8話 真紅の太刀
黒い龍が落ちていく。
嗤いながら、ゆるゆると。
渦巻く虹色の柱を砕きながら、落ちていく――
ひたすら剣舞を続けるクナは、メノウが背後で風を起こしているのを肌で感じた。
凛としたそれは、激しいつむじ風を成しているようだ。なれども、クナが起こす風にはまったく干渉してこない。神柱を守るために、分厚い結界を張ってくれているのだ。
さすが手練れの舞巫女だと、クナは舌を巻いた。
しかしメノウは、一体誰と戦っているのだろう?
風は来ないが、音はかすかに通ってくる。バチバチと、炎が弾けるような音が、結界を超えてくる。力と力が、激しくぶつかり合っているようだ。大丈夫だろうか……
『我が巫女! 振り向くな!』
不安に駆られるクナの胸元で、鏡姫が叫んだ。
『そなたの相手は大神獣。気を抜くな!』
『スミコちゃん、もう一度花音を! 僕の力を巻き上げて!』
手に持つ鍛冶師の剣が、ぎゅるぎゅる唸る。
そうだ、おのれは、タケリを倒すことに集中しなければ。
クナは、天を仰いだ。黒い雨粒に混じって、ざんざんばらばら、漆黒の石のようなものが落ちている。
タケリの鱗だ。
いまや黒き龍はふらふらと、崩れそうな体をなんとか浮かせて、虹色の柱の周りを回っている。
もう少しだ。あと一撃か二撃、刺すことができれば、きっと……
―—「はは! 何人たりとも、この剣には勝てません!」
剣を構えたクナは、びくりと固まった。メノウと戦っている者の声が、背中を刺してきたからだ。それは大きく、はっきりと響いてきた。メノウの結界が、急激に弱まったのだろう。
「両手無しでは、もはや舞えないでしょう? さあ、そこをどきなさい」
「両……?! メノウさま?!」
ばちばちごうごう。ひときわ激しい燃焼音と共に、背後の結界が揺れている。
結界の厚さは、もはや紙一重。今にも割れてしまいそうだ。
なれども、メノウの声は聞こえてこない。ただ、弱々しい風が、結界の向こうで渦巻いている。
『だめじゃ我が巫女! 振り向くな!』
『スミコちゃん! まずはタケリに、とどめを!』
剣と鏡が、動揺するクナを制した。
クナは唇を噛み、ぐっとこらえて、剣を天にかざした。
閃光が立ち昇る。目を焼く、虹の渦巻き。
剣が放った渦がタケリを捉えた。凄まじい咆哮が降ってくる——
舞台となった御座の上で、クナの体は渦風に巻き上げられた。高く高く、光と一緒に飛んでいく勢いで舞い上がっていく。
見上げれば、黒い龍が落ちてきていた。ひどくゆっくりと、そしてだらりと、長いしっぽを垂らしている。長い腹に大穴が空いているが……
『クハ! クハハハハ! 見事……!』
タケリは笑っていた。力ない声で、だが、実に楽しそうに。
ばらばらと、黒い鱗がさらに、雨あられと降ってきた。
タケリの黒い体から、フッと雷が消えた。暗雲が、みるみる退いていく。
消えそうだった青空が、広がる。一気に、広がる。広がる。広がる……
「やったわ……!」
黒い巨躯は、墳墓の山の向こうに、ゆるゆると落ちていった。その姿が見えなくなったとたん、大地が揺れた。裂け目ができるのではと思うぐらい、強く、激しく。
タケリの体が、地に着いたのだろう。御座に降り立ったクナは、あまりの振動に均衡を崩して、膝を折った。
「く……あ……」
そのとき。メノウのうめき声が、クナの耳に飛び込んできた。
「メノウさま!!」
タケリはまだ、死んではいない。でもたぶん、しばらくは動けない。だから――
メノウに加勢しようとしたクナは、振り向いたとたん、青ざめた。
御座のはるか後方。石畳の参道でうずくまっているメノウの足元に、真紅の溜まりがある。燃えるような色のその中に、千早の袖が一対、転がっている……
「メノウさま、腕が……! いやあああっ!」
メノウの眼前に、何者かが仁王立ちになっている。
風に裂かれたのだろう、藍色の髪もまとっている白い着物もずたずた。背は高く身は細いが、男なのか女なのか、髪に隠れて面立ちが見えない。左腕は風に斬られて無くなっており、鮮血がしたたり落ちている。右腕はひどく焼けただれているが、まだ動くようだ。黒い炎を放つ大剣を、しっかと抱えている。
剣には、くっきりと、獅子の紋章が刻まれている。それを捉えた鍛冶師の剣が、声をあげた。
『金獅子州公家の秘剣、ゲヘナの鏡じゃないか! やばいよあれは。大昔に僕が作ったやつだけど、最凶最悪の剣だよ!』
「ルデルフェリオさんが作った剣?! と、とにかくもう一度、剣の一撃を! あの刺客に!」
『だめだスミコちゃん。力が尽きちゃった』
剣は、柄に嵌まっている赤い宝石を、弱々しく点滅させた。
『神殺しの技を連発しすぎた。高御座に集められた力は、もうほとんど残ってない。僕らもひどく消耗している』
「そんな! もう一度なんとか……!」
『ごめん、遠隔攻撃は、当分無理だ』
「それなら、近接で……!」
クナは、壁がすっかりなくなった高御座から飛び降りた。
だがその瞬間、恐ろしい重圧が全身を襲ってきた。手足はまるで、鉛のよう。拝所に降りた時よりも、はるかに体が重い。
「っ……息、が……!」
クナはどっと、地に倒れた。一瞬で肺が押しつぶされて、呼吸がままならない。
がむしゃらに手を前に出し、硬い鉄壁のような空気をかきわけ、メノウのもとへ進もうとするも、体は少しも、前へ動かなかった。やっと少し動いた手から、剣が離れて転がっていく。
『剣よ、しっかりせい! 飛べ!』
クナの胸元で鏡姫が叱咤したが、剣は弱々しく点滅するばかり。無理だごめんと、囁き声が返ってきた。
仁王立ちの刺客が、片手を差し上げている。その掌の先に、黒く燃える剣がすうっと浮かんだ。
黒い剣が、うずくまるメノウの頭上を狙っているので、クナは声にならぬ声で叫んだ。
「……! ……!!」
その必死の念が、届いた。藍色の髪を振り乱す刺客が、ゆっくりと顔をあげてこちらを見る。
その顔がなんとメノウそのものであったので、クナは目を大きく見張ってたじろいだ。
「この剣にはもっと、生贄が必要かと思っていましたが。力尽きた獲物を狩るには、今のままでも十分すぎるようですね」
刺客がニタアと、口角を引き上げる。黒く燃える剣が、焼けただれた右手に収まる。〈彼女〉はメノウの脇をすり抜け、ゆるりゆるりと、クナに近づいてきた。
『大神官ども!』
身を起こそうともがくクナの胸元で、鏡姫が怒鳴った。
『何をしている! 新帝陛下を護りやれ!!』
まばゆい光が、鏡から迸った。けん制するようにびかびかと、強く激しく。
まるで、日輪のように。
きらめく点滅が目を焼いたので、月のリンシンはそろそろと、崩れかけた拝所から我が身を出した。雨は止んだが、まだばらばらと、黒い鱗が降っている。タケリの着地で揺れた大地は、境内にたくさん、地割れを作った。亀裂ばかりのところを進むのは恐ろしいが、鏡の叫びが、月の男を奮い立たせた。
「まずい! 高御座の後ろで、何か大変なことが! 行くぞ、チャオヨン!」
「先輩、星の大神官が気絶してますよ?」
「起こせ! そして、神器を忘れるな!」
リンシンは月の帝都神殿に伝わる神器、美須麻流之珠が収められた箱をしっかと抱えて走った。
壁のない高御座の向こうで、鏡が激しく明滅している。
その光に浮かび上がるものを見て、彼はウっとたじろいだ。
「なんと、刺客か!」
黒く燃える剣が、しろがねの髪波打つ新帝の眼前にある。どうか間に合えと、リンシンは右手を突き出し、祝詞を唱えた。
たちまち神霊の気配が降りてきて、刺客の持つ剣から噴き出す黒い炎をごうと煽る。
しかし結界の息吹だけでは到底、退けられるものではない。そう瞬時に悟ったリンシンは、神器の箱を迷わず開けた。
「大いなるしろがねの月女様の名において! いまここに、鉄壁の加護の珠を開帳す!」
錦帯が結ばれた箱を解き開けたとたん、まばゆい光がカッと箱から飛び出した。
新帝のもとへ駆けるリンシンは、その光を黒い炎噴き出す剣に向かってかざした。
剣をもっている女らしき者が、うっと怯む。光に熱はないのに、なぜか苦し気に顔を覆い、一歩に歩と後ずさる。
そのとき、太陽の大神官チャオヨンが、リンシンのもとに駆けつけてきた。右手と左手にそれぞれ、神器の箱を抱えている。
「先輩、やっぱり星の大神官殿はだめです。すっかり参っているので、剣の神器を借りてきました」
「分かったチャオヨン、剣の封を解いて、陛下に渡せ!」
ひょうひょうとした様子で、太陽の大神官はするすると、長い箱の錦帯を解いた。
「私、太陽の男なんですけどねえ。大いなる瞬き様の名において! いまここに、草薙ぐ御剣を開帳す!」
『は……だめだよそんな剣じゃ……都牟刈太刀は、ただの複製で――』
新帝のそばに転げている黄金龍の柄の剣が、弱々しく言い放つ。なれども太陽の大神官は、箱から真っ赤に艶光りしている太刀を取り出した。
「わあ! これはなんと。ただの剣? そんなことはない。すごいですよ!」
『な……嘘、だ……!』
鍛冶師の剣がうろたえる。さもあらん、箱から出された太刀は神々しい赤光を放ち、たちまちぽつぽつと、あたりに人魂のような赤い炎を発生させたからだ。霊力にあふれていることこの上なく、太刀を持った太陽の大神官はにっこりと会心の笑みを浮かべた。
「すごい。いやあすごい。ちょっと、使ってみていいですか?」
「やめろチャオヨン! それは陛下のものだっ。陛下に渡せ!」
「先輩だって、勝手に珠を使っているではないですか。そら!」
太陽の男が剣を振り薙いだとたん、紅の炎が剣から噴き出して、黒い炎を一瞬にして消し飛ばした。刺客の手から、黒い剣が離れ、激しく回転しながら石畳に落ちる。
「すばらしい! そら! そら! そら!」
「こら調子に乗るな! チャオヨン!」
「ひ! が! ぐっ……!」
紅の炎が、刺客の体を次々と穿つ。太陽の大神官は情け容赦なく、メノウの顔をした刺客を撃ち倒した。
「ほら、私にも十分使えますから。ええ、もういっそ、帝なんてものは、いらないんじゃないんですかね」
「チャオヨン?! おまえ一体なにを――」
「タケリを倒せば、大安にいる帝は無力も同然。先輩、帝なんて、永らくお飾りだったではないですか。そろそろ、その飾りを取ってしまうべきですよ。すめらには、三種の神器と、それを奉じる三色の神殿だけあればよいのです」
どうっと、メノウの顔をした刺客が地に倒れ伏す。と同時に、太陽の大神官は、すぐそばにいるしろがねの髪の新帝に、くれないの剣の切っ先を向けた。
「ええ、帝なんてものは要りません。すめらには、剣と鏡と珠を持つ三将がいればよろしい。すなわち、」
あろうことか。にっこりと清かな笑みを浮かべるチャオヨンの声が、みるみる別の男の声に変っていった。
『剣将たるこの私が、大安の悪鬼を退治してしんぜよう!』
『スミコちゃん! かわしてっ――』
鍛冶師の剣が、かすれた声で叫んだ。
リンシンはあっけにとられて、珠が入っている箱を取り落とした。太陽の大神官はいまや、くれないの太刀を新帝の頭上に振り上げている。
必死に退こうとする新帝の胸元で。そして、少し離れたところで。新帝の鏡と剣がわめいた。
『何をするのじゃ、このたわけ!!』
『大神官に、何か乗り移った……! たぶん剣から! スミコちゃ……!』
赤い炎が燃え上がる。太刀がごうっと炎を放つ。
新帝が焼かれる――
リンシンはとっさに、護りの珠を箱からつかみとって、その光を新帝に当てた。炎がかろうじて、帝の鼻先で弾けて消えていく。
『邪魔をするな、珠将たる男よ。この剣将とともに、我らがすめらを統べるのだ。大いなる時代、王朝開闢の時のようにな』
「あっ、あなたは一体、誰なのですかっ?!」
もはや太陽の大神官に、何かが乗り移ったのは間違いがなかった。本人の声とは全く違う。そしてぎらぎらと、目はなんと緑に光っている。神霊玉が染める、あの赤色ではない。
『我こそは、剣将ハバギリ。都牟刈太刀に宿りし、すめらの高祖。すめらを統べる、三将の一角……』
「待て! これは、どういうことか!」
大神官が、炎立つ剣を再び振りあげたとき。がしゃりがしゃりと、鎧の音を立てながら、剣をもつ男が乱入してきた。我こそは金獅子州公家の公子だとその者は名乗り、刺客が落とした黒い剣を拾い上げる。
「なんと、もはや、我が家の不埒者は倒されたのか? すまぬ皆の者、こたびは我が家が大変、迷惑をかけ――」
『黙るがよい。西の者よ』
「ふご?!」
赤い炎が、走り寄ってきた鎧の男を吹き飛ばした。容赦なく、ごうっとひと薙ぎで。
鎧の男はごろごろと石畳を転がり、そしてほどなく、動かなくなった。
気を失ったのか、死んだのか、リンシンには分からなかった。しかし炎に焼かれたからには、決して無事では済んでいないだろう。
「いけない……これでは、いけない!」
リンシンは新帝と剣を持つ大神官の間に割って入った。どけよと、緑の瞳をぎらつかせる大神官が、にやりとほほ笑む。
「だめだチャオヨン! 入ってきたものを追い出せ! 正気に戻れ!」
『この体の持ち主は、我を歓迎しているぞ』
「しているものか! 私は新帝を守る! それが、月の者の総意だ!」
血だまりの中に居るメノウを視界に入れたリンシンは、叫んだ。祝詞を唱え、神器の珠を掲げる。
やわらな光が、剣から噴き出す赤い炎をばちばち弾いた。
『我に与した方がよいぞ。我は無敵。そなたらの敵など、かわいいものぞ。そら……』
ずんずんと、地が揺れる。
太刀から放たれる波動ではない。墳墓の向こうから、恐ろしい勢いで何かが近づいてくる、その振動だった。
ばくりと、リンシンの眼前に地割れが起こった。地震は収まらない。どんどん激しく、凄まじくなっていく。
「陛下を、高御座へ……」
虫の息であろうメノウの囁きが、リンシンの耳に入った。月の男は歯を食いしばり、しろがねの新帝を背負って、後退した。
炎の太刀を持つ太陽の大神官は、ただただ、にっこりとしている。悪びれた様子はなく、その笑顔はさわやかな青年のもの。邪気などひとつもない気配だ。なれども、手に持つ太刀は、一直線に新帝を狙っている。
どうどうごうごう、地の揺れは耐えがたいほどになり、御座に到達したリンシンは、新帝を座にもどしたとたんに、倒れこんだ。
その刹那。
黒い波動が、拝所の向こうから来たりた。
それはあたかも、大波のごとくであった。丈の高い黒い影が一気にせり上がり、高御座のすぐ真ん前に、叩きつけるように落ちてきた。
「な……! これ、は!」
「あ……タケリ……さま……!」
ひどく咳き込みながら、新帝が声を絞り出す。
墳墓の向こうから、地を揺らして迫ってきたもの。それはまさしく、ミカヅチノタケリだった。
もはや飛ぶことができずに、地を這ってきたのである。
『ヤルナア! メシコォ!!』
黒き龍は大きな口を開けた。牙の並ぶその口は、体と同じく、漆黒の闇だった。
だめだ、呑まれてしまう。なにもかも。
リンシンは目をつぶった。新帝をかばって護りの珠を掲げたが、結界ごと呑み込まれてしまうだろうと、覚悟した。
ああ、終わる――
そう感じた時。タケリが、恐ろしい怒号をあげた。
『オノレエエエエエエエエエッ! ガハアアアアアアッ!』
「えっ……!?」
リンシンは、おそるおそる目を開けた。
背後で新帝が仰天している。紫の瞳を大きく見開いて、固まっている。
左右を見れば――
「な……これは!?」
闇が、まっぷたつに裂けていた。
タケリを斬っているのは、くれないの炎。高御座の後方にいる、太陽の大神官だった。
新帝を呑もうと突っ込んできた龍が、みるみる左右に裂かれて焼けていく。
真っ赤な炎が、焼き尽くしていく……。
新帝もリンシンも、ただただ呆然と、その炎を見つめた。
こともなげに闇を駆逐する、太刀の炎を。
―—「ああ、間に合わなかった……!!」
広がりゆく青空。果敢にその中へ突っ込んだ飛行船の中で、アカシはどっと膝を折った。
グリゴーリ卿に無理を言って、船を宮処へ戻してもらった。傷が開くと心配されたのをおして、なんとか、しろがねの新帝のもとへと、行きたかったのに。ミン姫から託された、真の神託を伝えたかったのに……。
船窓ごしに、大墳墓が見える。
ミカヅチノタケリが横断して、恐ろしい足跡――なんとも太い亀裂ができている、その大山のふもと。墳墓の入り口にあたるところで、あろうことか、真紅の柱が立ち昇っている。
黒いタケリは、まっぷたつ。長い体がなんとすべて裂かれて、じりじりと、無残に燃えている。
船は、はるか上空にあるというのに、アカシにはくっきりと、炎の柱がどこから出ているのかが見えた。高御座のすぐ近くで、まっかな太刀が輝いている……
「なんということ……あれこそは……。ああ……神器を、開帳してはいけないと……太刀を、陛下に近づけてはいけないと……伝えなければ、ならなかったのに……!」
『どうか、しろがねの陛下に、この言葉を。
神器の太刀を、使ってはなりません
まっかな太刀は、すめらの大地を、燃やし尽くします。
タケリも、大安の帝も、その太刀を使えば、簡単に滅ぶでしょう。
なれども。
太刀を使えば、私たちも滅びます。
すめらはすべて、燃やし尽くされます。
燃える太刀が、恐ろしいものを、召喚してしまうでしょう……』
苦しげな息を吐きながら、ミン姫は言った。
そのような未来が、見えたと。
すめら百州が、すべて燃えてしまう幻を見たと。
「お許しください……どうかお許しください……! ああ、どうか! せめて、護らなければ。陛下のお命を。護らなければ……! 」
アカシは、透明な窓に両手をつけた。無念の涙が、彼女の頬をしとどに濡らした。
恐怖と悲しみに潰されていく彼女を、青空を照らす日輪が、煌々と照らし出した。
容赦なく。とても、無慈悲に。