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我が敵を焼け燃え盛る火よ 進め怒れる心のままに 「ファイア・ボール」
絵画魔法、それはこの大陸で最も主流な魔法流派。
術者はまず無心となり描かれた絵を凝視する。そして自らの引き起こそうとする現象に対するイメージを固めた後に呪文を唱え、最後に魔法名を唱えることによりその魔法を発現させるというものである。
人間は誰でも大小の差は多少あるが魔力が存在し、誰でも魔法を使う素質が存在する。しかし魔法を発現させるためには極めて高い集中力と豊かな想像力が要求されるため魔法を使えるものは限られているといわれる。
この魔法方式は想像力さえあれば比較的簡単に魔法を使えるという利点がある一方術者のイメージによって発現が行われるために個人個人で効果に差が生じてしまう。
集団戦において重視されるのは一定の予測可能な損害を相手に与える、安定した効果を生み出すことだ。想像できないイレギュラーな行動により戦場が左右されるというのはよろしくない。かつて大規模な集団戦における魔法の効果の不均一が大きな問題として浮き彫りになった。
絵画魔法黎明期である170年前は個人が自らの気に入った絵や呪文を組み合わせ好きなように魔法を使っていたらしい。それは多彩かつ個性的な芸術でもあったが前記の理由で改める必要が生じた。そこで現在学校においては全員に同じ絵と呪文を配り、教師が実演して生徒たちの見本となりイメージを定着させる。生徒たちはそれを模倣することにより一定の均一な効果を持つ魔法を生み出している。
「はーい、それでは皆さん一列に並んでくださーい。はい、並びましたねー、それでは壁に立てかけてある的に向かって魔法を使ってみてくださーい。」
教師の声と共に生徒たちは一斉にカードを取り出し絵に意識を集中し始めた。
「ふはははは!!我が敵を焼けい!燃え盛る火よ!進めェ!怒れる心のままに!『ファイア・ボール』!」
サッカが耳が痛くなる程の大声と共に呪文を唱え杖を突き出す。先端からメロン大の大きさの火球が生まれ一直線に的へと……飛んでいかずに何故だか真横に飛んでいった。もちろんサッカの横は自分だ。