5-7
ギン!ゴン!ガッ!
生み出した障壁が軋む。
「はあ、はあ」
少しずつ、少しずつ体力が削られていく。
周囲には人影は無い、みんな逃げてしまった。この状況だとそれは間違ってはいないとはいえ。
「……『ファイアボール』!」
「グギィ?……グルルルル」
隙を見て攻撃を行うが硬い表皮に阻まれる。
「……っ!」
反対に相手の攻撃は先程展開したばかりの蒼く光る障壁をもう半壊させている。たった一人で勝てる訳が無い、けれども。
「硝子より澄み水晶より硬き壁よ。我が身を守る不可視の壁とならん。『バリアウォール』!」
壊された以上に厚く障壁を展開していく。悪魔の攻撃は防ぐことが出来る、しかしそれは魔力を代償として可能となっていて、それは有限だ。
しかしながら今すぐに魔力が尽きるという訳ではない、先天的な自分の魔力総量に感謝する。それよりも大きな問題は
「はあ、はあ……」
生命の危機という極度の緊張及び油断せず敵を見続け攻撃を防ぐという行為、これらによって著しく体力が削られていく。これには自分の体格と体力の無さを恨む。
ガガッ!と一段と激しい攻撃により障壁が大きく削られてしまい急いで修繕する。現在の状況ではいずれ精魂尽き倒れてしまうであろう。他の班員のように我先にと逃げていれば運がよければ逃れることが出来たかもしれない。
ちらりと後ろを見る。
「うう……」
そこには足に火傷を負いうずくまっている赤毛の少女がいた。少女がこちらの視線に気がついたのか痛みに顔を歪ませながら弱弱しく言う。
「リリアさん、私はいいから、逃げてよ」
「ダメ」
即答する。
「どう、して?私とリリアさん、あまり親しくもないのに」
困惑した顔で聞いてくるが答える必要も無い。むしろこちらに質問がある。
「フレイ、貴方はグレイの仲間?」
「え、グレイ?仲間?」
「答えて」
「あ、うん、私は、友達だと思ってるけど?」
小さく頷くフレイ。やはりグレイの仲間であったのか。
「貴方が死ねばグレイが悲しむ」
その言葉にフレイは唖然とするが顔に弱弱しく笑みを浮かべる。
「……あは、つまり私はグレイのついでかにゃ?」
「そうなる」
即答、考えるまでも無い。そうでなければ自分もとっくに逃げていただろう。
「う~ん、でもリリアさんがグレイと知り合いだったなんてにゃ~」
「仲間。ボクのただ一人の」
初めての仲間、かけがえの無い人。自信を持って言える。
「にゃはは、グレイもこんな小さい子に手を出すなんてねえ」
「む……」
小さいは余計だ、気にしているのに。それにこっちは守ってやっているんだ。
「うわ!小さいなんて言って悪かったからそんなに睨まないでよ」
「睨んでない、よく誤解されるけどこれが普通」
「うにゃ!?マジで?」
「……いいから少し静かにしていて」
とはいえ胸中では少しこの選択を後悔していた。確かにフレイが死ねばグレイは悲しむし自分が守り通せばよろこんで褒めてくれるだろうし少しぐらいの頼み事も断れないだろう。……例えば少しくらい、いつもよりも甘えたり、我が侭言ったり。
だがそれも自分が生きていなくては意味が無い。このまま死んでしまったら当然ながら二度とできない……残った体力では逃げることも叶わないだろうし今更どうしようもないが、少し甘い決断をしてしまった。改めて考えてみれば今回の行動はあまりにも無謀だ。それにグレイが来たところで生半可に勝てる相手ではないだろう。
……でもグレイならば何とかしてくれそうな気がする。絵画魔法を嫌い、理論を好む彼、でもどこか感情的な彼。自分とは見えている世界が違うのだろう。グレイが自分達のために来てくれるかの確信は無い……その時はまあ諦めがつきそうだ。
とにかく、今自分のすべきことはグレイが来るまで持ちこたえる事だけだ。




