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第六章 帰還 6-1

 学校の門をくぐるとこちらに気が付いた、まだ若い教師が走って近づいてくる。

「君達は何班ですか?それから全員無事です?」

 ずいぶんと落ち着かない様子の教師の前に代表としてジャミルが進み出る。

「……3班班長ジャミル=コンポートです。彼は4版班長セルゲイ=マティス。諸事情により共に行動することとなりました。負傷者と資材の一部損失が生じましたが両班共に幸いにして死者、重傷者はおりません」

「そうか……それはよかった……」

 安堵した様子の教師だが今までは任務の直後にこのように状況を聞かれることは無かった。

「……一体どうなされたのですか?」

 教師の表情が一変し暗い顔で話し始めた。

「ええ、今回の哨戒任務では各班に大規模な悪魔の襲撃による多くの死傷者が生じました。まだ無事が確認できていない班も多く予断を許さない状況となっています。このような甚大な被害は創設以来、前代未聞です。今まで受けた報告には中級悪魔と遭遇したという報告までありました。私共としても首都周辺で遭遇するとは、驚いています」

「……私達3班も街道にて中級人魔に遭遇、これを撃破しました。4班も中級竜魔と遭遇、救難信号に応じ救援に向かった3班班員と共にこれに当たり撃破に成功しました」

「なんと竜魔まで!?よく全員無事で……ともかく疲れたでしょう。詳しいことは班長が後で報告書を提出してください。また今回の非常事態が収束するまでは授業及び首都外における活動は休止となります……皆さん本当にお疲れ様でした」

「……先生もお疲れ様です。総員聞いたとおりだ。これで解散とする!」

「「「「はっ!」」」」


「やあジャミル、班長お疲れ様」

 グレイがジャミルの肩を叩く。

「……ああ、疲れた」

「おっ、珍しいな。お前が弱音を吐くなんてよ」

「ふはははは!だらしないぞジャミル!」

 ラインとサッカが茶化すがサダリアがそれをしたためる。

「二人ともいけませんよ、今回はとても大変でしたしジャミルさんはずっと指示を出していたんですから」

「疲れたねー」「私もー」

「自分も疲れました。明日は昼まで寝ていそうですね」

 ロッジ、マルカの兄妹とトニーもげんなりとしている。

「ぬう?モヤシキノコはどこへいったのだ?」

 サッカが周囲を見渡すがその姿は見えない。

「ん?奴なら早々に消えたぜ……イヤミも言わずに黙って去っていったぜ。あのモヤシも今回のことで少しは考えることがあったのかも知れんな。まあどうでもいいがな」

「しっかし先輩達と同じ班でよかったっスよ、3班なんて酷いもんでしたからね」

「ハ、ハシントさん後ろにセルゲイさんが……」

 4班はとっとと解散したものと油断して大声で笑いながら話すハシントの後ろには悲痛な顔をしたセルゲイが立っていた。

「ゲッ!?アリエッタ早く言えよ!」

「ええ?私のせいですか!?」

「いや、そう言われても仕方がない。自分のミスは全て報告書に書くつもりだ。フレイさんとリリアさんには謝っても許されないことをしてしまった」

「ん~、まあ無事だったし、しょうがないといえばしょうがなかったし……この話はもういいよ!!それよりも今はお風呂に入りたいにゃ~」

「ん、ボクも」「そうですねえ」「昨日は疲れて入れなったしねー」「ち、ちょっと臭うかも……臭い?あっ!」

 こぞってフレイに賛同する女性陣と疲れた顔の班員、皆早く休みたいのだろうが名残惜しくもあるのだろう。だがそろそろ潮時、ジャミルが大きな声を出して締めくくる。

「……それではそろそろ本当に解散することにしよう。二年生は初陣の割にはよく頑張ってくれたと思う。3年は前に立ちよく戦ってくれた。今後全員が同じ班になることはもう無いだろうが、今回はいい班員に恵まれたと思う……解散!」

「「「「「お疲れ様でしたっ!」」」」」

 ある者は一人で、ある者は複数で部屋への帰路に着いた。

「グ、グレイさんちょっといいですか?」

「お?ああ、かまわないよ。皆先に行っていてくれ」

「……わかった。ああ、報告書に書く竜魔について詳しく知りたい。後で部屋まで来てくれ、107号室だ」

「了解、ではまた後で!……それでどうしたんだい?」

足を止めてもじもじとしているアリエッタに向き合う。

「あの、その……もう任務も終わりましたし、ロ、ローブを洗ってもらえませんか!」

「ああ、これか。そんなに臭うかな……うむ、確かに臭いはあるが俺は気にならないな」

「きゃあああああああっ!そ、そんなの嗅がないでください!汚いですよ!」

 慌てるアリエッタの肩に手を置き諭す。

「汚い?いや、女子学生の体液がついた服を洗う必要なんかないさ!」

「た、体液って言わないで下さい!生々しくてなんか嫌です!それになんで爽やかに笑っているんですか!?」

「まあ洗濯とか面倒臭いしいいじゃないか、普段もなかなかやらないし」

「!?もう!男の人って……私が洗います!ついでに他の洗濯物も全部出してください!さあ部屋に行きますよ!」

「え~、今からかい?」

「今すぐです!」

 グレイの手を強引に引いて寮へと歩き出そうとするが

「……ずるい」

「ぬおっ!?」「ひゃあっ!」

 いつの間に忍び寄ったのか背後からすうっとリリアが現れ、驚いた二人は手を離して飛び退く。

「ああ~驚いた。先行ってたんじゃなかったのか」

 その問いを無視してじっとグレイの目を見つめるリリア。

「私も洗濯する」

「はい?それは有難いけど何故?他人の洗濯なんて面倒だろう」

「大丈夫、洗濯好きだから」

「だが……」

「好きだから」

 有無をも言わせる気がないようだ。

「わかったよ。しかし洗濯が好きとは変わってるな、悪いことではないがな」

「ん♪行こ」

やれやれとグレイが折れるとリリアは嬉しそうに先程までアリエッタと繋いでいた手を握って歩き出す。ちらりと振り返ったその顔には少しの敵意と勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

「え!?」

アリエッタも我を取り戻すと二人の後を追い走り出した。



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