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王道を書こうとしても何かしっくりときません・・・
リメリア護国学校には各地から集う生徒の為に寮が並立して建っており、部屋代および食事は無料、さらにはあまり広くないとはいえ完全個室制であるため実家から通うことの出来る学生も敢えて寮に入る者が多く、かなり大規模な共同生活が成り立っている。
四限目の授業が終わり―――授業は90分間、一日に四限まである―――魔法学部の生徒たちは開放された。
そのまま寮に帰る生徒、グラウンドで球技を楽しむ生徒、街へ繰り出す生徒、様々な生徒たちがいたが、グレイとサッカは教練場へと足を進めていた。
騎士学部と一般兵科学部にとって最も重要な資本は己の肉体である。悪魔との戦いにおいても前衛として立つこれら二つの学部は消耗率が桁違いに高い。その為に放課後でも体を鍛える生徒も多く深夜まで訓練をするための施設である教練場は開放されている。
魔法学部でこの施設を使うものは少ない。しかしグレイは純粋に体を鍛えるため、サッカは「健全なる魂は健全なる肉体に宿るのだ!」というよく分からない理由で定期的に放課後のトレーニングを行っていた。さらにフレイも不定期ではあるがよく教練場に来る。ただし単に体を動かすのが好き、という理由らしいが。
サッカと共に教練場に入りローブを脱いで運動着に着替えていると背は低目だががっしりとした体格の男に声をかけられた。
「よっお二人さん!今日も精が出るな!」
「ラインか、お前もな」「おう!今日も元気だ!メシが美味い!」
「しかし今日は人数が少ないな」
周囲を見回すが普段の半分ほどの人しかいない。
「ああ、今日一般兵科学部は三限に全学年合同での長距離走があったからな」
苦笑するラインだが彼自身は疲労を感じさせない、大したものだ。
「けしからん!その程度でへこたれるとは!」
サッカが吠えるが確かに長距離走後の運動は休みたくもなるだろう。
「ライン、お前はよく来る気になったな」
「日課、てやつさ。人間一度染み付いた習慣は良いもんでも悪いもんでもなかなか変えられんさ。まあそんなことはいいじゃねえか、広いほうが気兼ねなく体を動かせる。」
「確かにな。じゃあさっさと始めるとするか」
手早く着替えると3人で基礎トレーニングを始める。腕立て、腹筋、背筋、スクワットを30回×5セット。さらにダンベル、バーベル等の機器を用いた運動、そして走り込みを合計一時間かけて行った。
「うむ!体がほぐれてきた!次は実戦訓練だ!」
「しかし奇数だからな……あと一人欲しいが」
周囲を見回していたラインが隅の方で剣の素振りをしている中背で細身の男を見つけると声をかけた。
「おーい!ジャミル!ちょっと来てくれ!」
「知り合いか?」
「ああ、最近知り合った。騎士学部で無口だがいい奴だぜ。この前2学部合同の授業の模擬戦でやり合ったんだが……なかなか上手い」
ラインもなかなかの使い手であり相手の技量が高いことが伺える。
「ふはは!ならばお前の好敵手か!好敵手、よい響きだ!」
ジャミルと呼ばれた男が小走りで駆けてきた。
「……何用だ、ライン?」
「ああ、ちょいと実戦訓練の相手が欲しくてな。グレイ、サッカ、こいつがジャミルだ。」
「……騎士学部3年、ジャミルだ。よろしく頼む」
「うむ!我はサッカでコイツがグレイ!どちらも魔法学部3年、よろしく頼むぞ!」
サッカの言葉にジャミルは訝しげに聞いてくる。
「……魔法学部だと?本当か?」
「魔法学部が体を鍛えない道理はないさ」
魔術師のイメージというものはどうにも陰気なものらしい。全く人はそれぞれだというのに。
「……確かにその通りだ、疑って悪かった。」
あやまるジャミルの肩をラインが笑いながら叩く。
「仕方ないさ。こいつらを見て魔法学部だと思う奴の方がおかしいぜ!」
全くだ、と四人は笑った。