8話 黒の軍師
蒼穹にうかぶ雲にさっと黒い影がかかる。
鉄筒の弾丸のような形をした飛空船めがけ、その影は急降下した。
カッと突然空中停止した姿は、まさしく竜そのもの。船体に塗られた太陽紋が、陽光を反射してきらきら光るのを、おそろしげな赤眼がしっかと捉える。ぎゅんと制動をかけ、竜は黒い翼をさらに広げた。はがねの関節がびきびきと鳴り、周囲に突風が渦巻く――。
「いかがでしょう、姫さま。我らの龍たちを参考に作られし、最新型の鉄の竜は」
輝く太陽紋のほど近く。飛空船の後部上甲板にて、すめらの金鳥将軍は誇らしげに、船窓いっぱいに映るはがねの竜を指し示した。
まるで孔雀の羽を広げるごとく巨大な翼を展開した竜は、ばふりとはばたき、飛空船の船首めがけて飛んでゆく。朱の縅し鎧に身を包む九十九の方は、鋭く検分するようなまなざしで、すめらの新兵器を眺めた。
「従来のものよりずいぶん大きいようやけど、機動性は鈍くあらしまへんか?」
「ご推察の通りでございます。速度は汎用型の七割強。しかし馬力は二倍。なにより動力に浮遊石を使っておりますれば、胆力が切れる心配がございません」
「天照らしさまの力を蓄える石を、嵌めてはらへんのか。充電いらずで動けるんは、えらくよろしいように見えます。次の国境攻めには、先鋒にあれを投入したく思います」
「やはり、そう思し召されますか」
大陸北西部に位置する、オニウェル公国。
鉄鉱山をいくつも有するその国こそは、すめらの遠征軍が狙う国である。
山波連なるその国土の北線は、キールスールという王国と国境を接しているのだが、この隣国はありがたいことに、親スメルニア。すめらとユーグ州の、たのもしい盟友だ。
すめらの遠征軍はユーグ州より進発し、この同盟国に入って一路南下。オニウェルとの国境線近くに、陣を張ろうとした。
しかし――
「なんとしろい煙やろうか……」
眼下の平地のそこかしこから、煙の柱があがっている。荼毘にふされているつわものたちのものだ。すめらの軍はこの平地に、国境をやぶる陣を置きたかったのだが……。
「森に潜む敵に強襲されて、会戦になるやなんて……」
「さっそく伏兵を使ってくるとは、敵をあなどっておりました」
飛空船十隻からなる司令部を上空にいただくすめら軍勢の内訳は、本国よりの十万、ユーグ州からの一万、キールスールからの一万からなり、合わせて十二万。ほぼすべての兵種がそろっているが、とくに重装備で細い銃筒を放つ歩兵が七万と、圧倒的に多い。
陣をはろうと平地に入った兵はほとんどがこの歩兵で、格好の標的にされてしまったのだ。
「『平和を愛する』? どこからどうみても、レヴテルニ帝は『戦を愛する』ですやろ」
平地を燃やされ蹂躙されるも、司令部は、今見た新兵器の使用を見送った。
普通の鉄の竜よりはるかに大きい黒竜は、馬力をかんがみれば龍とかわらぬ、決戦兵器のたぐい。龍と同じくたのみの切り札である。初戦で手の内をすべて見せるわけにはいかぬと、判断したのだ。
結果、すめらの軍は平地から撤退。現在、国境よりかなり遠いところに、陣を張っている。
「敵の騎兵、はがねの獅子……あれのおかげで我が軍の損失は、三千……あの敏捷性に、重い歩兵は太刀打ちできまへん。せやけど、あの大きな黒はがねの竜が露払いしてくれはるんやったら、兵の犠牲は少なくすみます。金鳥どの、あの竜の数は五十騎いはると聞いたのやけど」
「はい、軍部がここぞと量産いたしましたので」
「次は全騎出してくださいませ。それから、将軍どのらの龍も、ご出陣を。総力あげて、あの国境の城壁を崩します」
「なんと、総力ということは、全軍で?」
「こたびの我が軍の目的は、国取り。すめらは欲しい国の国境を、これ以上はない圧倒的な力で破り、相手を震え上がらせなあきまへん。相手に恐怖を与えるのです」
いきなり国境近くの村や町を占拠するのは、最悪の手だ。民の反感しか買わぬ侵略は、極力しないが吉である。
姫将軍は古式ゆかしい国攻めの手順を踏襲し、国境を守る石組みの城壁を破壊せよと、金鳥将軍に命じた。
守り手が作った分厚い壁を破壊する意味は大きい。
足元に火をつければ、守り手は精神的に大きな打撃を受ける。次は村か街が襲われるやもと、震え上がる。すなわち、はじめに完膚なきまでに圧倒し、強大な国力を示して見せれば、次の手への道が開けてくるのだ。
兵が怖気づいて退くかもしれぬし、交渉してくれと、政府から使者が送られてくるかもしれぬ。街が国から離反し、門と庁舎の鍵を献上してくることも、あるかもしれない。
「すめらの力を惜しみなく、すべて、投入してくださりませ。できるかぎり広範囲に、国境の壁を壊すのです」
「御意。仰せの通り、全力をかけましょうぞ」
金鳥将軍が、姫将軍の思し召しを全軍に伝えるべく上甲板からおりていくと。九十九の方はがしゃりと鎧の音を鳴らして、椅子に腰を落とした。重い朱色の手甲をつけた両手に目をおとすなり、その眉間にはたちまち、深い筋が刻まれた。
「く……なんや情けない。こないに震えるなんて」
これが初陣ではあるまいにと、口の端をほろかして笑おうとするがうまくいかない。
がくがく、体が痙攣している……。
「ああ、うちはこわがってるんやな」
九十九の方が今まで経験した戦は、黒の塔にて巫女団員として務めたもの。塔の結界を張るだけであったゆえ、戦場で肉がぶつかり合い、無残に斬られる様を、直接見ることはほとんどなかった。
しかし。
何百という本や巻物で知り、想像してきた戦と、先日目にした実際の光景は、あまりに違っていた。あまたの歩兵たちがばたばた斃れていくのを、その四肢が引き裂かれるのを、九十九の方は、飛空船の船窓から呆然と見つめた。
正直、あまりの凄惨さに身が凍った。
先ほど見た黒竜を出そう、被害を最小限に食い止めよう――
そう気づいたときにはすでに、時遅し。陣地にしようとしたところは、死体累々。とても正視できぬ、いたましいもので満ちてしまったのだ。
「戦力を出し惜しみしたなんて、完全に言いわけや……うちは戦の気に呑まれて、最善の命令をだせへんかった……」
「たしかに、さんざんな初陣でございましたなぁ」
こぷこぷ、器に何かが注がれる音がする。脇を見ると、湯気たつ風炉の前に座す通玄先生が、点てた茶をすうと差し出してきた。
「先生、うちは、これが初陣ではあらしまへん」
「いやいや、巫女ではなく、もののふとしての戦は、初めてでございましょう。しかして、予定より一里退いたところとはいえ、りっぱな陣を張れたではありませぬか。敵は平地を占拠できず、国境の城壁へ遁走しましたしの」
九十九の方につけられた教師のうち、戦場までついてきたのは通玄先生ただひとり。他の先生方は、九十九の方の思し召しに素直に従い、白鷹の城に残った。
「言うことを聞かなかった」のは、この茶の先生だけだ。
思えば、パーヴェル卿の反乱のときも、一緒に苦難をかいくぐってくださった。
なんともありがたいと思いながら、姫将軍は茶を受け取って口に含んだ。
じわりじわり。ぬくもりが喉をあたため、ふるえる体をほぐしていく……。
「なれど先生、三千は、失いすぎです。すめらの歩兵はみな、生身の兵士。生命あるものでした。それをうちは、むざむざ……」
「姫さま。ただちにご夫君に、歩兵の補充を要請なさいませ。姫さまがいますぐやるべきことは、弔いの場に臨席することではございませぬ。兵力を整えることです」
「先生?」
「迷うてはなりませぬ。ひとりびとりの生命に思いをかけていては、決して大義はなしとげられませぬ。姫さま、将軍の鎧をまとう者は、人ではあらざる者にならねばなりませぬぞ」
「む……」
迷うな――その言葉は、別の人にもかけられた。
黒い髪の導師に、きっぱりと。
『世論に訴えるは、レヴテルニ帝の常套。あのまっしろで清廉に聞こえる言葉に、騙されてはなりません』
軍が集結する本営地へと赴くまぎわ。澄んだ水色の瞳を柔らかく細め、白鷹の後見人は、出陣を躊躇する姫将軍を諭してきた。
『何が善で何が悪か。正しき指標も定規も線引きも、この世にはありません。ただ心の底から信じ切っているものこそ、その者にとって絶対の正義なのです。あなたはあなたの信じるものを、心から望むことを、貫き通せばよいのです。勝負というものは、思いと覚悟がより強い方が、勝つのですから』
だから、迷ってはなりません――
「黒き衣のトリオン様。なんとも不思議な御方や」
九十九の方は、後見人の穏やかな声音を思い出した。その言葉をきいたとき、これこそ世の真理だと、なぜか思ってしまった。時間がたった今はまた、これでよかったのかとふつふつ、迷いが出ているけれど。あの声にはなにやら、ひそかに魔力がこめられていたのだろうか?
『ユーグ州は全面的に、同盟国スメルニアに協力いたします。第三妃さまからご要請あらば援軍を送ると、州公閣下も、臣下団もみな、全会一致で決議いたしました。ご遠慮なさらず、いつでもご伝信にて、援軍を乞うてください』
州公閣下の広い御心に、新妻は感謝のことばもない。
夫は鎧姿の妻をほれぼれと眺めこそすれ、眉をひそめはしなかった。しかし重々、無理をしてはならぬと釘を刺され、きらめく弾避けの守り玉を妻の手に握らせた。
『どうか毎日、わがもとに伝信を』
そんな閣下の思し召しを汲んだのだろう。黒き衣のトリオンもずいぶん気をつかってくれた。 宮殿にいたころ、後見人は毎日足しげく、第三妃の部屋にきた。
白鷹家のしきたりや、親族の情報。州公家の領地や財産に関すること。そして、州の兵力。大事なことを詳しく教えてくれた上、参考にせよと、大量の記録文書もどっさり持ってきてくれた。それに――
『ああ、お強いですね。西洋の将棋をなさるのは、本当に初めてですか?』
将棋は得意な方だが、西方風のものは、嫁いでから初めて遊んだ。筋が良いとベタ褒めされたけれど、あれはお世辞であろう。ただの一度も、勝てなかったから。
「人の嫌がるところを突き、じわじわ守りをはぐ……正直むかつくというか、やらしいというか。そんな打ち筋でしたわ。こんど会うたときにはぜひ、負かしたいものです」
「トリオンどのと手合わせされたは、よきご経験になったと思いますぞ」
茶の先生はほんわり優しい笑顔で、リンゴの砂糖漬けが載った小皿を差し出した。
「あの導師さまは、黒の軍師というふたつ名をお持ちであられる。今まで魔導帝国とまともにやりあい、滅びなんだは、あの御方が目をかけた北五州のみ。ほかの国はみなことごとく、魔導帝国の属州となりもうした。ラーも。メキドも。そして――」
先生はすうと、なにかをしのぶようなまなざしを、船窓のむこうに広がる蒼穹へ飛ばした。
ここにあらぬものをみつめるように。
「大いなるエティアも……今はもう、この大陸にはございませぬ」
拍手。拍手。歓声。
うわんうわん響く称賛の音に包まれながら、クナは今宵の公演を終えた。
心乱さぬよう一所懸命舞ったけれど、飛天が出たのはふたり舞が終わった直後の一度きり。
最後の大跳躍は、花音にすらならなかった。転ばなかったのが奇跡と思うぐらい芯がずれ、くりだせたのは、ぎりぎりのつむじ風。
「もうしわけありません!」
「……」
楽屋で指南役に失態を謝罪したクナは、叩きつけられるように返ってきた沈黙に縮み上がった。はりつき虫の記者が横槍を入れてくるので、メノウはもはや、クナにはほとんど声をかけてこない。なれどその厳しい、殺気にも似た気配が何をいいたいかは、よく分かる。きっと恐ろしい顔でクナを睨んでいることだろう。
「スミちゃん! 今夜こそはうちの船に乗ってくれよ。そんで、昨夜後見人さまと何を話してたのか、教えてくんないかなぁ?」
「すみません、ユーファンさん。あたし今日はもう休みます」
その晩、クナはユーファン氏とあまり言葉をかわさず、楽屋をあとにした。しつこいはりつき虫は、めずらしく追ってこなかった。いや、追ってこれなかったのだ。同業者たちに呼び止められ、がっつりつかまってしまったからである。
「うああ、スミちゃーん!」
「ユーファンさん、昨晩、スミコさんと船に乗ったというのは事実ですか?」「ぜひくわしく」
「いやオレを取材すんじゃなくて、スミちゃんを直撃――いやそれ、俺の独占じゃなくなるからだめか。仕方ねえなもうー。なになに? 船? ああそれはねえ……」
ひとり特別扱いといってもよいユーファン氏は、他の記者たちからつとに羨ましがられている。情報のおこぼれにあずかろうと、すり寄ってくる者は少なくない。
クナはほっとしながら泊まり部屋に駆け込んだ。
『君の環境の確認ができたし、こうしてまた会えた。だからもう、のぞき鏡は消すけれど。今すぐ、白鷹の城に連れ帰りたい気持ちだ――』
不調の原因は昨日、後見人に会ったせいだ。クナの頭の中には、舟の中で澄んだ声の主から言われたことがぐるぐる。一日中何度も何度も再生され、響き渡っていた。
『しかし君を奪えば、すめらは私やユーグ州を批難するだろう。だから北五州を公演している間は、我慢するよ。そう、この年が終わるまではね』
だが、年が明けたら。
『君に、結婚を申し込みたい』
どうしてそこまでとたじろぎながら聞けば。君は前の人生でわたしの伴侶だったのだから、今回もそうなるのが当然だと、白鷹の後見人はおっしゃる。
クナは舟上でそれは無理だと、言葉を尽くして説明した。
たしかにすめらは竜蝶にきびしい。クナも、何度もひどい思いをした。
けれどそれ以上に、優しくしてくれた人々がいる。
百臘さま。九十九さま。アカシやアヤメ。アオビたち。御三家の姫たち。あのタケリさまも、いつも助けてくれた。
そして。
『あたしはすでに、黒髪さまの妻です。この心も。か、体も』
たった一度だが、夫婦の契りは確かにかわした。
深く深く、クナは黒髪さまに貫かれたのだ。土台、口づけなど、何度交わしたか数え切れない。
けれど白鷹の後見人は、クナが処女ではないと知ってもまったくたじろがなかった。
『心変わりを期待したいが、どうしても嫌なら申し込みは遠慮しよう。でも、すめらから離れるのは、呑んでくれぬだろうか? 君の保護者――太陽の巫女王はよき人のようだが、人間だ。寿命の長い君よりはるかに早く、この世を去ってしまう。そうなったとき、君は次にいったいだれのものになる? 夫だという黒髪のトリは、君を所有する権利を持っていない。どのみちすめらにいては、君たちは幸せになれない……』
それはきっと大丈夫。天の浮島に住みたいと、黒髪さまは仰っていた。
あそこは黒髪さまの隠れ家だ。ひっそりふたりで幸せに暮らせる。
だから――
『あたしに助けはいりません。あたしはむしろ率先して、お国に協力しないといけないんです。だって遠征が成功した暁には、囚われてらっしゃる黒髪さまを、助けていただくことになってるんです』
『なるほど。でも遠征が失敗したら――』
『ぜったい、成功します!』
『たとえ成功しても、交渉がうまくいかねば――』
『そ、そこは、なんとかしていただきます! あたしもがんばりますし!』
クナはきっぱりそう言ったけれど。後見人はおそろしいことを口にした。
『はは。では遠征の結果が出たときに、またあらためて、君にお伺いを立てよう』
まるで、未来を知っているかのような口調で。
『きっと君は、白鷹の城に来てくれる。私は君を守るだろう。何十年も、何百年も、永遠に』
何百年も? まさか、長い竜蝶の寿命に耐えうるぐらい?
いぶかしむクナに、黒き衣のトリオンはそうだよと朗らかに答えた。
『なぜなら私は、竜蝶の魔人だからね。寿命というものがない。私は、竜蝶に生み出された、永遠の守護者なんだ』
クナは驚きながら即座に確かめた。トリオンを魔人にしたのは、だれなのか。
『もちろん、我が伴侶であったあの子に決まっている。白の癒やし手レクリアルだよ。つまり、前世の君だ』
かえってきたのは、予想通りの答え。レクリアルの伴侶を名乗るこの人が、それ以外の答えを出すはずもない。
しかしそうなると、レクリアルは――
(黒髪さまとトリオンさま。おふたりを、魔人にしたの?)
もしかして。同じ龍蝶に魔人にされた者は、互いにそっくりになったりするのだろうか?
わからない……クナの記憶の蓋は実に頑固だ。
縁ある相手は白い女神のことをよく知っているのに、クナ自身はさっぱり思い出せない。
だからいまだに、自分の前世が白い女神であったと、完全に自覚できないでいる。
『きっと君は、白鷹の城に来てくれる』
(いいえ。いいえ。行かないわ。遠征は成功するんだもの)
クナは一日中、後見人の言葉に動揺していた。
あれは相手の願望だと断じたかったけれど、なぜか不安がいや増すばかり。
嫌な予感がぞわぞわ昇ってきて、クナの背中を撫でていた。だから舞があんなに不調になったのだ。
湖上を走る風を浴びて、気を落ち着かせよう――
真夜中すぎ。悪寒がひどくて眠れぬクナは、隣の寝台で眠るリアン姫を起こさぬよう、しのび足。裏口から劇場の外に出た。小さな草地はずいぶん景色のよい場所らしく、太陽の巫女たちはしばしば、お菓子を携え、ここで休憩時間を過ごしている。
日当たり良好、吹いてくる風が心地よいので、みんなのお気に入りの場所だ。
(あ、冷たい)
夜の風はずいぶん冷えていた。そういえばもう、暦は十一の月に入っている。
(昼間とぜんぜんちがう)
飛天の練習をすれば、体があたたまるだろうか。
クナは舞の型を取った。深呼吸し、雑念を払い、回転をはじめようとした――そのとき。
「スミちゃん!」
背後からあの、はりつき虫のユーファン氏の声が聴こえた。
「スミちゃん危ない!!」
「え?」
刹那。頭におそろしい衝撃が落ちてきて。
「っ……!?」
クナはどうと、地に倒れた。わけがわからずびくつく体のまわりに、複数の人の気配が寄ってくる。
「う……あ?!」
「ち。なんだこいつ。斧でかち割ったはずなのに。すげえ石頭だな」
「加護かなんかがついているらしい。いいから縛りあげろ」
「スミちゃ……! 放せおまえら何者だっ! スミちゃんと仲いいオレに取材したい記者どもってのは、ガセかよ!!」
うわんうわん。ユーファン氏の声がクナの頭に降りかかる。
「場所を確認している最中に、標的にでくわすとは。至極幸運であったな」
「くっ……スミちゃんゆかりの場所を見せてくれって、オレに金積んで頼み込んできたのは……こういうわけだったのかっ! ちくしょう!」
「こいつも縛れ。魔女は気絶させろ。打撃の振動は通るはずだ」
「ひっ……!」
いまいちど。ひどい衝撃がクナの頭を襲ってきた。
とたん、まわりのすべての音が一瞬にして弾け、遠のいていった。
人間の気配と。叫びと。恐ろしい言葉が。
「悪しきスメルニアの魔女に、我が教団の鉄槌を……!」