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5-8


 草原を疾走する一騎の人馬、しかし一匹の馬の上に乗るのは二人の人間であった。小柄な少女が前に座り手綱を持っており彼女に密着するように大柄な男の姿がある。

 二人はまず馬を置いておいた場所まで戻ると馬車から二人乗り用の鞍と鐙を出し付け替えた。そして3班を助けにいざ出発というところで問題が起きた。

 二人乗りを行うときは後ろに乗る人が手綱を持つのであるがそれにはあまりに体格差がありすぎた。グレイはやはり一人で行こうと提案したが。

「いえ!乗馬は任せてください!」

 やはり役に立ちたい。ではどうするのかという問いに対して。

「あ、あの私が前で手綱を取ります。ですからグレイさんは、その、私が一人で乗っているように、か、体をく、くっつけてください!」

「よし、わかった」

 言われたとおりにグレイは背に体をくっつけると躊躇無く腰に手を回してきた。

「ひゃんっ!」

「ん?こうじゃないのか?」

 こちらの反応を見て何か間違えたのかと首を傾げる。

「い、いえ!それでいいです!いいんですけど……」

「ああ、持つところが悪かったのか?どこに手を回せばいい?」

 そう言い手を上下に動かすグレイ

「ひ、ひゃあっ!そこは、上過ぎますよ!あっ、あ、今度は下過ぎ!さ、最初のところでいいですから!」

 そ、そこは違う!上すぎる!あ、ちょっと当たってしまった!わわ、今度は下過ぎる!それ以上は危険だ!

「そうか、わかった……それにしても細い腰だな、ちゃんと食事は取っているのか?」

「え!?そ、そうですか!」

 腰が細いと言われて悪い気はしない。顔を緩め少しだけ普段の訓練に感謝する。

密着し包まれるような形なった体は大きさと温かさのせいか不思議な安堵感を与える。今まで男性と触れ合う機会も多く無く、このような事態は予想してもいなかったが不快感は感じず、むしろ心地よくさえあった。

「ではそろそろ行こう、あっちが心配だ」

 真剣なグレイの声にはっと顔を引き締めると手綱をしっかりと握りしめる。

「はい!」

 元気よく返事をするとアリエッタは拳を当てて馬に意思を伝えた。

 

平原であったことが幸いし特に障害も無く風を切って馬は疾走していた。

それでも整備されていない平原は大きな石やまばらに生えた木、段差などの障害物があった。しかしその度にアリエッタは巧みな体重移動、手綱捌き、舌鼓などを用い速度を落とすことなく馬を走らせていた。

「ほう、上手いものだ」

 感心したように言うとアリエッタは前を向きながら話す。

「馬は昔から好きなんです……人間みたいに差別したりしませんし」

 アリエッタは優しく馬を撫でる。

「……」

「あ、もちろんお兄様や、その、グレイさんは別ですよ!お話を聞いてもらえましたし、悩みも解決してもらいましたしとても感謝してます……ちょっと乱暴でしたけど」

「ははっ、役に立てたのなら何よりだ。まあこれからは悩みがあれば身近な人や友達に相談すればいい」

「友達、ですか」

 アリエッタの表情に少し影が差す、後姿しか見えないグレイには見えなかったが。

「……一応そう呼べる人もいると思いますが、私が一応貴族出身と知ると普通の人は少し距離を置いてしまいますし貴族の人は私の学部を知ると見下したように私を見ます……グレイさんはお兄様やサッカさん達と友達と聞きましたが、友達とは何なのでしょうか?」

 ぎゅっとアリエッタに回した手を締める。本音を話せない者は友達ではなく知人に過ぎない。

「え!グ、グレイさん!?」

「考えすぎだ。これは俺が先生から聞いた話だが……昔俺はやりたくはないけどやらなくてはいけない、違うな、やったほうが良い事があった。やった方がいい事なのはわかってはいるがやりたくなかった。どうしようかと迷っているときに先生は言った『君はそれをやらなかった時の事を想像してごらん、後味が悪くないかい?やった時のことを想像してごらん、どんな気分かな?』ってね。それから俺は物事をやった時、やらなかった時を想像して後味が悪そうだったら動くことにした」

「え?それが友達とどういう関係が……」

「そう焦るな。つまり案外物事は単純ってことだよ。先生は友とは何か、ということについてこう言ったんだ。『一緒にいて無理なく居心地がいいのが友達、気を使うのが知人、あとは唯の顔見知りだよ。当然君は私の友人だがね。』」

「……」

「簡単なことだろ、一緒にいて居心地がいいのが友達。あいつらと一緒の時、俺に不快感は無く楽しい。まあ当然だがあのモヤシキノコと一緒にいれば腹が立つし居心地が悪い。そんなもんだよ」

 笑いながら話すグレイにアリエッタは少しの間何かを考えていたが、小さく口を開いた。

「わ、私は、グレイさんといると心地良いです。」

 顔を赤くし消え入るような声であったがグレイはしっかりと頷いた。

「そうか、それは光栄だな……くくっ、俺も気持ちいいぞ」

「え?」

 腰に回す手に力を入れる。

「小さくて柔らかい身体」

「ふえ!?」

「サラサラの髪」

 風にたなびくツインテールに頬を当てる。

「え!ええ!?」

「それに、うん。男の汗臭さとは違って悪くない匂いだ、柑橘系みたいだな。香水か?」

 首元に顔を近づけ音を立てて息を吸う。

「ひゃあっ!や、やめて下さい!さ、さっきの戦いで汗もかいたんですよ!」

「そうか……うむそれもまた悪くないね!」

 すーはーと息をし続けるグレイにアリエッタが叫ぶ。

「さ、さっきのは取り消します!やめてください!え、えっちですよ!」

 ぷりぷりと怒るアリエッタに顔を離して笑う。

「はっはっは、すまないね。君の反応があまりに可愛くてつい魔が差してしまったんだよ!」

「!?……もう!今回だけですよ!特別に許してあげます。そ、その友人、ですから」

「ははっ、ありがとう」

「……」

 まったく、この人は。どこまで考えて動いているのだろう?一緒にいて心地良いけれどもちょっと意地悪だ、それに変態チックだ。そういえばこんなふうにからかわれるのも初めてだな、そんなに悪くないけど。

 そんなことを考えつつ、しかし着実に馬を走らせる。

「!前に見えるのは人影か。……あれは!」

「え!ど、どこですか?あっ!何ですかあれは!?鳥?じゃない」

「竜魔!ほう、見るのは初めてだな。」

「り、竜魔って確かかなり危ない悪魔だって講義で聞きましたけど……」

 驚き脅えたようなアリエッタ。

「あれが低級竜魔『ワイバーン』か!腕と翼が一緒になっている、いやはや本で見た通りだな。確か火は吐かないしサイズも2mほどだが、それでも恐らくゴブリンなんて比較にならない相手だろうな。」

「ど、どうしますか!?」

 慌てふためくアリエッタの腰をぎゅっと締める。

「ふむ、まあまずは順当に追われている人を助けようか。近くまで寄ってくれ」

「はい!わかりました!」

 近づくにつれ米粒ほどの影にしか見えなかった姿が見えてくる。

確認できた悪魔は上空を旋回しているワイバーンが2匹。人間は4人程で武器を振り回したり火球を打ち上げたりして牽制しているがずいぶんと慌てているようだ……よく見ると5人ほどが大地に伏している、どの程度の負傷なのかはこの距離では把握できない。そして探している二人の姿はその中には見つけられなかった。


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