島でめざましい活躍をしたとはいえ、花売りは大丈夫だろうか? さらわれた月の巫女は無事でいるだろうか? 

 クナは慌てて護衛騎士たちに、花売りと行動を共にしてくれるように頼んだ。しかし騎士たちはその願いに難色を示した。彼らはトリオンから、クナのそばから決して離れるなと命じられているというのだった。


「すめらの星を守るのが、我らの務めなれば」

「もうしわけございません。後見人様の命に逆らうわけには」

「五人もいるんですから、どうかひとりか二人でも。お願いします、花売りさんを助けてあげてください」


 何度も頭を下げた甲斐あって、渋々ながらひとりの騎士が名乗りをあげてくれた。それは楽屋で舞うクナに、花売りと一緒に時折、拍手を送ってくれていた人だった。


「どうかこのことは、後見人様にはご内密に」

「ありがとうございます!」


 親切な騎士は重い鎧を着込んでいるのだろう、がしゃがしゃ音をたて、花売りのあとを追っていってくれた。

 そんなわけでクナの心中は、心配と懸念でぎゅうぎゅういっぱい。舞台に集中するのにひどく苦労した。

 

「スミコ! 舞台のことだけ考えなさい!」


 幕が上がり、静止していた巫女たちが舞い始め。舞台の袖にいるクナが、舞台の中央に踊り出ようとしたとき。メノウが背後から今一度、鋭く声をかけてきた。ずぶりと刺してくる槍のようなその一喝が無ければ、クナの手足はへなへなになってしまっていたかもしれない。

 

(そよ風。つむじ風。かまいたち)


 頭上から光を照らしてくる照明は、ひどく熱かった。

 クナはちりちり、太陽のような光に身を焼かれた。

 

日方(ひかた)(おろし)風花(かざはな)。さあ飛んで、花音(かのん)!)

 

 不快な灼熱を振り払いたくて、クナは思い切り、わが身に回転をかけた。心配ごとを周りに吹き飛ばしてしまうかのような勢いで、くるくる、くるくる。いつにもまして力強く、そして途方もなく速く回った。

 観客席からどよめきが立ち昇ってくる。まだ一幕も終わらぬうちだというのに、クナが花音(かのん)を舞って着地したとたん、うわっと盛大な拍手が起こった。


「まあ、昼公演(マチネ)ですのに、なんて見事な」

夜公演(ソワレ)に備えて、昼公演(マチネ)は力を抜く(ステラ)が多いというのに」

「夜の切符が買えなくてがっかりしてましたけれど、来てよかったですわ……!」


 ひそひそ、観客の声がたくさん、耳に入ってくる。


(手を抜く? まさかそんなこと……)


 以前の公演先だったユーグ州の州立劇場は、白鷹の州公閣下が州民のためにお建てになったもの。ゆえに昼も夜も、なんの制限も無く、万民のために解放されていた。貴族たちは昼夜関係なく庶民と同じ入り口をくぐっていたが、もっぱら料金の高い箱席で観覧することで、一般の州民と差をつけていた。

 しかし、先にここにきていた巫女たちによると、セーヴル州のこの大劇場では、階級をくっきり分ける入場形式がとられているという。

 黒竜宮劇場――輝かしくも州公閣下の家名を冠したこの劇場が万民に解放されるのは、昼公演(マチネ)の時のみ。昼の部の料金は夜公演(ソワレ)の三分の二で、所得の低い庶民に対して配慮がなされているが、その分、上演時間は若干短めだ。これは数十年前、先代の黒竜州公が州の文化民度の向上を願って、導入なさったそうだ。

 だが夜になると、大劇場の扉は狭められる。築五百年を誇り、災厄のときも無傷だったこの場所は、きらびやかに着飾った貴族や大商人といった人々、および特別に許可された報道機関の人々だけが入れる社交場となる。絹のシャツやドレスを身にまとっていない者は、容赦なく門前払いを食らうらしい。


「昼間にもこれほどのものを披露するなんて、帝国舞踊団は太っ腹ですこと」

「ほほ、庶民のためというより、わたくしたちのためではなくて?」

「ええそうね。きっと夜公演(ソワレ)の切符を買えなかったわたくしたちに、配慮してくださっているのですわ」 


 ころころ笑いあって話す声たちはおそらく、やんごとなき貴婦人たちのものに違いなかった。

 帝国舞踊団は、ありがたいことに切符が買えないほどの大人気。普段は夜にしか劇場へこない上流の人々も、不本意ながら、昼公演(マチネ)に流れてきているようだ。昼間はどんな人でも入場が可能、すなわち貴族たちには、なんの制限もないからであろう。

 

(お客さんに合わせて、演し物の完成度を変える? 昼と夜とで? この州ではそんなことが、まかりとおっているの?)


 クナは、指先やつま先にすっと緊張を走らせた。


(いいえ、いいえ。昼も夜も関係ないわ。あたしの舞を観てくれる人に、優劣をつけるなんてとんでもないことよ。あのお客さんたちのためだけじゃない。ここに立つ以上は、だれに対しても、最高のものを見せなきゃ……!)


 婦人たちのおかげで、クナはようやく胸に広がる不安を抑えることができた。

 舞台に上がっているのに別のことに気を取られていては、それこそ、すべての客に失礼だ。せっかくわざわざこうして、おのれの舞を観に来てくれたのに。とても楽しみにしてきてくれたに違いないのに。その思いを軽んじてはだめだと、クナは気を引き締めた。


(きっと大丈夫。花売りさんを信じるのよ!)


 二幕の山。そして最後の三幕の山。はるかな高みへと徐々に上って行く形で構成される舞を、クナは丁寧に、しかしものすごい速さで昇っていった。

 そうして最後の最後、はるかな頂上にいきついた瞬間。裳をゆらめかせる舞姫は、高く高く舞い上がった。

 久しぶりの舞台の上での飛天は、まるで背中に、本物の翼が生えたかのよう――


(この手に星を!)


 クナは天に向かって手を広げた。自身も、燦然と輝く星となりながら。





『ごきげんよう、こんばんは、我が主』


 その晩。クナは久方ぶりにはっきりと、花売りの剣の声を聴いた。


『どうでしたか? そちらの首尾は。お客さんは喜んでおられました?』

「ええ、とても。ってあの、剣さん? なのですか?」

『はい、我が主』

「あのでも、あたし今、起きてます」


 ふおんふおん。あたりには荘厳な囁きの歌声が響いている。

 宿舎のひとつ部屋で、太陽の巫女たちが輪になって祝詞を唱えているのだ。


「みんなで、お祈りしてる最中です」


 昼の公演(マチネ)夜の公演(ソワレ)も大盛況。クナは昼も夜も見事な飛天を飛んで、観客を沸かせた。すめらの星が今までの娘ではないことがばれぬよう、メノウは貴族たちからの招待を丁重に断り、押し寄せる記者たちをすめらの衛兵たちで遮断した。その合間にクナは劇場の裏口から出され、宿舎に返された。

 太陽の巫女たちが、まるで花嫁の付き添いのようにクナを隠すようにして、ついてきてくれた。そうして四人一緒のひとつ部屋に戻るなり、クナはリアン姫につんつん突かれたのである。


「それでスミコ。ホン姫は病気ではないのでしょ? 本当はなに?」


 顔色を見れば如実にわかると、アカシもミン姫も、事が尋常ではないことをしっかり感じとっていた。観念したクナがホン姫のことを話すと、従巫女の筆頭たるアカシが、みなに祝詞を唱えましょうと呼びかけたのだ。それで太陽の巫女たちは輪になって、危機にある人とそれを救おうとしている人々のために一所懸命、祝詞を唱えていたのである。

 剣の声が降ってきたのは、まさにそのときのこと。クナは仰天してきょろきょろ、あたりの空気を探った。


「夢の中ではないのに、どうして?」

『あら、気づかないんですか? 竜王メルドルークの声を複製いたしました我が美声、はっきり聞きとれるということは、あなた、ぐるぐる妨害電波を消せておりますよ。五人の護衛騎士が、光の子が発する妨害電波のアンテナになっていたようです。あなたのそばからひとり欠けましたので、このように妨害が薄れているのですよ。ふふふ』

「ほんとうですか?!」


 おもわず大声をあげてしまったので、クナは両手で自分の口を塞いだ。

 巫女たちの祝詞が止まる。何事かとリアン姫が聞いてきたので、クナは剣から連絡がきたと答えた。


「なぜか、声が聞こえるんです。頭に直接響いてくるというか」

「ああ、念話というものですわね。剣がしゃべるなんて面妖しごくですけど、ありえないことではありませんわ。それによるとどうですの? ホン姫は見つかりまして?」

「聞いてみます。剣さん、あなたはいま、どこにいるのですか?」


 問いの答えは、クナの頭にびんびん響いてきた。いつもよりずっと離れたところにいるというのに、なんとも不思議なことである。


『ふふふふ。いままですめらの大使館におりまして、今、こそっと外へ出ましたところです。まあ、あなたのいる宿舎から歩いて十分の距離というところでしょうか』


 花売りは迷わず一路、「花売り人」としてすめらの大使館に赴いた。そこで注文をとって花を届けるかたわら、月の巫女の捜索隊本部があるのをつきとめたという。

 

『サンテクフィオン商会は、北五州のやんごとなき皆さまに、ひいきにしていただいてますからねえ。セーヴルにある各国の大使館も、軒並み顧客なのでございますよ。しかしすめらは、今回のこともあなた様のときのように、ひた隠しにしたがっているようです』


 花売りは花の鉢を抱えつつ、堂々と大使館内を闊歩したらしい。そうして捜索隊がせわしくやりとりしている情報を、しっかりこっそり取得したというのだった。


『現在私たちはあなた様の護衛騎士とともに、すめらの兵士たちを尾行しております。捜索隊本部に、さらわれたホン姫の手がかりを見つけたという情報が入ってきたのです』


 実況する剣から、ぴぴぴと何か変な音が聞こえてくる。剣は剣でありながら、何かふしぎな仕組みをその体内に持っているようだ。だからこんな摩訶不思議な芸当ができるのだろう。


『しかし身代金などの要求は、いまのところ一切ございません。ですので、ホン姫が生きている可能性は……ああ、申し訳ございません。サンテクフィオンが、単なる推測を報告しないでくれとおっしゃっております……おお、すめらの兵士が、灯りのついていない建物の敷地内に入っていきました。大使館からずいぶん近いですよ? ここに囚われているのでしょうか。灯台もと暗しというわけですね』

「そこはどんな建物なんですか?」

『ずいぶん大きな、大理石だらけのお屋敷です。どなたか、貴族の方のもののようですね。情報によりますと、おそらく親・魔道王国派の方の館であろうとのことです。

 すめらの兵士たちが、窓辺にはりつきました。建物の中をうかがっております。私たちは騎士さまといっしょに、庭の茂みに隠れております。しかし常夜灯の灯り球、一体いくつございますのでしょうか。庭はまるで真昼のようです』


 クナが剣から受けた情報を巫女たちに伝えると、アカシが緊張した声で囁いた。


「祈りましょう。ここから近いようですから、窓を開け放って私たちの神霊力を飛ばしましょう。兵士たちがよき知らせを、よき結果を引き寄せられるよう援護するのです」


 その号令に、太陽の巫女たちは祝詞の詠唱を再開した。アカシの低めの歌声に、ミン姫が、クナが、そして高音のリアン姫が声を合わせていく。

 ほどなく、どうかよき知らせをと願うクナの頭にびんびんと、剣の声がはじけた。


『緊急! 緊急! 危険! 危険! 建物の中から、怪しい賊が飛び出してきました! 真っ黒装束で飛び道具を持っております! すめらの兵士がひとり、倒されました! ああ、もうひとり!』


 敵はたった一人ながら、かなり手ごわいらしい。剣の叫びにクナは顔を蒼くした。三人目、四人目と、すめらの兵はあっという間に、ばたばたやられてしまった。


『相手は、馬鹿みたいに強力な用心棒をやとっているようです。私たち、援護に出ます!』

「がんばって!」


 しばし剣からの声が途絶えた。まさか危急の事態に陥ったのではないかと、クナが不安になったとき。ぷはーと息を吹き返すような吐息が聞こえてきた。

 

『なんとか倒せました! なにこれ強いです! 韻律使ってきましたよ! すめらの兵、全滅ですっ!』

「な……韻律って、導師さまが使う技じゃ……」 

『おそらく魔道帝国の騎士でしょう。奴らは黒の技を会得しておりますからね。うちの騎士さまががっつり盾になってくださって、助かりました。実によい盾をお持ちです。それでは私たち、館の中へ侵入いたします!』

 

 すめらの大使館が組織した救出部隊が、ひとりもいなくなった?

 おびえるクナの様子をみてとったアカシが、祝詞を唱える速度をぐっと速めた。集中力を増すためだ。 

 手練れの者どもがいるところで、月の巫女は果たして無事なのだろうか。

 どうかどうかと願いながら、クナは必死に歌い、そして舞った。黒の塔ではじめて戦に参加したときのように、巫女たちの歌声を増幅させようと、くるくる回転し始めた。

 

『また魔道騎士が出てきました! なんとか撃退! いい追い風が来ておりますね。私たち、わずかにすばやくなっております。回避が楽です!』


 どうやら巫女たちの力は、かすかながらも届いているようだ。

 剣の声に勇気付けられ、クナはますます力強く舞った。 

 剣が叫ぶ。ひゅうと安堵の息をつく。それを数回繰り返したのち、剣はついに、けたたましい悲鳴をあげた。


『ちょ……! 吹き飛ばされました私ー! ああああ、サンテクフィオン! しっかりー! ひいい! 騎士さまも壁に叩き付けられましたー! ピンチです! ああでも、部屋の奥に娘さんを発見! 生きておられます! あのその、かなりその、あれですが、生きてらっしゃいます!』


 かなり何だというのか、怪我でもしているのか。

 震えつつもクナは、援護の風を窓の外へ送り続けた。クナを襲ったときよりも、敵はずいぶん強くなっている印象だ。トリオンが全員撃退したのを受けて、人員の強化を図ったのかもしれない。


『ふう、私かろうじて、サンテクフィオンに拾われました! あぶないあぶない。さあ、反撃開始です! って……うがあ?! なんという韻律の壁……結界が分厚すぎて進めません! あああ、娘さんが……ああああ、ああああ……なんて破廉恥なことを! 一体何人で襲うんですかっ。やめなさい! 服をひん剥くとか、そんなひどいことは……!』


 剣がおろおろうろたえている。月の娘は恐ろしい目に遭ってしまっているらしい。

 しかし剣の実況は突然、大音量の驚きと慄きに一変した。

  

『な! な!? 我が主! 部屋の壁が……外から、ぶち抜かれました!! すさまじい波動が……ああああ?! あれは……ちょ、まさかそんな。お、王子! です! 王子が来ましたあ!』


 なんと、外から誰かが来たらしい。すめらの兵の増援かと思いきや。


『あ、王子じゃないです! 赤毛です!』 

「えっ?!」

『大丈夫かスミコちゃんと、赤毛の子が血相変えて怒鳴りながら突入してきました! ちょ……つ、強いです! なんですかこの魔道力! 一瞬にして、娘さんに群がるものどもが、けけけ、消し炭に……赤毛の子が、娘さんを確保しました!』

「あかげ……?」 

『はい! 赤毛の子、娘さんをまじまじと確認! この子スミコちゃんじゃないとか言って、ホッとしております。私知ってますよ、この赤毛。こやつはあれです。どこかの国のえらいやつです。ほらあれです、この前、戦はよしましょうとか、大陸全国放送かました人!』

「それは――!」

『なぜか一般市民風の貧相な格好をしておりますが、間違いございません。こやつは魔道帝国の神帝! くれないの髪燃ゆる君ですー!』


 回転していたクナの手足が、びたりと止まった。驚きのあまり、体がこわばる。

 まさかこんな北の州に、その人がいるなんて。たくさんの人を従えて、大きな宮殿にいるはずの人が、なぜ? 

 頭に響くこの声は、もしかして夢まぼろしのこと? 本当のことではないのではないか?

 信じられないとつぶやくも。がんがん叫ぶ剣の実況は止まらなかった。


『赤毛の子、娘さんをお姫様抱っこして、館を脱出しました。わ、私たち、その後ろからこそこそ、ついて行っております。ああああ、なんとも立派な白馬が、入り口で待っております。なんと見事な毛並み。赤毛の子、娘さんと一緒に白馬に乗りました! 行き先は……』 


 呆然と剣の報告を語るクナの周りで、太陽の巫女たちが祝詞の詠唱を止めてどよめいた。


「まあなんと?! すめらの大使館へ向かっているのですか?」

「ということは、こたびのことはこの地の親・魔道帝国派が勝手にしでかしたこと、という認識でよろしいのでしょうか」

「すめらの星を傷つけることは、レヴテル二帝の思し召しではないということですわよね。だってスミコは、あの帝にぞっこん想われてるんですもの」

「リアンさま、それは違――」 

「あらスミコ、そんなにあわあわしなくてもよろしくてよ。たしかに今までの報道は、とても大げさでしたけど。帝ご自身が助けにくるなんて、これはもう、確たる愛情があるという、決定的な証拠ですわ」

 

 なんにせよ、ホン姫は救われたのだ。命を奪われずにすんだのは僥倖というべきだろう。

 剣は律儀に実況を続けた。

 白馬が大使館に到着したこと。

 建物の中から、兵士たちと舞踊団の団長とメノウが飛び出してきたこと。

 娘を引き渡した赤毛の子が、しきりに、「ジェニのバカ、許さない」と、不機嫌そうに何度もつぶやいていること。

 そして――

 

『メノウ女史がホン姫を抱きしめて、しきりに頭を撫でております。号泣しております』


 メノウが本当に、月の巫女の生還を喜んでいることを。

 団長とメノウは捜索隊の連絡を受け、大使館に駆けつけていたらしい。きっと彼女もクナたちと同じく祈りながら、捜索隊の帰還を待っていたのだろう。


 赤毛の子はあくまでも一般民を装っているようで、自身が何者か名乗り出ることはしなかった。とある商会に属する商人だと名乗り、さっと辞しようとするも、この地に配されているすめらの大使が出てきて、しばしの滞在を求めたらしい。

 そうして赤毛の子は大使と共に堂々と、大使館の中へ入っていったと報告すると。剣ははつらつとした明るい声で、今回の実況物語をこう締めたのだった。


『ああなんと、美しい光景でありましょうか。

 ホン姫が、メノウ女史にすがりついて泣いております。

 お母さまと呼んで、さめざめと。

 いやあよかったですねえ、無事救出されまして。

 これにて、めでたしめでたしでございますよ!』



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