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ハルバードを回収すると緊張から開放され地面に倒れた3班の班員の下へと駆けつけた。
「た、助かった……あんたらのおかげか、ありがとう。」
3班の班長なのか騎士学部の学生が身を起こした。
「何、気にするな。それよりそちらの状況は?」
「何人か骨が折れていたり、打ち身で動けなかったりするが……おそらく命に関わる怪我は無いと思う。」
「俺は救難信号を見てここまで来たんだが……見たところ2人ほど班員が足りないようだね、何があったんだい?」
辺りを見回しつつ聞くグレイに3班班長は頭を抱え体を震わせる。
「……さっきのとは比べ物にならないくらいデカイ竜がいきなり、そう、いきなり空から襲ってきて、それで」
「仲間を見捨てたんですか!?」
アリエッタの責めるような声に焦げて穴だらけのローブを着た男が身を起こし苛立ちを隠さずに怒鳴る。
「知るかよ!テメエは見てねえからそんなこと言えるんだ!たかだか女二人命掛けて助けに行けっかよ!あれは正しい判断だったんだ!」
「うーん……君は確か同じクラスだったね」
「へっ、そうだよ!おちこぼれの奴と才能を鼻にかけてムカツク奴が死んで、それでどうって言うんガッ!」
最後まで言わせずにグレイの蹴りが顎を打ち抜いた。口からは折れ砕けた歯が飛び散り草原に広がる。歯が地面に落ちると同時に男は気絶し大地に倒れた。
「グ、グレイさん!?」
「うん。確かに君の判断は間違っていないのかもしれないね……しかしそれを、仲間を見捨てて逃げたという事実を正当化することは許される事ではないと思うよ。」
いつもと同じ笑顔であるはずだが、どこかぞっとする表情でグレイは蹴った男に微笑んだ。
それを見た班長の学生はさらに震え、小さく、そして泣きそうな声で言う。
「……二人には悪かったと思っている、しかし逃げなければ全滅していた可能性が高い。仕方が無かったんだ。とても許してくれとは言えないが……」
グレイはその姿を見ると無言で馬に飛び乗った。
「グ、グレイさん!どうするつもりですか!」
「ん?そりゃ助けに行くのさ」
簡潔な答え、一片の躊躇いすら感じさせない。
「そんな!無謀ですよ!私達が行ってどうなるというんですか!?」
「うーん、知らんねぇ、そんなことは。それにそれはどうでもいいことだしね」
「え?」
グレイは面倒くさそうに頭を掻く。
「仲間なんだよなぁ~。だから行かないといけない。君はここで待っていてくれればいい。これは俺の我が侭なのさ」
「……」
「あ、そうだ」
グレイは俯いている3班の班長を見る。
「君の名前を教えてくれないか?」
「え?ああ、セルゲイだ。セルゲイ=マティス」
「そうか。セルゲイ、君の判断は班長として決して間違ってないと思うよ……それに俺だって知り合いじゃなければ見捨てて逃げていた可能性が高いしね。」
俯いて震えていた3班班長は意外な言葉に顔を上げる。
「そもそも中級竜魔なんて普通学生でどうこうできるレベルじゃないさ。直に4班の後続がこっちへ来てくれると思う、それまで周囲に警戒して待っていてくれ。」
いつもの口調でフランクに肩を叩くグレイにセルゲイは改めて頭を下げる。
「……すまない」
「はは。だから気にするなって……さて、俺はそろそろ行くとするか!」
手綱を持とうとしたグレイだがその寸前にアリエッタが鐙に足をかけ馬上に登ってきた。
「私も行きます」
「いやそれは危険だ。それにさっき言ったようにゅい」
グレイの口はアリエッタの手で抑えられた。
「これは私の我が侭です。友達のグレイさんの為にしてあげたいことなんです。それに、急がないといけないんでしょう?じゃあとっとと行きますよ!」
アリエッタのどこか吹っ切れたような笑顔に一瞬呆気に取られたグレイだが
「…はは、ははは!」
グレイは普段の少し道化た態度ではなく大声で、心から楽しそうな声で笑う。一頻り笑うと普段の表情に戻るが口元は未だ愉快そうに笑みを作っている。
「くく、よし、では行こうか!」
「はい!」
力強く頷くアリエッタに頷き返すと前を向いたアリエッタは危険な悪魔のいる場所へと躊躇う事無く馬を向かわせた。




