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6-2

 洗濯物を渡された二人は細い水路が多数作られている洗濯場へと到着、任務後とあってそれなりに利用者がいた。

無言でリリアが一番遠く物陰となっていいて殆ど利用者がいない水路へと向かい、アリエッタもそれを追いかける。

「あ、あのリリアさん?私何かしましたか?」

「何でグレイの服を洗おうとしたの?」

 アリエッタの問いに逆にリリアが質問を返す。

「そ、それはその……」

「ボクには言えないようなことなんだ」

 リリアのじとっとした目が敵意をもってアリエッタを貫く。

「い、言いますよ!言えばいいんですよね!」

 アリエッタは悪魔に襲われ粗相をしてしまったこと、グレイに洗うように言ったが拒否されたこと、ついはずみで他の洗濯物まで洗うと言ってしまったことを話した。

「むぅ、そういうこと」

 口調は冷たいが敵意は薄らいだことを感じアリエッタは安堵する。

「リリアさんはどうして洗濯するって言い出したんですか?」

 リリアは答えずにまだ洗っていない洗濯物の山に顔を埋める。

「な、何しているんですか!?」

 予想外の行動に声が上ずるが今度はくグレイった声が返ってきた。

「ふふ、グレイの臭い……落ち着く」

「そ、そうなんですか」

 ゆっくりと顔を上げるとそこには上気した顔のリリア。色気とは無縁に見えたその小さな身体の筈だが醸し出す雰囲気はアリエッタに息をのませるほどであった。

「はあ、はあ、ああグレイの……臭い……」

「それはダメエエエエ!」

 下着に顔を押し当てようとするリリアの腕と肩を掴み正気に戻そうと身体を揺らす。

「はっ!ボクは今何を」

「あ、危なかった。流石にそれはまずいと思いますよ」

「確かに、ここは屋外だしあのままだと危なかった……」

「屋内ならいいんですか!?」

 正気に戻ったリリアはアリエッタに小さく頭を下げる。

「今まで御免なさい。貴方がグレイを取っていっちゃうかと思って、そうしたらボク、胸がムカムカしてきて……」

「私は気にしてませんよリリアさん」

 誤解が解けてよかったと思い笑いかけるとリリアも笑みを返す。

「ん、ありがと。貴方はグレイのことを何とも思っていないのに勝手に決め付けちゃって……」

「……」

 何とも思っていない?命の恩人でもあるし強引とはいえ自分の本音を聞いてくれた。少し変態なところもあるけど優しくて、一緒にいても気を使わなくって……あれ、なんかリリアさんが怖い目でこちらを見てる。

「……水路で溺死体」

「ひ、ひいいいいい!何を言っているんですかあああ!?」

「冗談……「で、ですよね!」半分くらいは「いやああああ!」」

 アリエッタの反応にクスリと笑うリリア。

「負けないから」

「へ?」

「それだけ言っとく……洗濯しよう」

「え、は、はい!」


 さてと、107号室はここか。軽くノックをするとドアが開かれる。

「お待ちしておりましたグレイ様」

 そこに見えたのは深々と礼をしているのはジャミルでなくまだ若いメイドであった。

「ええと、ここがジャミルの部屋でいいよね?」

「はい。左様ですが、何か?」

「いや、少しカルチャーショックを感じただけだよ。ジャミルはどこに?」

「御自室兼書斎に居られます。ご案内します」

見回せば高級そうな絵画や工芸品、瑞々しい花々が飾られており敷地面積も一部屋のみの5畳程度の一般生徒の十倍以上はありそうだ。

「こちらです。ご主人様、グレイ様がいらっしゃいました」

「……ああ、通してくれ」

 ドアが開くとそこには書類と格闘するジャミルの姿があった。

「案内ご苦労様。やあ、寮に貴族用の部屋があることは知っていたが予想以上で驚いたよ」

「……俺の力じゃなく家の力だ。まあとりあえずその辺に掛けてくれ」

「では遠慮なく。」

 ジャミルもペンを置くと机を挟みグレイと向かい合うようにして座った。

「……さて、茶かコーヒーかどちらがいい?」

「では酒で」

「……ふ、わかった」

 ジャミルがベルを鳴らすと先程のメイドがドアから現れた。

「酒とグラスを頼む」

「かしこまりました」

 いったん部屋を出て行ったメイドだが直にボトルとグラスを持ってきてテーブルに置き一礼して退室した。

「さて何に乾杯するかな?」

「……そうだな、では任務の成功と無事の帰還に」

「「乾杯」」

 杯を一気に煽ると蒸留酒ならではの香りが鼻に抜ける。

「悪くない。ただ少し俺には甘すぎるがね」

「……そうか、次はもう少し辛口の物を用意しよう」

「ははっ頼むよ。では始めるか」

 中級竜魔との戦闘について詳しい状況を説明する、無論一部の事実を隠してだが。ジャミルは何も言わずに書類にペンを走らせていった。

「……大体の事は分かった。それからこちらで変な部分が無いよう修正しておいたぞ」

「お、気づかれたか」

「……まあな、説明された戦闘経過が綺麗過ぎる。それに昨日妹にも聞いた時支離滅裂な説明を受けた」

「約束は守ってくれたようだが……彼女らしい。帰ってきてもそう苛めてやるなよ」

「……いや、あいつ、妹とは一緒に住んではいない。一般兵科の寮で暮らしている」

「そう、か。まあその方がいいのかもしれん。だが今回は彼女も活躍したし少しは労ってやれよ」

「……ああ、そうしよう……今回の件についてお前が何を隠しているかは知らんが全員無事に戻れたのはお前の功績に拠るところが大きいだろう。」

「そう言ってくれると悪い気はしないが、だが」

「……よってお前の活躍は適度に削っておいた。俺としては不本意だが」

「ふう、助かるよ。俺は今の状態が気に入っているのでな」

「……そうか……ん?もうボトル一本空けてしまったか」

「早いものだな。まあ用件は終わったし、帰る時間が来たってことかもね」

「……そうだな」

「では行くよ。それじゃあね」「……グレイ!」

 席を立ち歩き出そうとするグレイの背中にジャミルが声をかける。

「……言うのが遅れたが、妹を助けてくれて感謝する」

 振り向く事無くひらひらと手を振ってグレイは部屋を出て行った。

 ジャミルはしばらく目を瞑っていたが目を開くと共に立ち上がった。

 さて、これから妹を探して夕飯でも一緒に食べるとするか、と思い背伸びをした。


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