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「ゴガアアアアアア!」
枝が折れ丸太のようになった木を振り下ろしオーガは迫るグレイを叩き潰さんとする。
力任せに振り下ろされた巨木にズシンと大地が揺れる。
寸でのところでサイドステップ、直撃すればおそらく頭蓋骨を砕かれ即死は免れないだろう。
足を止めない、走り続ける。不思議と恐怖は無い、目の前には簡単に人に死をもたらす豪腕の怪物が牙を剥いているというのに。ただ感じるのは目の前に敵がいること、そしてそれを叩き、潰し、粉砕したいといった破壊衝動。憎しみなどではない純粋な敵意と愉悦。
「ぬあああっ!」
木を叩きつけたままの姿勢で硬直している隙を逃さずハルバードを振り上げオーガの無防備な脇腹に叩きつける。
「ガアアアアアアア!」
斧刃は半分ほどめり込んだところで止まってしまったが予想の範疇だ。肉が刃を噛まないうちに素早くハルバードを抜きそのままオーガ右側面を通り後ろへと回り込む。即座に魔法の詠唱を開始する。
振り返ったオーガが再び木を構え今度は薙ぎ払おうと構える。だが予測済みだ。
「『ファイアボール!』」
オーガが握っていた部分に高温の火球が当たり木を焦がす。握る部分が欠落した木はオーガの手から抜けてグレイの横を掠めつつ飛んでいく。グレイはバランスを崩したオーガの足元に走ると振りかぶったハルバードを全力でオーガの足に叩きつけそのつま先を切断する。
「だらあっ!」
「グ、グオオオオオオオオ!?」
右足の指を失い完全に体制を崩したオーガはうつ伏せに倒れる。
「ふぬっ!」
「ガアアアアアアア!!」
間髪をいれず先程傷を与えた脇腹にハルバードを存分に突き刺し、捻る。オーガが苦悶の声を上げる、今が好機。だが背後に気配を感じ振り返ると悲鳴を聞いたゴブリン達がオーガを守ろうと駆けて来ている。
「行かせねえよ!」
だがライン達三人がそれを追い後ろから討つ。背後は彼らに任せて自分は目の前の敵に集中する。
ハルバードが刺さったままオーガはがむしゃらに暴れ回りその勢いに押されて柄から手を離して安全圏まで下がる。振り回す腕に当たれば人一人などあっさりと飛ばされてしまうだろう。引き抜け無かったことは失敗だが武器の回収に括る方が今は危険だと判断する。
丸腰となりオーガと距離を離したところにライン達が討ち洩らしたブラックドッグが迫る。
「させない!」
「キュイーン!」
サダリアを運び終え戦場に復帰したアリエッタの矢が首に刺さり力尽きる。
視線は敵から逸らさずアリエッタに向け片手を掲げ感謝の意を示すとオーガに刺さったままのハルバードに向けて魔法を放つ。
「天かける光、疾く速きものよ。轟音と共に駆け、貫き通せ!『サンダーボウ』。」
「グガッ!?ガガッ、ガッ!」
傷口から直接体内に流し込まれた電流によりオーガが煙を上げ倒れ伏す。
好機!一気に駆けて肉薄し動きを止めたオーガから足を掛けてハルバードを引き抜く。
「グ、グオオオオオ…」
「じゃあな、楽しかったぞ」
身動きが取れず呻くオーガの目に体重をかけハルバード突き刺す。
「ガッ!…グゥ……」
短い断末魔をあげ両手をピンと空に伸ばしたオーガだが直に脱力して傷口から黒い霧を出しつつそこに何も無かったかのように萎み、消えていった。それと同時に指揮官を失った悪魔達は混乱し動きを止める。
「……よし、全員今のうちだ!」
「「「うおおおおお!」」」
疲労困憊の班員達であったが動きを止めた悪魔達を次々と仕留めていく。残った敵はゴブリン7、ブラックドッグ8、アイアンアント18匹、数の上ではまだ不利だがただ闇雲に突っ込んでくるだけの悪魔ならば対処はそう難しくは無い。
「……この戦い、勝ったな」
勝利を確信し思わず呟くジャミル。
しかしそのときサッカが空を指差し大声を上げる。
「ぬ?あれは……緊急信号ではないか!」
見れば空に輝く光球が浮かび点滅を繰り返している。緊急信号とは緊急事態において救援を要請する為の狼煙のような魔法だ。
「あの方角は……3班か!」
オーガは倒した。そしてそれは強敵であった。その豪腕は人の力を遥かに凌ぎいかなる手段であるのか統率された悪魔は脅威であった。自分はその姿を見たときの感情を忘れないだろう。しかし……。




