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「ぬおおおおお!『ファイアストーム』!」

「えいっ!」

「『ライトニング』」

「いけえ!『サンダーボウ』!」

 突如として飛来した魔法と矢により一瞬ナイトメアの動きが止まる

「……人を勝手に眠らせておいてその様は何だ?」

 ジャミルがグレイの襟首を持って無理やり立ち上がらせる。

「!?何故……ここに?」

 全員すでに逃げた筈だ、何故わざわざ死地に戻ってきたのか!?

「ふははははは!まあお前風に言うなら後味悪いというものだな」

「前も言ったとおり、これは私の我が侭なんですよ!」

「ボクは、グレイの仲間」

「うにゃ~、やっぱり見捨てられないよ!」

「……そういうことだ」

 予想を遥かに超えた出来事にグレイは唖然とする。

「……サッカ、アリエッタ、リリア、フレイ、ジャミル。全員、全員馬鹿じゃないか!」

 心の底から笑いがこみ上げてくる。見れば誰一人として笑っていない人間はいない。

「はっはっはっはっは!本当に愉快だ!来いよナイトメア、今からはお前の悪夢だ!」

 人間は心の生き物であるとグレイは思う。自らの好きな事をするとき人は信じられないほどの能力を発揮する。希望があれば嫌なことがあっても乗り越えることが出来る。

 ナイトメアの大槍が空気を切り裂いて迫る。だがグレイは回避をするそぶりも見せない。

 大地を叩く音が響き砂埃が舞い上がる。5人は息をのんで砂埃が晴れるのを待つ。

そして一陣の風と共に現れたのは漆黒の甲冑を着た男であった。

「はっはっは、驚いたかい?」

「ふはははは、かっこいいではないか!何だそれは?」

「ナイトメアと同じ素材の鎧さ!まあデザインには趣味が入っているがね」

先程はナイトメアの装甲の修復を阻害しようとした。今回は逆に修復魔法を模倣、改良し自分に施すことにより蟹のような強固な外骨格を得ることに成功したのであった。

予想外の事態にナイトメアは一歩、二歩と後退していく。

「はっはっは、逃がさんよ。皆!こいつをぶっ飛ばしたいと心から思ってくれ!」

何故、とかどうして、などとも聞かず全員目を閉じて集中してくれる……実に喜ばしいことだ!

人間には思いを実現する力がある。思いを実現すべく5人から糸が伸び紋様が作られていく、それは残念ながら魔法を起こせるほどの精度を持った回路では無い。しかしながらその願いは美しい紋様を描き魔力が流されていく。

グレイは自分から伸びる糸を5人の紋様へと繋げる。すると魔力の弱いグレイが今まで一度体験したことがないような魔力の奔流が全身を駆け巡り、計算され尽くした魔力回路を走りその思いを実現させる。 

高く右手に掲げたハルバードの先端に灼熱のエネルギーが集る。その色はもはや炎の赤などとは比べ物にならない太陽のような白色の光。

「ぬおおおおおおおおおおおおお!!!」

 強烈なGに悲鳴を上げる体を何とか抑えつつ高さ20mまで飛翔、昂ぶる心を表すのは言葉ではなく思考を介さない心からの絶叫。

「うおおおおおおおおおおおおお!!!」

 叫びと共に光り輝くハルバードをナイトメアの頭部に突き立てる。修復速度を超えた破壊によりナイトメアの頭部は眩い光を夜闇に撒き散らしつつ四散。その体も黒い靄を出しつつ萎み、元から何も無かったかのように消滅した。

 この光は首都を遍く照らし、太陽の槍を持ち悪魔を滅した漆黒の騎士の姿は絶望していた人々の心を光で照らしたといわれる。



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