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6-5

 学生達は大聖堂前の広場に布陣することとなった。4年は今首都にいないため3年が中央に陣取り左右を1、2年が固める。一般兵科学部が前列、魔法学部が後列、騎士学部は半分に分けられそれぞれの学部を敵の魔法から守る。

 学年主任は「我らが最後の砦となるのだ!」と激励していたが一年はともかく先日の哨戒任務で打撃を受けた学年の士気は高くは無い。

 前方で各種魔法の炸裂音と兵士達の怒号が響く。兵士達が路上に展開して何重もの防衛線を張っているのだ。本来なら展開し戦力を集中的に投入するべきであったが場が悪い。周囲を見回せば慌てふためいて逃げる一般市民で路上は混み合っている。

 建物が倒壊する音が徐々に近づいてくる。路上を見れば逃げ出したであろう兵士の姿もちらほらと見ることができた。轟音と共に建物が崩れ砂煙と共にナイトメアがその姿を現した。どうやら最終防衛ラインも突破されたようだ。

「撃てェ!」

 甲高い学年主任の声と共に矢と魔法が放たれ敵の姿が一瞬見えなくなる。しかし何も無かったかのように歩き続け報復ばかりに火球を何発も撃ちだしてくる。

「防げェ!」

 騎士学部の生徒が一斉に力を込め火球を消していくが錬度がまだ甘いのか逃した一発が頭上を越えて大聖堂に当たり屋根の一角を崩した。

生徒の一人が悲鳴を上げ闇雲に走り出したのを確認するとグレイは3人と目配せをしてリリアを背負うと前へと走り出す。各自知り合いに逃げるように声をかけるのが目的だ。先ほどの生徒に続いて持ち場を離れて逃げ始める生徒が次々と現れ混乱状態になり学年主任の戦えという指示はもはや誰にも聞こえていないだろう。

喚き逃げ惑う生徒がぶつかってきたが体重差で逆に跳ね飛ばし進んでいく。前に行くに従い生徒の数は少なくなり視界が良くなっていく。

「右前にトニーっていう人」

 耳元で話すリリアの声を受け急いで向かうとトニーが震えながら槍を持ってナイトメアのほうを向いて固まっている。

「おい!何をやっているんだ!早く逃げるんだ!」

「せ、先輩!?しかし自分は……」

「他の奴は逃げてるし正規軍だってもう撤退している!もう十分だ、だから早く行け!」

「は、はいっ!」

 本当は逃げたかったのであろうが強い義務感が邪魔したのだろう。トニーはグレイの言葉を受けるとほっとしたような顔になり他の人の後を追って走り出した。

「!?前の方にアリエッタとその兄!」

 殆どの人が逃げた中、盾を構え仁王立ちしているジャミルと必死で何かを叫んでいるアリエッタが姿が遠目に見えた。もう間近にナイトメアが迫ってきている。

「なにをやっているジャミル!」

「先輩!?いいところに!お兄様を説得してください!」

「……逃げる気は無い、コンポール家として、騎士としての責務を果たす。」

「それは立派なことさ、だがそれは犬死にしかならんぞ!」

「……分かっている、だがこれが俺の生き方なのだろう。妹を連れて早く逃げてくれ」

「お兄様!他の貴族の人も逃げています!だから」「!?前!」

 リリアの声で前を向くと目の前に火球が迫ってきている。

「破っ!」

 ジャミルの気合と共に火球は消えたかに見えたがその影に隠れるように放たれていたもう一発の火球が迫る。

「ちいっ!」

 とにかく糸を伸ばし最初に触れた回路に絡ませ無茶苦茶に弄ると火球は180度方向を変え飛んでいった。どうやら運よく方向制御の術式を乱したらしい。ふう、と安堵した次の瞬間そのまま火球はナイトメアへと衝突、炎上した。

「あれは!?」

 炎はすぐに消えどこにもダメージは見えない。しかし一瞬だけ当たった部分に糸が見えた気がする、どういうことだろうか。

 ナイトメアが初めて歩みを止めると顔をグレイに向ける。その顔には目が無かったが確かに視線が合った。

 恐ろしい程のプレッシャー、体は自然と震え失禁さえしてしまいそうになる。周りの誰かが声を掛けてきたようだが相手にしてなどいられない。息が苦しくなる、これが貴族級、戦うと思うことさえ愚かしく感じる。あの巨体の攻撃をまともに受ければ確実に一瞬で死んでしまうことは想像に難くない。

 どうにかして逃げたいが、普通の馬でさえ時速40kmは出る。それがあの巨体ならば本気を出せば直にでも追いつかれてしまうだろう。

 ならば……やるしかない。

 不思議とそう開き直ると恐怖は薄れ、目の前の敵に強い敵意を感じるようになった。

「どうやら逃げられそうに無いな」

 女二人には聞こえない程度の声で呟く。

「……すまない、俺が巻き込んだようなものだ」

「気にするな、そして狙われてるのは俺だけ、そして死ぬのもね」

「……うっ、グレイ、お前……」

 当身を使ってジャミルを昏倒させるとアリエッタに引き渡す。

「リリア、アリエッタ、二人共こいつを連れて先に行っててくれ」

「グ、グレイさん!?そんな、一緒に逃げましょう!」

「ダメ、一緒に行こう!」

 こちらの身を案じてくれているのはよく分かる、よく分かるが。

「何、俺も後から行くさ。だから頼む、後で何でも言うこと聞いてやるから早く行ってくれ」

「……ん、わかった」

「……わかりました。御武運を」


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