5-3
グレイは顎に手を当てる……嫌な予感がする。そう、何かがおかしい。哨戒任務が始まり半年少し、その間に悪魔と遭遇したことは5回のみでありまだ経験は足りないと言えるだろう。しかし、何かがひっかかるのだ。
落ち着け、グレイはかつて先生と呼んだ人間の言葉を思い出す。
『物事をありのままを見るんだ。常識、先入観は目を曇らせる。君が見つけられなかった些細な違いは実はとても大きな違いかもしれない、まずは全てを疑うことだよ。』
違い、常識……!
「ジャミル!奴らの動きがおかしい!追うのを止めさせろ!」
前方にいるジャミルに届くように大きく声を出す。
「……一体どうし……っ!?」
初めは怪訝そうな顔をしていたジャミルだがあることに気づき思わず声を上げる。
「ぬう!?どうしたグレイ?」
サッカはグレイの様子に気がつくと足を緩める。
「……全員止まれ!追うな!」
叫ぶジャミルであるが足を止めたのはグレイ、サッカ、そして突然の命令に困惑するサダリア、アリエッタだけであった。他の班員は興奮していて聞こえていないのか無視しているのか敵を討たんと追い続けている。
そう、おかしいのだ。今までも、昨晩もそうであったのだが……そうだ、そうだった。
今までの悪魔は一度として逃げたことがなかったのだ。
普段ならば例え最後の一匹となってもただ人間を殺さんと立ち向かってきた悪魔が初めて背を見せて逃げている。獣や人間同士の争いであれば逃げるという行為は普通だ、しかしながら悪魔が人間から逃げるという事態はまさしく異常であった。
最後の一匹となったブラックドッグが林に向かう。それを追うライン達だがブラックドッグは林に入る直前で反転し咆える。
「オオオオオオオオオオオオオオオン!」
突然のことに驚き思わずライン達は足を止めた。その瞬間
「「「「キシシシシシ」」」」
ボコッ、ボコッとした音と共にライン達を囲むように鋭い顎を持つ全長1メートル近い蟻、硬い外骨格を持つ下級蟲魔『アイアンアント』が地中から現れた。さらには
「「「グルルルル・・・」」」「「「ガアアアア!」」」
ゴブリンとブラックドッグ、合わせて30匹程が林から姿を現した。そして
「ゴギャアアアアアア!!」
鋭い歯を剥き出しにして現れたのは折れた木を担ぐ背丈が3メートルを超える青い皮膚の巨人、中級人魔『オーガ』であった。
「う、うわああああああああ!」
いきなり現れた悪魔に混乱し槍を振り回すトニー、しかしただ振り回すだけの槍が当たるはずも無く難なくブラックドッグが肉薄する。
「ひっ!」
とっさにしゃがみ回避するがそこにゴブリンが棍棒を振り回し迫ってくる。思わず目を閉じるトニー。
「ギャアアアアアアア……」
危ういところでラインが割り込み事無きを得る。他の班員も慌てふためき思うように武器を振るうことが出来ない。
「くそっ!何とかしてジャミル達と合流するぜ!ロッジとマルカで急いで後ろの蟻を倒せ!ハシント、トニー、時間を稼ぐぞ!とっとと立て!モヤシ!さっさと魔法を唱えろ!震えている暇はないぜ!」




