5-9
ワイバーンは上空から急降下すると尻尾やその羽で3班の生徒を打ち据え、また再び上昇していく。生徒達は全員生傷や痣だらけで立っているのもやっとという状態だ。特に盾を構えた騎士学部の学生が矢面に立っているのか持っている盾はへしゃげてぼこぼこになっている。
「ひどい……」
その惨状にアリエッタが思わず目を見開き呟く。対照的にグレイはいつもと変わらぬ表情を浮かべ悪魔を見て何かを考えている。
「うーん、安全域からの一撃離脱戦法、確かに有効だが……悪魔にしては消極的だな。竜魔だからなのかそれとも……」
馬はその間も走り続け生徒の苦悶の表情が遠目にも見えるようになるまで接近する。
「アリエッタ!馬を止めてくれ」
「え?は、はい!」
このまま救援に駆けつけるものだと思っていたアルエッタは一瞬戸惑いを浮かべたがグレイの指示に従い低木の傍で馬を止める。
「どうしたんですかグレイさん!急がないとあの人達が……」
焦った様子で言うアリエッタの口を手で押さえてグレイが小さく笑いを浮かべる。
「ふむ、真上からの急降下、普段から真上なんてなかなか見ない人間にとっては厄介だろうね。だけど」
体力が尽きたのか片ひざをつく一人の生徒目掛けてワイバーンが急降下する。
「おい!上だー!」
「わ、うわあああ!」
狙われた生徒は必死で逃げようとするが体は動いてくれずに上も見た姿勢のまま仰向けに倒れてしまう。大きくなって迫るワイバーンの影に手を前に突き出し目をつぶり絶叫する。
「わああああああ!」「『サンダーボウ』!」「キシッ!?」
急降下するワイバーンは突如として横から飛んできた雷撃に翼を射られてバランスを崩しドスッという音と共に頭から大地に叩きつけられる。200kg以上はあるであろう質量は落下のエネルギーと相まってワーバーンを襲い長い首が折れたワイバーンはピクリともせず沈黙した。
「少し離れて見れば良い的だよなあ……よしアリエッタ、馬を出してくれ。」
「は、はい!でもいいんですか?今と同じようにやればもう一匹も……」
グレイは小さく首を振る。
「流石に二度同じ手は使えないよ。それにあちらさんもこっちに向かってきたしね。」
ワイバーンは疲れきった相手よりもこちらを脅威と見なしたのか高度を落として向かってくる。
「ええ!?ど、どうするんですか!」
「よーし!こちらも突っ込むぞ」
「ええ!?そんな!」
「大丈夫大丈夫!君の馬術を信じている!」
「そ、そんなこと言われても!」
「さあ敵は待ってくれない。行くぞ!」
「う、わ、わかりましたよ!でもしっかり守ってくださいね!」
やけくそになりながらも脅える馬をなだめアリエッタが馬を走らせる。その様子を満足そうに見るとグレイはハルバードを槍投げの姿勢で構えつつ詠唱を始める。
呼応するように地面ギリギリを飛びワイバーンが大口を開け向かってくる。その口内に見えるは何本もの鋭い牙と細長い真っ赤な舌。
空を翔る飛竜と馬が激突する直前。
「『ファイアボール』!」
グレイの放つ火球がワイバーンに迫る。しかしそれを横にかわすワイバーン。それにより飛竜と馬はすれ違うような形となり互いの距離が限りなくゼロに近くなり、そして離れる。
アリエッタはワイバーンの姿を追いUターンさせるがその目に飛び込んできたのは上昇することなく地面を削り倒れたワイバーンの姿であった。
「え!これは!?」
「おお、上手くいったな」
「グ、グレイさん!?」
「アリエッタ、落ち着いてよーく見てくれ」
グレイに言われ目を凝らすアリエッタ。
「あっ!」
地面に倒れるワイバーンの口からは長い棒が出ており、首の半ばからはハルバードの磨かれた槍先が顔を出していた。
ワイバーンは傷口から黒い靄を出し徐々に萎んでいった。




