1-8
ジャミルが宣言と同時に先程の攻防よりも遥かに速い速度で流れるような斬撃を繰り出す。
「くっ……」
速い。捌ききれない、仕方がないが下がるしかない。だが古来より戦いにおいて下がるということは不利である。精神的なプレッシャーもさることながら、前に踏み込む方が後ずさりするよりも遥かに動きやすく、攻めの姿勢を維持することができる。一度戦いの主導権を握られれば攻め手と受け手をひっくり返すのは容易いことではない。
防戦一方では勝利は有り得ない、意を決するとジャミルが剣を振り上げた瞬間に盾をかざしタックルを仕掛ける。
「ぐっ!」
不意打ち気味に繰り出した体当たりは体格に劣るジャミルを弾き飛ばしたが、ジャミルは何とか踏みとどまった。
「だああああ!」
体系を崩したジャミルに剣を振るう。千載一隅のチャンス、だが。
「……しゃっ!」
振り下ろされるその剣に自らの剣を沿わせて剣の軌道を変え、巻き込む様に弾き飛ばし、そのまま自らの剣をグレイの喉元に突きつけた。
時が止まったかのような静寂。
「俺の、負けだな」
喉元には剣、これは負けを認めるしかないだろう。
「……いや、どうかな」
ジャミルの眼前には盾が突きつけられていた。
剣の軌道が変えられた時点でグレイは剣による攻撃を即座に放棄し左手の盾でジャミルの眼に目掛けて突きを繰り出していたのであった。
「喉を突かれたら死んでいるさ」
「……眼を潰されたならば武人として死んだも同然だ」
眼と命、簡単には比べられないが……どちらが勝ちとなると。
「命の有る無しは同じには扱えんよ」
「……わかった、今回は勝ちを受け取っておこう」
ジャミルは剣を、こちらは盾を引いてその場にしゃがみこんだ。
「次は負けんさ」
二度と同じ手は食らってなるものか。
「ふっ……ならば次は長物で勝負するか?」
「おいおい、俺は長物のほうが得意だが?」
「……奇遇だな、俺もだ」
「ははっ」「ふっ」
互いに顔を見合うと笑い出した。
視線を横にずらせば時同じくしてラインとサッカも息を切らせながら共に倒れこんでいた。
「この……すばしっこい奴……め……!」
「この……体力バカが……あんなもんずっと振り回すなんてよ……」
結局ハンマーを振り回し続けたサッカもそれをかわし続けたラインにも遂には体力の限界が訪れ、互いに戦闘続行が不可能になってしまったのであった。