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5-11

「……にゃー、リリアさん。ちょっといいかにゃ?」

「何?」

「これは、かな~りやばい状況かにゃ?」

「多分」

 悪魔は障壁を破壊する事を優先することにしたのか巨体を叩きつけるかのように障壁に体当たりしている。リリアによる修復よりも速く崩壊していく障壁、それに守られ何とか生き延びている二人の少女の命はまさに風前の灯だ。

「な、何とかならないにょ!?」

「ん、無理」

 今現在障壁の再構成に割いている魔力を他に回そうとでもいうのならばすぐにでも障壁は崩され二人は悪魔の巨体に潰されてしまうことであろう。

「でもこのままだと!」

「ん、もうすぐ突破される。」

「にゃ~!もうすぐって具体的には!?」

 んー、とリリアは無表情に思案する。

「あと20秒くらい?」

「へ!?それじゃ、もう、私たち……」

「終わりかもしれない。クも疲れて魔法の精度が著しく低下しているし」

 絶句して固まるフレイ。しかし申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「ごめん、私が足に怪我しなければ……」

「謝る必要は無い、ここに残ったのはボクの判断。少し後悔してるけど」

「後悔……うう、ほんとごめんにゃ~、死にたくないよね……」

「違う」

 死にたくないという考えも勿論あるがそれは自分で決めたことであり仕方が無い。それよりも問題なのは

「グレイは多分来る。そのときボク達が死んでいると彼が悲しむ」

「うわぁ、ホントにグレイが好きなんだねぇ……ああ、そういやサッカも来るだろうし。うう、ほんと自己嫌悪だにゃ……」

「……あ、大丈夫」

「へ?」

「グレイの匂いがする」

「匂い!?」

 そう言って振り返るリリアの口元には微笑が浮かんでいる。フレイもつられて後ろを見ると小さな影がこちらへ向かってきているのが確認できた。

「あ」

 悪魔も新手に気が付いたのかさっき以上の勢いで障壁を削っていく。もう幾許持つかも分からないほど障壁の光は微かなものになっている。

 リリアは久々に障壁を張る魔法以外の詠唱を早口で行う。

「野を分け吹き荒ぶ疾風、今一時この道を走らん『一陣(ガスト)の(オブ)(ウィンド)』」

「な、へ?……んにゃ~!」

 リリアが前触れもなく魔法を唱えると強烈な突風が少し離れ倒れているフレイの体を砂埃を上げながらも強引に後方へと転がしていく。

その最中、フレイはリリアの様子を確かめようと目に入る砂をもろともせずに目を見開く。フレイを逃したために修繕されなかった魔法障壁は一瞬強く発光したがすぐに光は消え失せた。

遠ざかるリリアは笑みを浮かべてこちらの方向を見ていたが、フレイはその笑みが自分に向けられたものではないと感じた。その表情には恐怖の片鱗すら感じられず、ただ本心から微笑んでいるとしかフレイには形容できなかった。

全力で疾走する馬上、まだ遠い風景とはいえその様子は十分に確認できた。障壁の消失、迫る悪魔の巨躯、地面を転がるフレイ、微笑むリリア。

「間に合わない!?」

 巨大な悪魔は為す術無く立っているリリアを叩きつぶさんとその両手を掲げる。

「グ、グレイさん!どうします!?「フレイを頼む!」……って、ええええ!?」

 


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