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5-14


 さて、目の前の蜥蜴が火を吐いた。普通に考えれば火を吐く生物なんている筈が無い。何も無い所に火が付く筈が無い。おそらく魔法により火が生まれているに違いない。

 目を凝らせば竜の口からも糸が見える。糸が構築するその紋様は

「わお!綺麗じゃないか……」

 おもわず呟いてしまった程にそれは無駄無く組まれていた。一点から炎が拡散するように、幅広く周囲を焼き尽くせるよう組まれたそれは絵画魔法とは違いその現象を引き起こすためだけに意図をもって組まれたものとしか考えられない。

 とはいえこのままだと人間二人のローストの出来上がりだ、男と女だとどちらが美味いのかな?

 カードなど不要。呪文も必要ない。無意識でなく意識的に形を成す。意思は糸に伝わり瞬時に紋様組み装置と為す。

炎は紡錘型の不可視の障壁に阻まれ掻き分けられる。周囲を見渡せば炎しか見えない。

 しかし男と女のロースト、自分が食べるとしたら。むさくるしい友人を頭に思い浮かべる。次に左腕で抱いている少女を見る。

「ん?」

 少し腕に力をこめる。

「むぅ、ちょっと苦しい」

 小さくて柔らかい。頬も心なしか赤く熟れた果物のようだ……やっぱり食べるのならば男よりは

「……女だな」

「!?」

 顔を真っ赤にしてリリアが俯いているがどうしたのだろうか。さて、そろそろくだらない想像を止めて目の前の脅威に集中しなければならない。いくら魔法を効率的に使えるといっても元来少ない自分の魔力総量には余り余裕がない。

「グウウ!」

 いきなり横に薙がれた尾を飛んでかわす。

「!?」

 そこを見計らったかのようなタイミングで突進してくる竜、慌てようとする本能を諌め理性により粗雑で効率は悪いが簡単な紋様を描き起動させる。

 左腕のリリアを固く抱きしめると右方から生みだされた圧力により体が強制的に押し出され進路上から退避するがハルバードが右手から零れ落ち焼けた地面に突き刺さる。

 武器を失い地面に背中から落ちたグレイの眼前には長い首を180度曲げて大口を開く竜の姿。突進しつつも予備動作が完了していたのか今まさに火を噴く寸前だ。

「んっ」「きゃああ!」「危ない!」

 リリアはしがみ付きアリエッタは目を瞑りフレイは叫ぶ。

「素晴らしい」

 しかし竜の口から炎が吐かれることは無かった。

「実に合理的で綺麗な魔法だ」

 グレイは仰向けのまま竜を、いや目には見えぬ竜の編んだ魔法回路を見る。

「だが残念だ。その理論(ロジック)、見切った」

 楽しそうな満面の笑み。竜は予想外の事態に硬直したように動きを止める。

「火を生み出すには3つの要素がいる。それは空気、燃焼物、そしてはじめに燃え出す為の熱だ。」

 ゆっくりと身を起こし右手でリリアの頭についた砂を払う。

「そしてこのブレスというのは進行方向及び指定範囲にこの世界の何らかの物質に作用しそれらを生み出しているのだろうね。この中でも熱は防ぎにくい。簡素かつ綺麗に編まれた魔力からエネルギーへの変換装置はなかなか丈夫で解体するのは困難だ。そしてエネルギーと熱は近い関係にありその装置もまた簡素かつ丈夫。」

 右手をついて立ち上がる。

「空気はここにあり考える必要は無い。ならば一番干渉しやすいのは燃焼物だ。今の自分にはその燃焼物がいかなる物性をもつものなのか理解できないが……それでも最も強引に法則に干渉し作られたものだろうし現にそこの紋様はかなり細く、複雑だ。」

 立ち上がり開いた右手を竜の喉奥に向けるように突き出す。

「複雑ということは壊れやすいということ。そこの糸をこちらの糸で少し乱してやれば魔法は生まれない。一つ歯車を乱せばカラクリは動かない。」

「ん、なんかグレイ、ノリノリ」

「そうとも!こんな綺麗な魔法を見て、そして使う。実に素晴らしいじゃないか!」

 朗らかに笑うグレイにリリアも微笑み返す。

「お返しだ。君を構成するボディーは本当は何度まで耐え切れるのかな?」

 ブレスの装置を模倣、燃焼物に関する装置を改修。糸は既に紋様を描き終えている。

「ふむ、本日の昼食はドラゴンステーキ、いやローストかな」

「トカゲの黒焼き」

「そりゃ不味そうだね」

 右手より生まれた炎は口内を蹂躙し竜を内側から焼いていく。

 鎧のような固い鱗ではなく柔らかな内側から侵された竜は断末魔の叫びもあげずに大地に臥し、口から黒い靄を出しつつ萎んでいく。

 しかしグレイはそれに目を向けることなく考えに没頭する。

「やはり悪魔と魔法には関連がある、のか?」

 グリーンドラゴンのブレスは確かに魔法を使っていた、これが何を示しているのか……現段階では分からないが重要なファクターだろう。

「グレイ!前!」

 リリアの叫びで現実に意識が戻され目の前の風景に一瞬硬直する。

そこには体を崩壊させつつも口からブレスを吐こうとする竜の姿。しかも一人でも多く、確実に人間を殺したいのか負傷しているフレイと傍にいるアリエッタを攻撃範囲内に収めている。

「っ!?」

 自分の判断の甘さと行動の遅さを呪いつつも糸を伸ばすが

多重(マルチ)起動(タスク)か!?」

 もう消えることが決まっているのならば、体が崩壊する攻撃も厭わないというのか。ブレスの魔法を同時に複数個発動している。

「くっ」

 糸を絡ませ片端から装置を崩していくが発動まで残り幾許も無い。

 竜の目的に気が付いたアリエッタが慌てて矢を放つが竜の鱗に弾かれ損傷を与えられない。

「後一つ!」

 後一箇所燃焼物生成の部位を乱せば止められるが、間に合……わないか!?

 竜を睨む。こちらを横目に見る竜の顔は喜悦に歪んでいるように感じられる。だが次の瞬間

「グギェッ」

 巨大なハンマーが飛来し崩壊しかかった竜の頭部を砕く。

「ふはははは!助けに来たぞ!グレイよ!」

 驚きと共に振り返ると全身から汗を吹き出したサッカがそこにいた。どれだけ常人離れした怪力か、ハンマーの飛距離は優に30mを超えている。フレイもアリエッタも真後ろのサッカに今まで気づかなかったのか目を丸くしている。

 口を塞がれた悪魔は今度こそ沈黙し急速に体が崩壊し、霧散した。

「ナイスタイミングだサッカ、いいとこ持って行かれたな」

 三人のところまで駆け寄り拳を突き出す。

「ふはははは!油断しすぎだぞグレイ!」

サッカも応じ拳同士が小さく音を立ててぶつかる。

「グレイ、サッカ、二人とも助かった。ホントにありがと!」

 拳を突き合わせた2人にフレイは何とか体を起こすと勢いよく頭を下げる。

「ああ、無事で何より」「ふはははは!」

「それから、リリアさんもありがとう。リリアさんが守ってくれてなかったらアタシはとっくに死んでたよ。ホントありがとね!」

「……ん」

 リリアにも顔を向け感謝するフレイに少し居心地が悪そうにもじもじしていたが顔を紅潮させ小さく頷いて返す。

「おお!フレイを助けてくれたのか!我からも礼を言うぞ!今までいつもむっすりしている子供と思っていたがいい奴じゃないか!ふははははは!」

「むぅ」

 貶されているような褒められているような微妙な気分となる。

「そうだな、よくフレイを守ってくれたな。ありがとう……うん、これは借りが出来てしまったようだな」

「ん♪」

 フレイの柔らかな髪をわしゃわしゃと撫でると気持ちよさそうにリリア微笑んだ。

「……グレイさん、いつまでその子を抱いてるんですか?」

 なにやら不機嫌そうな様子のアリエッタだがその言葉にはもっともだ。

「おお!確かにもういいな」

 確かに悪魔を倒した以上もう抱いている必要は無い、リリアをゆっくりと降ろす。

「あ……」

「ん?どうした」

「……なんでもない」

 プイ、とそっぽを向くリリアに首を傾げるグレイだがリリアの視線がアリエッタの方を向いていることに気づくととりあえず紹介をする。

「ああ、彼女班員のはアリエッタ。ここまで俺を乗せて馬を走らせてくれた、なんとか間に合ったのも彼女のおかげだ……そういえばまだ俺も礼を言ってなかったな。危ないことに付き合わせて悪かったね」

「いえ、同じ学校の人を助けるのは当然ですし……そ、それにグレイさんの為でしたら。」

 少し顔を赤くしながら微笑むアリエッタにリリアの耳が猫のように反応する。

「そう言ってくれると嬉しいもんだな。リリアも礼を言っておけ。」

「……アリガトウ」

「……どういたしまして」

 なにやら気温が下がったような気がしたが、まあ気のせいだろう。まずやるべきことをやらなければ。


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